サスティナブルでヘルシーなうまい日本の魚プロジェクト

Sustainable, Healthy and “Umai” Nippon seafood project

サスティナブルでヘルシーな
うまい日本の魚プロジェクト

マダイ(和歌山県 瀬戸内海)

スズキ目、タイ科に属し、学名はPagrus major。体は左右に強く側扁して体高が高い。体は鮮紅色で、青い小斑点が散在し、尾鰭の後縁が黒い(赤崎 1984)。養殖や人工種苗放流によるものは、鼻孔に形態異常(通常はトンネル状につながる前鼻孔と後鼻孔が溝状につながる)が見られることがある(後藤 1986)。
赤崎正人 (1984) マダイ.「日本産魚類大図鑑」益田 一・尼岡邦夫,荒賀忠一,上野輝彌,吉野哲夫編,東海大学出版会,東京,172.
後藤正則 (1986) 養殖マダイにみられた鼻孔の形態異常について.栽培技研,15(1),87-88.

分布

北海道から沖縄島までの我が国周辺、東シナ海大陸棚域、渤海、黄海、朝鮮半島沿岸、済州島、台湾(林・萩原 2013)。マダイ瀬戸内海東部系群は紀伊水道、大阪湾、播磨灘、備讃瀬戸(山本・石田 2020)。
林 公義・萩原清司 (2013) マダイ.「日本産魚類検索 全種の同定 第三版」中坊徹次編,東海大学出版会,東京,957-958.
山本圭介・石田 実 (2020) 令和元(2019)年度マダイ瀬戸内海東部系群の資源評価, 水産庁・水産研究・教育機構

生態

寿命は15~20歳、3歳で50%、4歳以上で100%が成熟する。4月中旬~5月上旬に紀伊水道・大阪湾・播磨灘、5月中旬~6月中旬に備讃瀬戸で産卵する。産卵適地は水深30~70mの砂質底で、産卵適水温は16.5~21.5℃である。甲殻類、多毛類、尾虫類、魚類等を捕食する。 稚幼魚期には魚食性魚類に捕食される(山本・石田 2020)。
山本圭介・石田 実 (2020) 令和元(2019)年度マダイ瀬戸内海東部系群の資源評価, 水産庁・水産研究・教育機構

利用

刺し身や塩焼き、浜焼き、椀種、粕漬け、味噌漬け、煮物、あら煮、干物、でんぶなど、いろいろな方法で調理される(河野ほか 2000)。
河野 博・渋川浩一・多紀保彦・武田正倫・土井 敦・茂木正人 (2000) マダイの仲間.「食材魚貝大百科3イカ・タコ類+魚類」多紀保彦・近江 卓監修,平凡社,東京,102-1105.

漁業

小型底びき網、吾智網、小型定置網、釣り、刺網等で漁獲される。瀬戸内海における小底は、紀伊水道では15トン未満船、その他の海域では5トン未満船を使用する(水産庁振興部沖合課 1983)。マダイを漁獲する小底の漁法は、板びき網(オッタートロール、備讃瀬戸を除く)とえび漕ぎ網(ビームトロール)である。船びき網に分類される吾智網は、マダイを主目的にすることが多い。釣りは一本釣り、刺網は底刺網、定置網はつぼ網やます網と呼ばれる小型定置網である。
水産庁振興部沖合課 (1983)「小型機船底びき網漁業」,地球社,東京,638 pp.


あなたの総合評価

資源の状態

 本系群では、生態、生物特性に関する知見が明らかにされており、資源評価の基礎情報として利用可能である。定期的な科学調査は行われていないが、全体の漁獲量及び標本漁協における年齢組成と努力量データ等の収集が毎年行われている。複数のCPUE時系列を用いた資源評価が毎年実施されている。資源評価の内容は、公開の場を通じて有識者による助言を受けている。1970年以降の兵庫県瀬戸内海区の小底CPUEを用いて資源水準を区分したところ、2018年の資源水準は高位となった。直近5年間(2014~2018年)の兵庫県内2漁協(仮屋、沼島)のCPUE加重平均値の推移から、動向は横ばいと判断された。マダイの資源状態は高位・横ばい、小底の努力量は減少傾向であることから、現状の漁業の影響が大きいとは考えられず、資源枯渇リスクは低いと判断される。ABCの値が漁業管理方策には反映されておらず、環境変化や遊漁等の影響が存在することは把握されているが、それを考慮した漁業管理方策は提案されていない。



生態系・環境への配慮

 瀬戸内海においてマダイを漁獲する漁業による生態系への影響の把握に必要となる情報、モニタリングの有無に関して、情報の蓄積については、各府県の水産試験研究機関、及び水産研究・教育機構が長年に亘り海洋環境、プランクトン等に関する調査、評価対象種であるマダイの生態・漁業についての調査・研究を行っている。海洋環境及び漁業資源に関する調査が水産機構の調査船によって毎年実施されている。ただし、行政機関により県別・漁業種類別・魚種別漁獲量等は調査され公表されているが、混獲や漁獲物組成に関する情報は十分得られていない。
 評価対象種を漁獲する漁業による他魚種への影響について、小底による混獲利用種については、かれい類、えび類、いか類、たこ類、タチウオとしたが、いずれの種(類)も漁獲量は長期的に見て減少傾向を示している。吾智網ではクロダイ・ヘダイ、スズキとしたが、長期的に見てクロダイ・ヘダイの漁獲量は横ばい、スズキは減少傾向を示していた。小型定置網の混獲種は多様度が高いと考えられるが、漁獲量が多いマアジ、ブリ、スズキとしたとき、マアジ、スズキの資源状態が懸念される、もしくは減少傾向にあった。混獲非利用種として小底はヒメガザミ、ヘイケガニ、イヨスダレガイ、オカメブンブクとしたが、総合的なリスクは中程度であった。吾智網では小型の生物は漁獲されにくいと考えた。小型定置網では詳細は不明であった。対象海域に分布する希少種のうち、アカウミガメに中程度の影響リスクが認められたが全体としては低いと考えられた。
 食物網を通じたマダイ漁獲の間接影響については、マダイの捕食者をヒラメ、あなご類、えそ類、アイナメとした。あなご類は減少傾向、えそ類、アイナメは情報不足であったが、被食者であるマダイが横ばい、ないし増加傾向であるため捕食者に餌不足が起きている懸念はないと考えられる。瀬戸内海における未成魚期、成魚期マダイの餌生物は、あみ類が最も多く、ほかに海藻、短尾類、多毛類、貝類等である。これら小型無脊椎動物、植物の豊度に関するデータは得られていないが、マダイの漁獲量は安定しているため、餌生物への捕食圧が定向的に大きく変化していることは考えにくい。マダイの競争者と考えられるのは、小型甲殻類、ベントス食性を持つかれい類と考えられる。かれい類は長期的に見ると減少傾向であるが、マダイは横ばい、ないし増加傾向を保っており両者の漁獲量には有意な負の相関がみられた。このことは、マダイの増加が、餌を巡る競争を通じてかれい類減少原因のひとつとなる可能性があることを示している。
 漁業による生態系全体への影響については、2014年以降、瀬戸内海区において総漁獲量及び漁獲物平均栄養段階(MTLc)が低下しており懸念が認められた。海底環境への影響は、MTLcの変化幅は小さく、影響は認められなかった。水質への影響については、対象漁業からの排出物は適切に管理されており、負荷は軽微であると判断された。小底漁船による大気環境への影響については、排出量が中程度と判断した。



漁業の管理

 各県の小底は資源回復計画により休漁等の漁獲努力量削減に取り組み、それらは2011年に策定された資源管理指針に引き継がれた。吾智網、刺網、小型定置網も資源管理指針において休漁に取り組んでおり、いずれもインプット・コントロールは適切に実施されている。テクニカル・コントロールについては、公的規制のほかに自主的な規制で小型魚保護に取り組んでいる。これは種苗放流効果を高めることにも繋がっている。着底漁具である小底は藻場、保護水面等での操業は禁止されており、資源、生態系、環境保護のための措置が講じられている。各県漁業者、漁業者団体は、漁場環境の改善に取り組むほか、操業中に入網した海ゴミの持ち帰りや森づくり活動等に取り組んでいる。
 本系群は瀬戸内海東部に分布しているが、複数の県がまたがる資源の管理は瀬戸内海広域漁業調整委員会がカバーする体制が確立している。漁船操業の監視は県の取締当局、水産庁漁業取締本部神戸支部が行っている。サイズの確認等は水揚げ地の漁協、地方卸売市場で可能である。関係省令、各県漁業調整規則、海区漁業調整委員会指示等に違反した場合、漁業法、各県漁業調整規則の規定により有効な罰則規定が定められている。各県の資源管理指針に基づく自主的な資源管理計画について、資源状態に合わせて順応的に管理施策を更新できる体制が採られている。
 対象漁業者は地域の沿海漁業協同組合あるいは漁協支所に所属し、漁業者が特定できる。各県の資源管理指針に基づく資源管理計画では公的な規制を上回る自主規制が策定され働いている。各県漁連や漁協は共販や地域ブランドの立ち上げ等を行い水産資源の価値を最大化している。漁業関係者は自主的な資源管理に主体的に参画するための活動を行っており、各漁業の公的管理を策定する場である各県の海区漁業調整委員会、瀬戸内海広域漁業調整委員会等にも主体的に参画している。これらの委員会には幅広い利害関係者も参画している。資源管理指針では、策定後4年を経過した翌年度に資源管理協議会において資源管理措置の適否を評価し、その結果を踏まえ資源管理計画の目標、管理措置を見直し漁業者及び関係団体へ周知徹底するとされているが、漁業者及び関係団体が資源管理協議会における意思決定のプロセスに参画できていないと思われる。第7次栽培漁業基本計画においてマダイが選定されている県では、受益者に応分の負担を求める、あるいは応分の負担を受けることを検討する等とされている。



地域の持続性

 本系群は、小底(和歌山県、兵庫県、岡山県、香川県)、吾智網(兵庫県)、刺網(兵庫県)、小型定置網(香川県、徳島県)で大部分が獲られている。漁業収入は中程度で推移し、収益率のトレンドは高く、漁業関係資産のトレンドは低かった。経営の安定性については、収入の安定性は高く、漁獲量の安定性はやや高かった。漁業者組織の財政状況は高かった。操業の安全性はやや高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買受人は各市場とも取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。卸売市場整備計画等により衛生管理が徹底されており、 仕向けは高級食材である。先進技術導入と普及指導活動は概ね行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準はやや低かった。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、伝統的な加工技術や料理法がある。



健康と安全・安心

 マダイには、タウリンが多く含まれている。タウリンはアミノ酸の一種で、動脈硬化予防、心疾患予防等の効果を有する。魚介類のなかでもタンパク質含量の多い魚である。タンパク質は、筋肉等の組織や酵素等の構成成分として重要な栄養成分のひとつである。旬は、豊富な餌を食べて脂がのった秋である。利用に際しての留意点は、アニサキス感染防止である。アニサキスは魚の死後、時間経過にともない内臓から筋肉へ移動するため、生食には新鮮な魚を用いること、内臓の生食はしない、冷凍・解凍したものを刺身にする等で防止する。
引用文献▼ 報告書