サスティナブルでヘルシーなうまい日本の魚プロジェクト

Sustainable, Healthy and “Umai” Nippon seafood project

サスティナブルでヘルシーな
うまい日本の魚プロジェクト

海洋環境と生態系への配慮

アオギス(大分県 瀬戸内海)

操業域の環境・生態系情報、科学調査、モニタリング

 対象となる大分県中津干潟は瀬戸内海西部周防灘に属し、重要港湾中津港を挟み、10km の海岸線、 1,347ha の面積を持つ広大な干潟である。中津干潟はカブトガニを始めアオギスなど希少生物が棲息し、ノリ養殖、アサリ・キヌ貝などの採貝業が行われている。しかしアサリは昭和 60 年、61 年と全国1位を誇っていたが、現在は大きく減少している。干潟に挟まれて位置する中津港が平成 11 年に重要港湾になり、港の拡張整備の浚渫土砂を使っての覆砂(エコポート)事業が、干潟の大新田地区に計画されたことが中津干潟保全の取組みの契機となった。この計画に対して干潟生態系への影響が懸念され、地元の市民団体である「水辺に遊ぶ会」から協議の場の設置要望があり、県は平成 12 年に「中津港大新田地区 環境整備懇談会」を設置した。地元における十分な合意形成が当時の課題であり、一般公募も含めた 27 名(委員)体制の懇談会では、工夫された会議方式のもとで活発な協議が行われた。結果としてエコポート事業は白紙となったが、この懇談会の体制は、住民の関心が高い舞手川河口域の高潮対策(別事業)にも引継がれ、平成14 年に設置された「大新田地区(舞手川河口)環境整備協議会」では、高潮対策だけではなく干潟環境の保全も考慮した護岸建設について協議が行われ、両方の要件を満たす工法が選定された。平成 17 年の護岸完成後も協議会は継続され、大分県や専門家、「水辺に遊ぶ会」などが協働して行った、護岸建設の影響把握のためのモニタリング結果等の情報が共有された。また、水産庁の水産基盤整備調査委託事業により流動場や基礎生産等の時空間の情報を総合的かつ定量的に評価できる生態系モデルの開発が行われ、中津干潟のアサリ浮遊幼生の分散についての試算がなされている。周防灘における生態系モデルEcopath with Ecosimも構築されており、我が国周辺では生態系に関する情報が比較的整った水域である。
 また、海洋環境及び低次生産に関する調査は浅海定線観測調査として、山口県、大分県、福岡県により定期的に実施されている。水産機構によって当該海域における調査も毎年実施されている。海洋環境や生態系に関する一通りの調査は定期的に実施されている。また、我が国周辺水産資源調査・評価等推進委託事業資源動向調査においてカレイ類の資源動向把握が該当漁業の標本船調査により毎年実施され報告されており、漁獲物組成等について部分的な情報を収集可能である。

引用文献▼ 報告書

同時漁獲種

 対象漁業で混獲される利用種はカレイ類(マコガレイ、イシガレイ、メイタガレイ)、コチ、スズキである。カレイ類、マゴチ、スズキについてPSA(Productivity Susceptibility Analysis)により検討したところ、対象漁業がこれら魚種に及ぼすリスクは、マコガレイ、イシガレイで中程度、メイタガレイで低。マゴチは中程度、スズキは低いと判断された。平均するとPSAスコアは2.76で混獲による悪影響の懸念性は低い。混獲非利用種であるアカエイについてPSAで検討したところ、対象漁業がアカエイに及ぼすリスクは高いと判断された(PSAスコア3.55)。混獲による悪影響の懸念性は高い。環境省が指定した絶滅危惧種のうち、対象水域と生息域が重複する種は、カブトガニが挙げられる。PSAで検討したところ、対象漁業がカブトガニに及ぼすリスクは低いと判断された(PSAスコア2.96)。混獲による他の希少種への悪影響の懸念性は低いが、アオギス自身が環境省のレッドリストの絶滅危惧種1A類(ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)に掲載されていることを考慮すると希少種の中に資源状態が悪く、当該漁業による悪影響が懸念される種が含まれる。

引用文献▼ 報告書

生態系・環境

 周防灘における生態系モデルEcopath with Ecosimで設定されたモデルの構成グループにおいてその食性からアオギスはSmall benthivorous fish(ネズッポ、ハゼ類)、カレイ類はFlatfish(カレイ類、ウシノシタ類)、マゴチはLarge benthivorous fish(エイ類、カサゴ類、フグ類)、カブトガニはSmall benthivorous fish、スズキはJapanese seabass、アカエイはLarge benthivorous fishに属すると考えられる。スズキはPiscivorous fish(ウナギ類、カマス、エソ、タチウオ)とならびモデル内のTop predatorと位置づけられている。漁法別の漁獲圧の変化により、構成グループの現存量がどのように変化するかをEcosimにより求めた結果 から判断すると、刺し網の1種である建網の漁獲圧の変化はほとんどの構成員の現存量にあまり変化を起こさせない。すなわち、生態系モデルベースの評価により、食物網を通じた捕食者及び餌生物への間接影響は持続可能なレベルにあると判断できる。
 建網漁業が周防灘の生態系全体に及ぼす影響はSICA(Scale Intensity consequence Analysis)を用いて評価した。建網が1回の操業で4km2が建網の影響が及ぶ面積であり、周防灘の面積は3805 km2で、単純に割り算をすれば、周防灘の面積に対し、建網漁業が空間的に一度に影響を及ぼす範囲は0.1%となる。この値は手順に従えば強度0.5(<15%)となる。建網の操業は通年で大分県の資源動向調査の標本船の操業日数は189に日であり、189日/年を漁業活動の時間スケールとした。この値は手順に従えば強度2(<=60%)となる。
 建網は栄養段階3.4~4.0のカレイ類、スズキが対象であり、目合の選択性を考えるとより小型の動・植物プランクトンには直接の影響を及ぼさない。また、対象魚種を漁獲することで低次の生態系の構造と機能に変化が起こる間接的影響についてはイカ類、タコ類を除いて見いだせなかった。周防灘において、建網操業が影響する面積そのものが海域に対し僅少なことから生態系への重篤な影響は考えられない。また、カレイ類やシャコについては資源の減少が著しいが、小型魚や混獲投棄の影響が大きい小型底びき網の影響の方がより大きいと判断される。
 周防灘において、カレイ類、シャコ、アサリなどの漁獲量の減少が続いている。シャコは建網の対象魚種ではなく、生態系モデルによる検討でも建網漁業が間接的にシャコの現存量に影響していることにはなっていない。アサリが属するベントスに対しても直接の漁獲対象ではなく、間接的な影響も出ていない。ただしカレイ類、頭足類については、建網漁業が影響する可能性がある。また周防灘において水温の経年的上昇が見られており、ナルトビエイの出現など、高温化の影響が推測される。現状で低位・減少など資源状態が懸念される魚種があり、生態系における地位と機能に変化の兆しが一部で見られている。影響強度は1.00と低いが、一部の機能群について、建網漁業に起因する定向的変化の可能性がある。対象漁業による影響の強さは重篤ではないが、生態系特性の変化や変化幅拡大などが一部起こっている懸念がある。
 建網は着底はするが、掃海する漁具ではない。建網漁業が周防灘の海底環境に及ぼす影響はSICAを用いて評価した。SICAにより当該漁業が海底環境に及ぼすインパクトおよび海底環境の変化が重篤ではないと判断できる。
 大気・水質環境へ及ぼす影響についてはいずれも軽微と判断された。

引用文献▼ 報告書