ビンナガ(静岡県)
スズキ目、サバ亜目、サバ科、マグロ属に属し、学名はThunnus alalunga。体は紡錘形。牙状歯はない。尾柄部は細い。胸鰭は著しく長い。第2背鰭と臀鰭は長い。全身は小円鱗におおわれる。体色は背面では暗青色、腹面は白色。尾鰭後縁は白色を帯びる。
分布
太平洋の北緯50度から南緯45度の広い海域に分布する。この海域には北太平洋と南太平洋の2系群が存在するとされている。これは太平洋の南北間で形態学的な差異があること、太平洋の赤道付近ではビンナガがほとんど漁獲されず赤道の南北をまたぐ標識再捕がほとんどないこと、産卵場が地理的に分離すること及び産卵盛期が一致しないことに基づいている。
生態
産卵は、台湾・ルソン島付近からハワイ諸島近海において水温が24℃以上の水域で周年行われている。5歳で50%が、6歳で100%が成熟する。最大尾叉長は雌がおよそ120cm、雄がおよそ110cmであり、寿命は16歳以上である。主要な餌生物は魚類、甲殻類及び頭足類である。サメ類、海産哺乳類及びまぐろ・かじき類によって捕食されている。
利用
生鮮及び加工品として利用されている。1990年代頃から生鮮用ビンナガの中で特に脂がのったものを「ビントロ」や「とろびんちょう」と称して販売されている。米国では、ビンナガは缶詰原料として古くから「海の鶏肉(シーチキン)」として賞味されている。
漁業
日本の竿釣り、流し網、日本と台湾のはえ縄及び米国とカナダのひき縄で漁獲されている。
はえ縄は、冬季には北緯30度の東西に広がる帯状水域で中・大型魚(尾叉長70 cm以上)を漁獲対象としている。春から秋の期間は北西太平洋で日本の竿釣り、北東太平洋で米国のひき縄の対象となる。竿釣りが対象とするのは小型・中型(尾叉長45~90 cm:2~5歳)である。
資源の状態
ビンナガは我が国周辺における重要水産資源であり、3年ごとに統合モデルにより漁獲物の体長頻度分布、漁獲量、資源量指数から漁法別の選択曲線、年齢別漁獲尾数、年齢別の個体数、産卵親魚量等の資源量が算出されている。解析に必要なデータについては、国の委託事業として水産研究・教育機構、及び関係都県により毎年調査され、更新されている。ビンナガの総資源量及び産卵資源量推定値は増減を繰り返し、産卵資源量は1971年と1999年にピークがあった。2008年以降は若干増加しており、歴史的にみて下位から中位の水準であった。限界管理基準値(漁業がないと仮定して推定した現在の資源量の20%)が合意されたことを受け、現状の漁獲の強さは過剰ではなく、資源も乱獲状態にはないと結論されている。
生態系・環境への配慮
生態系への影響の把握に必要となる情報、モニタリングの有無について、中西部太平洋では生態系と混獲の問題、生態系モデル解析、はえ縄による混獲情報が取りまとめられている。熱帯まぐろ類の仔稚魚、動物プランクトン、及び海洋環境の調査が不定期的に実施されている。科学オブザーバー計画が確立され、はえ縄やまき網による漁獲物情報を取得する体制が部分的に整っている。
評価対象種を漁獲する漁業による他魚種への影響として、混獲利用種への影響については、はえ縄によるクロトガリザメへの影響が懸念された。非混獲利用種について、はえ縄ではアオウミガメ、アカウミガメ、タイマイ、ヒメウミガメではリスク高いとされた。オキゴンドウについて、リスクは中程度と判断されている。環境省指定の絶滅危惧種のうち竿釣りでは、ウミガメ類のリスクが中程度、はえ縄ではリスクが高いと判断された。
食物網を通じたビンナガ漁獲の間接影響、漁業による環境への影響は以下の通り評価された。ビンナガの捕食の関係にある種の中でマカジキ、クロトガリ、ヨゴレの資源が懸念される状態であった。ビンナガの主要な餌生物である小型浮魚類の全体の現存量は横ばいで推移している。競争者と考えられるクロマグロ、キハダ、メカジキ、ヨシキリザメ、クロトガリのうちクロマグロ、クロトガリザメの資源状態が懸念された。太平洋南区ではMTLc(漁獲物平均栄養段階)が低下しているが、これはマイワシの増加によるものと考えられ、ビンナガの漁獲がMTLcの変化に影響しているとは考えにくかった。当該海域における日本漁船の海洋への汚染や廃棄物の投棄についての違反はなかった。まぐろはえ縄、釣り漁業とも我が国漁業の中でも高~中程度のCO2排出量となっており一部物質に関して排出ガスによる大気環境への悪影響が懸念される。
漁業の管理
ISC(北太平洋まぐろ類国際科学委員会)ビンナガ作業部会により、北太平洋ビンナガは過剰漁獲をされておらず乱獲状態ではなく、資源水準と動向は中位横ばいとされている。この資源を漁獲する遠洋、近海まぐろはえ縄漁業、遠洋、近海かつお一本釣漁業の4漁業種類は大臣許可漁業であり、インプット・コントロールが成立している。これらは農林水産大臣がトン数や海域を公示して申請を受けて許可証が発給されている。遠洋、近海かつお・まぐろ漁業ではヨゴレ、クロトガリザメは採捕してはならない。遠洋、近海はえ縄漁業では海亀や海鳥の保存措置のため漁具の制限が決められている。燃油使用量の削減、抑制を漁業者団体が主導した。WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)、IATTC(全米熱帯まぐろ類委員会)とISCとは水産庁国際課かつお・まぐろ漁業室を中心に連携している。ビンナガを漁獲する大臣許可遠洋、近海かつお・まぐろ漁業は水産庁国際課かつお・まぐろ漁業室で指導、監督している。遠洋、近海かつお・まぐろ漁業では農林水産大臣が命じたときは、オブザーバーを乗船させなければならない。ポジティブリストの掲載漁船で漁獲された証明書等による輸入事前確認手続きは水産庁で一元化された。ビンナガは資源管理指針では取り扱われていない。管理機関、関係機関により管理目標、資源評価や管理措置が改訂されれば、資源管理指針や指定漁業の許可及び取締り等に関する省令等の改訂が行われよう。順応的管理に準ずる施策がないとまでは言えない。漁業者は業種別漁業協同組合、協会等の団体に所属し、多くの近海かつお・まぐろ漁業者は沿海漁業協同組合にも属している。漁業者は自主的に休漁等に取組んでいる。漁業者団体が課題をもって改革計画や実証事業を主導してきており、日本かつお・まぐろ漁業協同組合は日本かつお・まぐろ漁業協同株式会社を組織し、販売事業に当たっている。水産政策審議会資源管理分科会には利害関係者も参画しており、WCPFCの年次会合や科学委員会等へもNGOが参加している。
地域の持続性
北太平洋のビンナガは、遠洋まぐろはえなわ漁業(宮城県、鹿児島県)、近海まぐろはえ縄漁業(大分県、宮崎県、沖縄県)、遠洋かつお一本釣漁業(宮城県、静岡県、三重県、高知県、宮崎県、鹿児島県)、近海かつお一本釣漁業(三重県、高知県、宮崎県)で大部分が漁獲されている。漁業収入のトレンドは中程度で、収益率は低く、漁業関係資産は中程度だった。経営の安定性については、収入、漁獲量の安定性ともに中程度であった。漁業者組織の財政状況は未公表の組織があるが、沿岸漁業も含めて総合しては中程度であった。操業の安全性は高く、地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業で特段の問題はなかった。ビンナガは拠点市場への水揚げが多く、買い受け人は各市場とも取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。卸売市場整備計画により衛生管理が徹底され、仕向けは刺身商材と缶詰である。労働条件の公平性は加工・流通でも特段の問題は無かった。加工流通業の持続性は高いと評価した。先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムも整っている。水産業関係者の所得水準は比較的高い。延縄や一本釣などビンナガを漁獲する主たる漁具漁法や食文化には各地で伝統が引き継がれてきている。
健康と安全・安心
ビンナガは、肉が淡いピンク色で、やわらかく、脂質も少ないなど他のマグロ類とは異なった肉質を有する。肉には、体内の酸化還元酵素の補酵素として働くナイアシン、抗酸化作用を有するセレン、メチル水銀の解毒作用など様々な機能を有するといわれているセレノネインなど様々な栄養機能成分が含まれている。脂質には、血栓予防などの効果を有するEPAと脳の発達促進や認知症予防などの効果を有するDHAが含まれている。また、魚介類のなかでもタンパク質含量の多い魚である。旬は秋から冬である。利用に際しての留意点は、ヒスタミン中毒防止である。ヒスタミン中毒は、筋肉中に多く含まれるヒスチジンが、細菌により分解、生成したヒスタミンによるものであるため低温管理が重要である。冷凍物では、低温下で解凍・保管が必要である。また、冷凍物の解凍時には、解凍硬直を防ぐ方法での解凍が望ましい。
引用文献▼
報告書