ゴマサバ(高知県)
スズキ目、サバ亜目、サバ科サバ属に属し、学名は Scomber australasicus。マサバによく似て、体は紡錘形で横断面は円形に近い。体側中央に明瞭な黒点が並ぶこと、および第1背鰭棘の鰭底間隔がマサバより狭いことで(1~9棘の鰭底長が尾叉長の12%未満)、マサバとの種判別は比較的容易に行える。
分布
ゴマサバ太平洋系群は我が国太平洋南部沿岸から千島列島沖合に分布する。成魚の主分布域は黒潮周辺域である。
生態
寿命は6歳程度、成熟・産卵開始は2歳以上とされる。産卵は、足摺岬周辺以西では12月~翌年6月、東シナ海では1~3月、足摺周辺では2~3月、伊豆諸島周辺では3~6月に行われる。食性は、仔稚魚期は小型浮遊性甲殻類、イワシ類の仔魚、幼魚期以降はカタクチイワシなどの魚類やオキアミ類などの甲殻類、サルパ類などを捕食する。カツオ等の大型魚類、ヒゲクジラなどの海棲哺乳類に捕食される。
利用
鮮魚は煮魚、塩焼きとして食用されるほか、缶詰やさば節等に加工される。
漁業
我が国周辺でゴマサバ太平洋系群を漁獲する主な漁業は、中型まき網漁業(主に太平洋中区(三重~千葉県)・南区(宮崎~和歌山県))、大中型まき網漁業(主に太平洋北区(茨城~青森県))、たもすくい・棒受網の火光利用さば漁業(中区)、定置網漁業(北・中・南区)、および立て縄などの釣り漁業(主に南区)である。
資源の状態
ゴマサバは、同属のマサバとともに我が国周辺における主要浮魚資源であり、毎年コホート解析により年齢別資源量が算出され、それに基づいて漁獲可能量(TAC)が算出されている。コホート解析に必要な漁獲量、年齢組成、更に次年度の資源量予測に必要となる年齢別成熟割合、近年の再生産成功率、加入量などのデータは国の委託事業として水産研究・教育機構(以下、水産機構)、関係都道県により毎年調査され更新されている。
1995~2015年の資源量は、1995年以降30万トン前後から2004年以降は 50万~60万トン前後に増加し、さらに2009 - 2010年は70万トン以上に達する高い水準にあった。2011年以降は減少傾向を示し、2015年は44.3万トンであった。2015年現在、資源水準は高位、資源動向は減少と判断された。現状の漁獲係数Fcurrentは、F0.1よりやや高いものの、F30%SPRをやや下回っていることから、高くないと考えられる。将来予測の結果、資源量、親魚量、漁獲量とも、漁獲圧を現状維持あるいはある程度高めても、いずれも5年後にBlimitを十分に上回る水準を維持すると予測された。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議されるとともにパブリックコメントにも対応した後に確定されている。資源評価結果は毎年公表されている。
生態系・環境への配慮
太平洋中区、南区は農林水産省農林水産技術会議の大型別枠プロジェクト研究などの対象海域ともなり、海洋環境や生態系に関する基盤情報が蓄積されてきた。当該海域では栄養塩、クロロフィルなど海洋環境に関する調査が水産機構の調査船によって定期的に実施され、各都道県地先海域においては原則毎月水温・塩分などの海洋観測が実施されている。評価対象漁業による魚種別漁獲量は把握される体制にあるが、混獲非利用種や希少種について、漁業から情報収集できる体制は整っていない。
大中型まき網の混獲利用種であるマイワシ、マサバの資源状態は懸念される状態にないが、マアジは懸念される状態にある。中・小型まき網の混獲利用種のマイワシ、ウルメイワシ、マサバの資源状態は懸念される状態にないが、カタクチイワシ資源状態は懸念され、むろあじ類も情報が少ないうえに懸念される情報が見られた。混獲非利用種については、両漁業とも情報がない。希少種に対するリスクは全体では両漁業とも低いとされたが、アカウミガメ、コアホウドリに対してはリスクが中程度とされた。
食物網を通じた間接影響であるが、ゴマサバ捕食者であるカツオ、ミンククジラ、イワシクジラ、ハンドウイルカ、シャチ、カマイルカ、コビレゴンドウ、カツオドリ、アジサシ、ウミネコについて、それぞれの種の資源状態は概ね悪くないと判断された。ゴマサバの主要な餌生物であるカタクチイワシは資源状態が懸念される状況にあり、オキアミ(ツノナシオキアミ)のリスクは低い状況にあった。競争者であるマイワシ、マサバ、ウルメイワシについての資源状態は懸念される状態になかった。
生態系全体への影響としては、大中型まき網、中・小型まき網とも漁業の影響強度は低く、生態系特性に不可逆的な変化は起こっていないと考えられた。まき網は基本的に着底による海底への影響は小さいと考えられる。当該漁業からの排出物は適切に管理されており、水質環境への負荷は軽微であると判断された。大中型まき網、中・小型まき網は我が国の漁船漁業の中では燃油消費量や温暖化ガスの環境負荷量が比較的小さい漁業であると考えられる。
漁業の管理
ゴマサバ太平洋系群太平洋中区・南区については、主に大中型まき網、中・小型まき網漁業で漁獲が行われている。国、県の許可漁業であり、またTAC対象魚種であるためインプット・コントロールとともにアウトプット・コントロールもなされている。関係団体で経営や販売に関する活動が全面的になされている。多くのもうかる漁業における認定改革計画がなされてきた。
地域の持続性
ゴマサバ太平洋系群太平洋中区・南区は、静岡県、愛媛県太平洋南区・宮崎県(漁場は豊後水道~日向灘の一部)の大中型まき網、三重県・宮崎県の中・小型まき網で大部分が獲られている。収益率のトレンドは低かったが、漁業関係資産のトレンドは高かった。経営の安定性については、収入の安定性・漁獲量の安定性ともに中程度であった。操業の安全性、地域雇用への貢献はともに高かった。各県とも水揚げ量が多い拠点産地市場がある一方、中小規模市場が分散立地している。買受人は各市場とも取扱量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。卸売市場整備計画により衛生管理が徹底されている。大きな労働災害は報告されておらず、本地域の加工流通業の持続性は中程度と評価できる。先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムも整っていた。水産業関係者の所得水準はおおむね高い。漁法はたもすくい網が伝統的に継続している。各県では伝統的な加工法や料理法が数多く伝えられている。
健康と安全・安心
ゴマサバには、細胞内の物質代謝に関与するビタミンB2、骨の主成分であるカルシウムやリンの吸収に関与するビタミンD、体内の酸化還元酵素の補酵素として働くナイアシン、抗酸化作用を有するセレンなど様々な栄養機能成分が含まれている。脂質には、血栓予防などの効果を有するEPAと脳の発達促進や認知症予防などの効果を有するDHAが豊富に含まれている。また、血合肉には、ビタミンAとD、鉄、タウリンが多く含まれている。ビタミンAは、視覚障害の予防、タウリンはアミノ酸の一種で、動脈硬化予防、心疾患予防などの効果を有する。旬は脂質含量が最も高くなる秋である。利用に際しての留意点は、ヒスタミン中毒と生食によるアニサキス感染防止である。ヒスタミン中毒は、筋肉中に多く含まれるヒスチジンが、細菌により分解、生成したヒスタミンによるものであるため鮮度保持が重要である。アニサキスは、死後の時間経過に伴い内臓から筋肉へ移動するため、生食には、新鮮な魚を用いること、内臓の生食はしない、冷凍・解凍したものを刺身にするなどで防止する。なお、アニサキスは、日本周辺には2種が生息し、九州や四国に主に分布するアニサキスはアニサキス症の原因にはほとんどならないことが報告されている。
引用文献▼
報告書