サワラ(徳島県 太平洋)
スズキ目サバ亜目サバ科に属し、学名はScomberomorus niphonius。体は細長く側扁する。胸鰭後縁はやや尖る。鱗は円鱗で極めて小さい。歯は側扁し、縁辺は平滑。側線は波状で直角に多数の側枝がある。背面は淡灰青色で、7列ほどのやや不規則な暗色斑が縦に並ぶ。腹面は銀白色。第1背鰭は19~20棘、第2背鰭は16軟条、臀鰭は17~19軟条で、いずれも7~8小離鰭がある。胸鰭は21軟条、腹鰭は1棘5軟条、鰓耙は上2本、下10~12本。
分布
北海道以南の日本沿岸、沿海州、黄海、渤海、東シナ海に分布する。
生態
孵化直後からカタクチイワシ等の仔稚魚を捕食し、成長するとカタクチイワシ、イカナゴ等魚類を主食とする。
利用
瀬戸内海では最も重要な魚種のひとつ。主漁期は5~6月であり、刺身、酢締め、塩焼き、煮付け、揚げ物、味噌漬け等さまざまに料理される。
漁業
流刺網での漁獲が最も多く、釣り、ひき縄での漁獲がそれに次ぐ。そのほかの漁法として、はなつぎ網とさわら船びき網が行われている。
資源の状態
サワラの資源生態に関する知見は蓄積されており、資源評価の基礎情報として利用可能である。漁獲量・努力量データの収集、定期的な科学調査、漁獲実態のモニタリングも毎年行われている。調査データから年齢別漁獲尾数が推定され、コホート解析による資源評価が毎年実施されている。資源評価の内容は公開の場を通じて利害関係者の諮問を受けて精緻化されている。2018年の資源水準は中位、資源の動向は減少と判断された。2018年の親魚量はBlimitを若干上回っているが、現状のFはFlimitを上回っている。現状の漁獲圧で漁獲を継続した場合、2025年に資源水準が中位以上となる確率、親魚量がBlimitを上回る確率はそれぞれ5%、3%と低かった。1998年秋の播磨灘と備讃瀬戸での自主休漁に始まり、2002~2011年度には漁業者・行政・研究により構築された資源回復計画が実施され、2012年度以降も資源管理指針・計画のもと、継続して実施されている。サワラ東シナ海系群では環境変化の影響と見られる資源量増加があるがサワラ瀬戸内海系群についての情報は得られていない。遊漁による漁獲は極めて少ない。
生態系・環境への配慮
瀬戸内海でサワラを漁獲する漁業による生態系への影響の把握に必要となる情報、モニタリングの有無について、瀬戸内海は古くから盛んな漁業を支えるため、水産研究・教育機構や各府県の水産試験研究機関が長年に亘り海洋環境、低次生産等に関する調査を行い、知見を蓄積している。サワラの生態・漁業についても知見は多い。海洋環境及び漁業資源(カタクチイワシ、サワラ、イカナゴ等)に関する調査は水産機構の調査船、関係府県の調査船により定期的に実施している。行政機関により府県別・漁業種類別・魚種別漁獲量等は調査され公表されているが混獲や漁獲物組成に関する情報は十分得られていない。
評価対象種を漁獲する漁業による他魚種への影響について、混獲利用種は、流刺網ではシイラ、ブリとしたが両種とも資源は懸念される状態ではなかった。釣り、ひき縄では混獲利用種はブリであったが資源は懸念される状態ではなかった。混獲非利用種は流刺網ではヒラ、シロザメ、ヒラソウダとしたが、これら魚種のデータは入手できなかった。釣り、ひき縄ではえそ類としたが、豊後水道のえそ類の漁獲量は横ばいから減少傾向に転じていた。対象海域に分布する希少種のうち、アカウミガメに中程度の影響リスクが認められたが全体としては低いと考えられた。
食物網を通じたサワラ漁獲の間接影響については、瀬戸内海ではサワラの捕食者は知られていないため最高次捕食者に近いと考えられる。餌生物は主にカタクチイワシ、イカナゴとされるが、イカナゴの資源状態は懸念される状態であった。競争者は魚食性が強いタチウオ、ブリと考えられるが、タチウオの資源は懸念される状態であった。
漁業による生態系全体への影響については、総漁獲量及び漁獲物平均栄養段階の低下が認められた。評価対象海区内で、多くの魚種に漁獲量の減少が認められ、タチウオ、すずき類、ヒラメ等の高次捕食者の減少が漁獲物平均栄養段階(MTLc)の低下に寄与していると考えられた。評価対象漁法によるサワラの漁獲のみが要因とは考えがたいものの、栄養段階に関わらず幅広い魚種に漁獲量の減少傾向が認められ、MTLcが低下していた。海底環境への影響は、着底漁具ではないため、影響はなかった。水質への影響については、対象漁業からの排出物は適切に管理されており、負荷は軽微であると判断された。大気環境への影響については、排出量が中程度であると判断された。
漁業の管理
さわら流刺網は知事許可漁業であり、国による漁獲努力可能量制度(TAE)の対象である。2012年から関係府県の漁業者、府県、水産機構、瀬戸内海漁業調整事務所で組織したさわら検討会議で漁期の規制等を各府県の資源管理指針に反映させた。はえ縄、ひき縄、釣りについても各府県資源管理指針では自主的管理措置として、休漁や操業禁止期間の設定を実施する必要があるとしているなど、インプット・コントロールが実施されている。テクニカル・コントロールとしては、各漁業とも小型魚の保護を目的とした目合いの規制、小型魚の再放流に取り組んでいる。種苗放流効果を高めるために漁獲努力量削減、小型魚の漁獲規制等の措置が取り組まれている。評価対象漁業は着底漁具ではないため海底環境に与える影響は無視でき、ほかの生態系への直接影響も知られていない。
さわら検討会議により一元的な管理体制が確立されており、取り締り・監視には各府県漁業監督吏員、漁業取締船のほか、瀬戸内海漁業調整事務所があたっている。水揚げは基本的には地元漁協等地域の地方卸売市場になされ、漁獲物のサイズの確認は漁協職員や漁業者間でなされる。許可漁業に関する公的な規制の違反については、各府県漁業調整規則に基づき罰則が科せられる。流刺網のTAEについては、水産政策審議会で審議されるため毎年の更新が可能とされており、管理は順応的であると判断される。各府県資源管理指針に基づく自主的な資源管理計画については、策定後4年を経過した次の年度に計画の内容が評価・検証され改定される。
評価対象の漁業者は実質全員が漁協組合員であり特定されている。評価対象漁業の代表者はさわら検討会議のメンバーであり、漁業者組織はサワラ資源管理に影響力を有している。各府県の漁業協同組合、漁業協同組合連合会は共販、流通・加工、サワラのブランド化など、個別の漁業者では実施が困難な経営上の活動を実施し水産資源の価値の最大化に努めている。漁業者組織代表者は、自主的管理と公的管理に適切に参画しており、施策の決定にかかわる会議には幅広い利害関係者が参画している。資源管理施策決定に関しては、漁業者、行政、研究者(資源評価、種苗生産関係)が計画を立て、効果を評価し見直す体制が整っている。
地域の持続性
本系群は、その他刺網(香川県、愛媛県、兵庫県、山口県)、その他はえ縄(徳島県)、ひき縄(兵庫県、山口県)、その他釣り(愛媛県)で大部分が獲られている。漁業収入は高位で推移し、収益率のトレンドは高く、漁業関係資産のトレンドはやや低かった。経営の安定性については、収入の安定性は中程度で、漁獲量の安定性はやや低かった。漁業者組織の財政状況は高かった。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買受人は各市場とも取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。卸売市場整備計画等により衛生管理が徹底されており、仕向けは高級食材である。先進技術導入と普及指導活動は概ね行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準は中程度である。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、伝統的な加工技術や料理法がある。
健康と安全・安心
サワラには、視覚障害の予防に効果があるビタミンA、細胞内の物質代謝に関与しているビタミンB2、体内の酸化還元酵素の補酵素として働くナイアシン、血圧を下げる効果を有するカルシウム等さまざまな栄養機能性成分が含まれている。脂質には、血栓予防等の効果を有するEPAや脳の発達促進や認知症予防等の効果を有するDHAが含まれている。また、魚介類のなかでもタンパク質含量の多い魚である。瀬戸内海における旬は春である。利用に際しての留意点は、ヒスタミン中毒防止と生食によるアニサキス感染防止である。ヒスタミン中毒は、筋肉中に多く含まれるヒスチジンが、細菌により分解、生成したヒスタミンによるものであるため低温管理が重要である。アニサキスは、魚の死後時間経過にともない内臓から筋肉へ移動するため、生食には新鮮な魚を用いること、内臓の生食はしない、冷凍・解凍したものを刺身にする等で防止する。
引用文献▼
報告書