中西部太平洋における生態系と混獲の問題、生態系モデル解析、はえ縄による混獲情報が取りまとめられており、部分的だが利用できる情報がある。熱帯まぐろ類の仔稚魚、動物プランクトン、海洋環境の調査が不定期的に実施されている。2008年から中西部太平洋において、科学オブザーバー計画が確立され、はえ縄やまき網による混獲や漁獲物組成等について部分的な情報が収集可能となっている。
まき網の混獲利用種であるカツオは、資源状態は懸念される状態にない。はえ縄の同時漁獲種であるメバチ、ビンナガ、メカジキ、ヨシキリザメ、クロトガリザメの評価結果では、クロトガリザメの資源状態が懸念される状態であった。まき網による混獲非利用種は、ツムブリ、クロトガリザメ、アミモンガラ、クサヤモロ、シイラなどである。東部太平洋でのPSA評価では、クロトガリザメが中程度のリスクと判断された以外は軽微であると報告されている。はえ縄の混獲非利用種のPSA評価では、アオウミガメ、アカウミガメ、タイマイ、ヒメウミガメではリスクが高、オサガメでは表層で中程度、アカマンボウで中程度などとされ、全体としてリスクが高、中程度の種が複数含まれていた。環境省指定の絶滅危惧種のうち、評価対象水域と分布域が重複する種についてPSA評価を行った結果、両漁法とも全体平均ではリスクは低いと判断されたが、海亀類のリスクについては、まき網では中程度、はえ縄では高いと判断された。
【食物網を通じた間接影響】
キハダの捕食者は、メカジキ、クロカジキ、マカジキ、アオザメ、ヨシキリザメ、クロトガリザメ、ヨゴレ、メバチなどである。中西部太平洋表層の生態系モデルEcopathのMixed trophic impactによれば、キハダの漁獲量を増加した場合でも上記捕食者への影響は軽微である。キハダの餌生物は、成魚ではカツオ、ソウダガツオ類、アカイカ類などである。生態系モデルのMixed trophic impactによれば餌生物である魚類や頭足類に対する負の影響は軽微である。生態系モデルによって推定されたキハダの栄養段階は4.88であり、カツオ(同4.92)及びミズウオ属、シマガツオ科、アジ科、シイラ属、クロタチカマス科、カマスサワラ、アカマンボウ、サバ科から成る肉食性魚類(4.93)が、同様の栄養段階に位置する競争者と推定される。EcopathのMixed trophic impactによれば、キハダの漁獲量が微増しても競争者の変化は軽微である)。
【生態系全体への影響】
漁獲物の平均栄養段階水準は1980年から2000年にかけて増加傾向を示し、その後横ばい状態を示しているが、小型魚や大型魚など栄養段階の高い種の多様性と生物量は2000年以降に大きく変化しながら増減しているとされる。したがって、対象漁業による影響の強さは重篤ではないが、生態系特性の一部変化が懸念される。
【大気・水質環境への影響】
まき網、はえ縄は着底漁具ではない。WCPFC海域における日本漁船による海洋への汚染や廃棄物の投棄についての違反報告は見いだせなかったことから国内法規を遵守した操業が行われているものと解釈した。単位漁獲量あたり排出量(t-CO2/t)は大中型かつおまぐろ1そうまき網では比較的低いが、まぐろはえ縄では我が国漁業の中でも高い値となっているため、対象漁業からの排出ガスによる大気環境への悪影響が懸念されるとした。