北部太平洋海区大中型まき網漁業の漁業生産は、漁業収入、収益率、漁業関係資産ともに高い水準で維持されていると考えられる。資源量変動と回遊範囲の大きい多獲性浮魚類を対象とした漁業種類であるためやむを得ないが、漁業収入や漁獲量には相当程度の年変動が存在している。総じて、漁業経営の持続性は高いと考えられる。なお、同漁業の団体(北部太平洋まき網漁業協同組合連合会)の持続性については、判断できる情報がなかった。関係6県(青森~千葉)で1,000人を超える漁業就業者が雇用され、地域雇用にも貢献しているが、労働災害や労働条件の公平性に関して大きな問題は報告されていない。
評価対象地域内の水産加工・流通業は、北部太平洋海区大中型まき網漁業に関係する漁獲物以外も取り扱っている。入手可能データの制約上、同漁業による効果のみを抽出して評価することは困難であったため、関係6県の水産加工・流通業全体を評価し、その平均値を全体評価とした。
まず水揚げ港(産地市場)での価格形成について、大中型まき網漁業の水揚げ量は大量であるため、主要な漁港では相対と競りが同時に行われ、競争的な価格形成システムが存在している。また受け入れ可能量を超えた水揚げによる値崩れを防止するため、漁業者組織等により各港の価格形成情報が随時船団に届けられており、各船団による水揚げ港の選択に使用されている。マアジについては10%の輸入関税が設定されていおり、国際的な競争の下での価格形成とはなっていないが、その他の非関税障壁は存在しない。主要水揚げ港では高度な衛生管理が進んでおり、高付加価値(鮮魚)から低付加価値(ミール)まで多様な形態で利用されている。関係6県の水産加工会社数は全国平均の1.54倍であり、水産業が地域雇用や地域経済に大きく貢献している。大きな労働災害は報告されておらず、労働条件の公平性も比較的高いと想定される(4.2.3.33点)。以上より、本地域の加工流通業の持続性は高いと評価できる。
本漁業が水揚げする漁港では、製氷、冷蔵、冷凍施設や道路、空港などのインフラ整備が進んでおり、また、鮮度維持や新商品の開発において先進的な技術を導入している。医療や教育など地域生活に重要な公共サービスも全国の平均的な水準にあることが想定され、水産業関係者(漁業就業者、水産加工業者)は、これらの地域内で平均程度の所得を得て生活を営んでいると考えられる。文化面について、北部太平洋海区大中型まき網漁業に特有の伝統的漁具・漁法などは存在しないが、関係6県の各地で様々な加工法や郷土食が存在し、食文化の多様性にも寄与している(例えば、アジやイワシのなます、たたき、ぬた、などが岩手や宮城で伝統的に食べられている)。以上より、本地域は水産業就業者にとって十分に魅力的な地域であると評価できる。