サスティナブルでヘルシーなうまい日本の魚プロジェクト

Sustainable, Healthy and “Umai” Nippon seafood project

サスティナブルでヘルシーな
うまい日本の魚プロジェクト

ムシガレイ(山口県 日本海)

カレイ目、カレイ亜目、カレイ科に属し、学名はEopsetta grigorjewi。有眼側は淡褐色で無数の虫食い状の斑紋があるが、3対の斑紋が目立つ。無眼側は透明感のある白色。口は大きく、両顎歯が発達する。

分布

北海道〜長崎県の日本海・東シナ海沿岸、北海道〜土佐湾の太平洋沿岸、瀬戸内海、渤海、黄海、朝鮮半島沿岸、上海近海、ピーター大帝湾に分布する。水深200mよりも浅場の砂泥地に多い。評価対象のムシガレイ日本海南西部系群は、鳥取県から山口県の日本海側を対象海域とする。

生態

日本海側では青森県〜対馬の広範囲に分布するが、山口県及び島根県沖の日本海南西海域が主分布域である(今岡・三栖 1969)。対馬以東では、秋に対馬北東から見島北西の海域に分布が集中するが、ほかの時期には分散し、対馬以西では、春〜夏に対馬西海域に滞留して秋には南西へ回遊、越冬する(三栖ほか 1973)。幼魚は浅海に生息し、成長にともない沖合へ移動する(今岡 1977)。日本海南西海域で漁獲されるムシガレイは雌雄それぞれ1歳で10.9、11.4cm、2歳で16.5、17.2cm、3歳で21.2、21.4cm、4歳で25.2、24.5cmとなる。5歳以降は雌雄差が大きくなり、5歳で雌雄それぞれ28.6、26.9cm、6歳で31.6、28.6cm、7歳で34.1、29.8cmとなる(今井・宮崎 2005)。寿命は7歳程度と推察される。成熟開始年齢は雄2歳、雌3歳であり、産卵盛期は対馬以西では1月下旬〜2月下旬、対馬以東では2月上旬〜3月上旬である(今岡 1971)。全長約12cmまでは小型甲殻類を主要な餌とし、約12cm以上ではエビ・カニ類、イカ類等を捕食する。さらに全長約18cmから魚類を捕食する(今岡 1972)。被食については不明である。
今井千文・宮崎義信 (2005) 耳石解析によるムシガレイ日本海西部群の成長モデルの再検討. 水大研報, 53, 21-34.
今岡要二郎 (1971) 日本海西南海域およびその周辺海域産ムシガレイの漁業生物学的研究-Ⅱ. 成熟と産卵について. 西水研報, 39, 51-63.
今岡要二郎 (1972) 日本海西南海域およびその周辺海域産ムシガレイの漁業生物学的研究-Ⅲ. 食性について. 西水研報, 42, 77-89.
今岡要二郎 (1977) 日本海西南海域およびその周辺海域産ムシガレイの漁業生物学的研究(昭和47年度)ムシガレイ幼魚の生息域について. 島根水試事報, 昭和47-48年度, 297-299.
今岡要二郎・三栖 寛 (1969) 日本海西南海域およびその周辺海域産ムシガレイの漁業生物学的研究第1報. 年令と生長について. 西水研報, 37, 51-70.
三栖 寛・今岡要二郎・末島富治・花渕信夫・小嶋喜久雄・花渕靖子 (1973) 日本海西南海域およびその周辺海域産ムシガレイの漁業生物学的研究-Ⅳ. 標識放流結果からみた分布と回遊について. 西水研報, 43, 23-36.

利用

味がよく、市場価値も高い。煮付け、刺身にもされるが、主に塩干品として利用される。一部の地域ではブランド化が進められている。

漁業

日本海南西海域におけるムシガレイの漁獲の大部分は底びき網(沖合底びき網漁業1そうびき及び2そうびきと小型底びき網漁業)によるものであり、量的には少ないが刺網、釣り及びはえ縄等でも漁獲される。


あなたの総合評価

資源の状態

 本系群の生物学的、生態学的情報は十分ではないが利用可能である。漁獲量、漁業実態は一部について長期間利用可能である。水揚げ物の生物調査は一部について行われている。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議され毎年公表されている。資源の水準・動向は低位、増加であるため、漁獲圧の削減が資源の持続的生産や資源枯渇リスク低減のために重要と考えられる。漁業管理方策は策定されていないため、評価結果、及び予防的措置は資源管理に反映されていない。外国による漁獲の影響は考慮されていない。



生態系・環境への配慮

 本系群の生態、資源、漁業等については関係県、水産研究・教育機構等で調査が行われ成果が蓄積されているが該当海域の生態系に関する調査・研究例は少ない。海洋環境及び漁業資源に関する調査は県、水産機構の調査船により定期的に行われている。漁業から混獲や漁獲物組成に関する情報は十分得られていない。
 混獲利用種では沖底のキダイ、アカムツ、アナゴ類、小底のアンコウ、アナゴ類、ニギスについて資源状態が懸念される種はなかった。混獲非利用種は沖底、小底とも不明であった。希少種へのリスクは全体的に低いと判断された。
 生態系全体への影響に関しては、長期的に漁獲物平均栄養段階の低下が認められたが、沖底や小底が要因とは考えにくかった。食物網を通じたムシガレイ漁獲の間接影響は、ムシガレイの捕食者や餌生物は懸念される状況になかったが、競争者資源に懸念が認められた。漁業による海底環境への影響については、対象漁業のうち沖底2そうびきにおいて、その強度と規模が中程度にあり、一部で海底環境の変化が懸念された。



漁業の管理

 沖底は大臣許可漁業であり、操業区域によって漁船のトン数別隻数が定められ、海域ごとの操業禁止期間が決められているほか、島根県地区の2そうびきでは自主的な休漁が取り組まれている。小底は知事許可漁業であり隻数制限が設けられ、島根県資源管理指針で自主的に休漁に重点的に取り組むとされている。以上インプット・コントロールが導入されている。テクニカル・コントロールとして、沖底は操業禁止区域が定められ、さらに自主的に漁具の制限が挙げられ小型魚の保護に取り組んでいる。小底でも操業禁止ラインの設定、網目規制等のほか、自主的措置として漁具の改良、小型魚再放流等が取り組まれている。
 本系群は日本海南西海域に分布し、我が国では管理体制が確立し機能しているが、韓国の漁獲状況は不明である。対象海域の沖底については水産庁漁業取締本部境港支部、福岡支部が指導・取り締まりを行い、小底については島根県当局が漁船漁業の監視・取り締まりを行い、関係法令に違反した場合、有効と考えられる制裁が設定されている。本系群については新漁業法下の資源管理基本方針で、大臣は現行の取り組みの検証を行い必要に応じて取組内容の改善を図り、漁業者による資源管理協定の締結を促進し、協定参加者自らによる実施状況の検証、改良、報告が行われるよう指導するとある。県の管轄部分についても、県の資源管理方針において漁業者自身が定期的に計画の実施状況を検証し改良することとなっており、県としても5年ごとに方針の検討、見直しをすることになっており順応的管理の仕組みは導入されていると考えられる。
 すべての漁業者は漁業者組織に所属しており、特定できる。本系群に対して沖底、小底で自主的な管理が実施されており漁業者組織の管理に対する影響力は強い。両漁業関係者は本系群の自主的管理、公的管理に主体的に参画している。幅広い利害関係者が資源管理に参画し、漁業者が管理施策の意思決定に参画する仕組みが存在している。



地域の持続性

 本系群は、島根県の小底、島根県・山口県の沖底2そうびきで多くが獲られている。漁業収入のトレンドはやや低めを示し、収益率のトレンドはやや高く、漁業関係資産のトレンドはやや低かった。経営の安定性については、収入の安定性、漁獲量の安定性、漁業者組織の財政状況の安定性は高かった。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買受人は取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。卸売市場整備計画等により衛生管理が徹底されており、仕向けは高級食材である。先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準はやや高かった。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、地元での料理提供が盛んである。



健康と安全・安心

 ムシガレイの肉は良質なタンパク質を含み、脂肪が多い。縁側には皮膚の健康を保つ働きがあるコラーゲンが含まれている。一般的に、カレイ類には、体内でエネルギー変換に関与しているビタミンB1、骨の主成分であるカルシウムやリンの吸収に関与しているビタミンDが多く含まれている。旬は、12月〜翌年3月である。
引用文献▼ 報告書