サスティナブルでヘルシーなうまい日本の魚プロジェクト

Sustainable, Healthy and “Umai” Nippon seafood project

サスティナブルでヘルシーな
うまい日本の魚プロジェクト

ニギス(徳島県 太平洋)

ニギス目、ニギス科に属し、学名はGlossanodon semifasciatus。体は円筒状でやや延長する。体背部は淡灰色で8個前後の暗色斑があり、鰓蓋部と腹部は銀白色で光沢がある(山田 1986)。大きな目と突き出した下顎をもち、背鰭は1基でその後方に脂鰭がある。
山田梅芳 (1986) ニギス. 「東シナ海・黄海のさかな」水産庁西海区水産研究所, 日本紙工印刷, 長崎, 77.

分布

本種の分布域は青森県〜房総半島東岸の太平洋沿岸、神奈川県三崎、駿河湾、遠州灘〜土佐湾の太平洋沿岸、青森県〜九州北岸の日本海沿岸、東シナ海大陸棚縁辺域(波戸岡 2013)。評価対象のニギス太平洋系群は、金華山から日向灘に至る太平洋沿岸に分布する。
波戸岡清峰 (2013) ニギス目ニギス科. 「日本産魚類検索 全種の同定 第三版」中坊徹次編, 東海大学出版会, 秦野, 343.

生態

年齢と体長の関係は、満1歳で13cm、満2歳で18cm、満3歳で20cmほどであり、寿命は3歳程度と考えられる(羽生 1956, Nashida et al. 2007)。土佐湾では9月を除くほぼ周年にわたって産卵し、産卵盛期は2〜3月(春生まれ群)である。11〜12月にも産卵の小さなピーク(秋生まれ群)が出現するものと考えられるが、0歳魚に占める割合は春生まれ群が圧倒的に多い(Nashida et al. 2007, 梨田 2010, 2013)。産卵は水深200〜300mの海底付近で行われ、成熟開始年齢は満2歳と考えられる。
羽生 功 (1956) ニギスArgentina semifasciata KISHINOUYE の年令及び成長に就て. 日水誌, 21, 991-999.
梨田一也 (2010) 土佐湾におけるニギス幼魚の耳石日周輪. 黒潮の資源海洋研究, 11, 89-94.
梨田一也 (2013) 土佐湾におけるニギス幼魚の発生時期と初期成長. 平成25年度日本水産学会春季大会講演要旨集, 49.
Nashida K., Sakaji H. and Honda H. (2007) Spawning seasons of adult and growth of 0-year-old deepsea smelt Glossanodon semifasciatus in Tosa Bay, Pacific coast of Shikoku. Bull. Jpn. Soc. Fish. Oceanogr., 71, 270-278.

利用

主に乾物、練り製品の原料となる(山田 1986)。
山田梅芳 (1986) ニギス. 「東シナ海・黄海のさかな」水産庁西海区水産研究所, 日本紙工印刷, 長崎, 77.

漁業

本系群は太平洋中部・南部の沖合底びき網漁業の重要な漁獲対象種のひとつであり、愛知県では外海小型機船底びき網漁業による漁獲も行われている。主要漁場は太平洋中部海域では熊野灘及び遠州灘、太平洋南部海域では土佐沖である。


あなたの総合評価

資源の状態

 本系群の生物学的、生態学的情報は十分ではなく一部のみ利用可能である。漁獲量、漁業実態は一部について長期間利用可能である。水揚物の生物調査は行われていない。資源評価は熊野灘における沖底の資源密度指数に基づいてなされている。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議され毎年公表されている。資源の水準・動向は低位・減少であるため、現状の漁獲圧が資源の持続的生産に与える影響や資源枯渇リスクがあると考えられる。漁業管理方策は策定されていないため、評価結果及び予防的措置は資源管理に反映されていない。環境変化が資源に与える影響については情報がない。外国による漁獲の影響は考慮されていないが、ないと考えられる。



生態系・環境への配慮

 対象海域は暖流系小型浮魚類の生育場であり、動植物プランクトン生産等については研究が進められてきた。ニギスが生息する陸棚斜面の底魚類の生態系については、食物連鎖等も調査されている。海洋環境に関する調査が水産研究・教育機構、県の調査船により定期的に実施されている。漁業情報から混獲や漁獲物組成に関する情報は十分得られていない。
 沖底、小底の混獲利用種と考えられたアオメエソ、アカザエビについては、資源は懸念される状態ではなかった。混獲非利用種は種数は多いが、個々の種は量的に少ないため漁業の影響は大きくないと考えた。対象海域に分布する希少種へのリスクは全体的に低いと判断された。
 食物網を通じたニギス漁獲の間接影響であるが、ニギスの捕食者は不明であったが、餌生物や競合種では懸念される状況になく、影響は小さいと考えられた。生態系全体への影響に関しては、太平洋南区において長期的に漁獲物平均栄養段階の低下が認められたが、カツオ等の高次捕食者の減少及びマイワシの増加に起因しており、沖底や小底が要因とは考えにくかった。漁業の海底環境への影響については、沖底1そうびき (かけまわし) と小底の双方で軽微と考えられた。



漁業の管理

 インプット・コントロールとして沖底はトン数別の隻数が定められ海域ごとの操業禁止期間が決められている。さらに自主的な措置として愛知県地区、高知県地区について重点的に休漁に取り組むとされている。愛知県の小底は隻数制限が設けられているとともに、自主的措置として渥美外海における板びき網等では休漁に重点的に取り組むとされている。テクニカル・コントロールとして沖底は操業禁止区域が定められており、愛知県の小底は操業範囲等が定められ、トラフグの小型魚保護等に取り組んでいる。
 本系群は主に太平洋中区・南区に分布する資源であり必要な場合は太平洋広域漁業調整委員会太平洋南部会の所掌となるという意味で生息域をカバーする管理体制が確立している。対象海域の沖底については水産庁漁業取締当局が指導・取り締まりを行い、小底については愛知県当局が漁船漁業の監視・取り締まりを行い、関係法令に違反した場合、有効と考えられる制裁が設定されている。新漁業法下の資源管理基本方針では、農林水産大臣は現行の取り組みの検証を行い、必要に応じて取組内容の改善を図り、漁業者自らによる実施状況の検証、改良、報告が行われるよう指導するとある。県の管轄部分についても、県の資源管理方針で漁業者自身が定期的に計画の実施状況を検証、改良し、県としても5年ごとに方針の検討、見直しをすることになっており順応的管理の仕組みは導入されている。
 すべての漁業者は漁業者組織に所属しており、特定できる。本系群に対して沖底、小底では自主的な管理が実施されており漁業者組織の管理に対する影響力は強く、漁業関係者は自主的管理、公的管理に主体的に参画している。幅広い利害関係者が資源管理に参画し、漁業者が管理施策の意思決定に参画する仕組みが存在している。



地域の持続性

 本系群は、愛知県・高知県の沖底及び愛知県の小底で大部分が獲られている。漁業収入のトレンドは中程度で、収益率のトレンドは高く、漁業関係資産のトレンドはやや低かった。経営の安定性については、収入の安定性、漁獲量の安定性ともに中程度であった。漁業者組織の財政状況は高かった。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買受人は取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。卸売市場整備計画等により衛生管理が徹底されており、仕向けは生鮮及び加工食材である。先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準は中程度であった。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、地元での料理提供が盛んである。



健康と安全・安心

 ニギスには、骨や歯の組織形成に関与しているカルシウムが多く含まれている。脂質には、血栓予防や高血圧予防等の効果を有する高度不飽和脂肪酸であるEPAと脳の発達促進や認知症予防等の効果を有するDHAが豊富に含まれている。旬は5月と9月である。この時期に大量に発生するオキアミを多く食べているため脂がのっている。
引用文献▼ 報告書