サスティナブルでヘルシーなうまい日本の魚プロジェクト

Sustainable, Healthy and “Umai” Nippon seafood project

サスティナブルでヘルシーな
うまい日本の魚プロジェクト

ハタハタ(福井県)

スズキ目、カジカ亜目、ハタハタ科に属し、学名はArctoscopus japonicus。体は側扁、鱗がない。口は大きく、斜位で下顎が前に出る。背鰭は2基でよく離れる。胸鰭は非常に大きい。側線は不明瞭。前鰓蓋骨に5棘(中坊 2018)。
中坊徹次 (2018) スズキ目ハタハタ科ハタハタ(ハタハタ属). 「日本魚類館」中坊徹次編,株式会社小学館, 東京, 342-343.

分布

本種は北海道〜山口県の日本海沿岸、大和堆、朝鮮半島東岸、北海道太平洋・オホーツク海沿岸、オホーツク海タウイ湾、千島列島、カムチャッカ半島南東部に分布(中坊 2018)。日本海西部系群は能登半島以西の日本海西部に分布し漁獲対象となるものである(藤原ほか 2021)。
藤原邦浩・八木佑太・吉川 茜・佐久間 啓・飯田真也・白川北斗・山本岳男 (2021) 令和2 (2020) 年度ハタハタ日本海西部系群の資源評価.令和2年度魚種別資源評価.
中坊徹次 (2018) スズキ目ハタハタ科ハタハタ(ハタハタ属). 「日本魚類館」中坊徹次編,株式会社小学館, 東京, 342-343.

生態

砂に潜る習性があるとともに、胸鰭を広げて泳ぐ姿が観察される(藤原 2011)。産卵場は、主に朝鮮半島東岸及び秋田県や青森県沿岸と推察される。能登半島以西の本州沿岸では、産み付けられた卵や孵化直後の仔魚の報告は若干あるものの、秋田県沿岸のような大規模な産卵場はない(藤原ほか 2021)。日本海西部は、秋田県沿岸生まれ群と朝鮮半島東岸生まれ群の双方の成育場であり、両群の出現割合はそれぞれの資源状態によって年変動するとされている(沖山 1970)。ミトコンドリアDNA調節領域の塩基配列多型により、秋田県沿岸の産卵場に由来する集団が隠岐西方の海域にまで達していることが示唆された(Shirai et al 2006)。
藤原邦浩 (2011) 第5回ハタハタ〜こっそりのんびり回遊魚〜. 日本海のさかなたち, 水産総合研究センターNews Letter おさかな瓦版. 水産総合研究センター, 44, 1-4.
藤原邦浩・八木佑太・吉川 茜・佐久間 啓・飯田真也・白川北斗・山本岳男 (2021) 令和2 (2020) 年度ハタハタ日本海西部系群の資源評価.令和2年度魚種別資源評価.
沖山宗雄 (1970) ハタハタの資源生物学的研究 II 系統群(予報). 日水研報, 22, 59-69.
Shirai, S. M., R. Kuranaga, H. Sugiyama and M. Higuchi (2006) Population structure of the sailfin sandfish, Arctoscopus japonicus (Trichodontidae), in the Sea of Japan. Ichthyol. Res., 53, 357-368.

利用

塩焼、干物、煮付等にする(但馬水産事務所 2013)。
但馬水産事務所 (2013) 但馬の美味しいお魚図鑑.

漁業

日本海西部では、ほぼすべてが底びき網で漁獲されている。兵庫県と鳥取県はすべて沖合底びき網漁業1そうびきで、石川県、福井県、京都府及び島根県では小型底びき網漁業で漁獲されている。主漁期は3〜5月であり、休漁期明けの9〜10月にも漁獲されるものの春より少なく、11月〜翌年1月はほぼ漁獲されていない。本州沿岸域の夏期の休漁中にも、日本海中央部の大和堆では操業でき、ホッコクアカエビ等と漁獲されたハタハタが石川県等に水揚げされている(藤原ほか 2021)。
藤原邦浩・八木佑太・吉川 茜・佐久間 啓・飯田真也・白川北斗・山本岳男 (2021) 令和2 (2020) 年度ハタハタ日本海西部系群の資源評価.令和2年度魚種別資源評価.


あなたの総合評価

資源の状態

 本系群の生物学的、生態学的情報は、隣接海域の情報も多く含まれているが十分に利用可能である。漁獲量、漁業実態は一部について長期間利用可能である。水揚物の生物調査は一部について行われている。資源評価方法は本系群の主要漁業である沖底の資源密度指数と、例年実施されている資源調査による資源量等に基づいてなされている。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議され毎年公表されている。資源の水準・動向は中位、横ばいである。現状の漁獲圧が資源の持続的生産に与える影響や資源枯渇リスクは低いと考えられる。漁業管理方策は策定されていないものの、関係漁協・漁業者により、水揚げ制限や網目拡大といった自主的な取り組みがなされている。本系群が分布・移動する日本海の環境変化や、隣接海域(韓国・日本海北部)の漁獲量はモニタリングされているが、資源評価に定量的には考慮されていない。



生態系・環境への配慮

 日本海西部は重要な沖底対象種が分布しており、調査の頻度が高く底魚生態系に関する一定の情報は得られている。海洋環境及び漁業資源に関する調査が水産研究・教育機構、関係府県の調査船により定期的に行われている。漁業情報から混獲や漁獲物組成に関する情報は十分得られていない。
 沖底による他魚種への影響についてみると、混獲利用種と考えられるイカ類、アカガレイ、ソウハチ、ヒレグロ、ズワイガニ、ホッコクアカエビでは、資源は懸念される状態ではなかった。混獲非利用種はキタクシノハクモヒトデとしたが、沖底による混獲の影響は低いとされた。希少種で生息環境が日本海西区と重複する種についてPSA評価を行った結果、全体としてリスクは低い値を示した。
 生態系全体への影響に関しては、長期的に漁獲物平均栄養段階の低下が認められたが、沖底が要因とは考えにくかった。食物網を通じたハタハタ漁獲の間接影響は、ハタハタの捕食者、餌生物、競争者のすべてで資源量が把握できないか、減少傾向の懸念が認められた。漁業による海底環境への影響については、対象となる日本海西部の沖底かけまわしの漁獲物栄養段階組成に定向的変化は認められないものの、漁業の規模と強度(SI)の評価点は中程度であることから、海底環境の変化が全くないとは言い切れないと判断した。



漁業の管理

 沖底は大臣許可漁業であり、海域ごとにトン数別の隻数が定められ操業禁止期間も定められているほか、沿岸域の操業も禁止されている。両県とも一部地域や漁業者団体による環境・生態系保全活動が取り組まれている。
 本系群は、我が国管轄水域では管理体制が確立しているが朝鮮半島東岸生まれ群も混ざっている。対象海域の沖底については水産庁漁業取締本部境港支部が指導・取り締まりを行い、関係法令に違反した場合、有効と考えられる制裁が設定されている。新漁業法下の資源管理基本方針で、大臣は現行の取り組みの検証を行い必要に応じて取り組み内容の改善を図り、漁業者による資源管理協定の締結を促進し、協定参加者自らによる実施状況の検証、改良、報告が行われるよう指導するとあり、順応的管理の仕組みが導入されている。
 すべての漁業者は漁業者組織に所属しており、特定できる。本系群の管理に漁業者組織は一定の影響力を有している。漁業関係者は本系群の自主的管理、公的管理に主体的に参画し、幅広い利害関係者も資源管理に参画している。漁業者が管理施策の意思決定に参画する仕組みが存在している。



地域の持続性

 本系群は、兵庫県及び鳥取県の沖底で大部分が獲られている。漁業収入のトレンドは高めを示し、収益率のトレンドは中程度で、漁業関係資産のトレンドはやや低かった。経営の安定性については、収入の安定性、漁獲量の安定性は高、及び中程度であった。漁業者組織の財政状況は高かった。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買受人は取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取り引きの公平性は確保されている。卸売市場整備計画等により衛生管理が徹底されており、仕向けは中・高級食材である。先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準は高い。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、地元での料理提供が盛んになってきた。



健康と安全・安心

 ハタハタには、骨や歯の組織形成に関与しているカルシウム、亜抗酸化作用を有するセレンが多く含まれている。脂質には、血栓予防や高血圧予防等の効果を有する高度不飽和脂肪酸であるEPAと、脳の発達促進や認知症予防等の効果を有するDHAが豊富に含まれている。山陰ではハタハタの旬は3〜5月である。この時期の魚群は、産卵には参加しないため身に脂が多く、特に美味しいとされている。
引用文献▼ 報告書