大型定置網漁業は府県知事の免許によって設定される定置漁業権を根拠とし、府県知事は漁業権の設定、免許に際しては海区漁業調整委員会の意見を聴くことになっている。サワラは定置網漁業では評価対象各府県の海洋生物資源の保存及び管理に関する計画において、現状の漁獲努力量を増加させることがないよう規定されてきた。改正漁業法下の資源管理方針においても、特定水産資源の漁獲可能量による管理以外の手法として漁獲努力量による管理を合わせて行うこととし、府県ごとに統数、もしくは操業日数の上限が設けられており、実質当該魚種に係る努力量管理ともなっている。各府県の資源管理指針においても、自主的措置として休漁が取り組まれてきた。以上のことからインプット・コントロールが導入されている。評価対象海域で漁獲されるサワラ東シナ海系群の資源状態は良好であることからインプット・コントロールは適切に働いていると考えられる。テクニカル・コントロールについてであるが、関係府県の資源管理指針では、小型魚保護のための目合いの拡大等の漁具制限、漁獲物の体長制限、小型魚再放流が規定され、取り組まれている。ただし、サワラに限った場合、各府県の取り組みがどの程度有効か評価の材料が乏しい。環境や生態系への漁具による影響については、評価対象の大型定置網は着底漁具ではないため、海底環境に与える影響は無視でき、ほかの生態系への直接影響も知られていない。生態系の保全修復活動については、漁業者の手により海浜清掃、森づくり、藻場保全等が活発に実施されている。
管轄範囲をみると、本系群全体では東シナ海における韓国、中国の漁獲量がはるかに多いが生息域全体をカバーするサワラの国際的な資源管理体制はない。我が国に限ると、本系群の資源管理は日本海・九州西広域漁業調整委員会が所掌しており生息域をカバーする管理体制が確立している。監視体制については、大型定置網は免許のない者は操業できず府県の取締当局が監視業務にあたっている。休漁等の措置については水揚げ港、市場での漁協職員や関係漁業者等による監視も十分可能である。罰則・制裁についてであるが、定置網漁業に関する各府県漁業調整規則、海区漁業調整委員会等の指示違反等については漁業法により懲役や罰金または拘留や科料に処せられる。漁業に関する法令に違反したときには、知事は漁業権の取り消しや行使の停止を命ずることができる(漁業法)。罰則規定としては十分に有効と考えられる。順応的管理の適用についてみると、定置漁業権は5年ごとに更新されるが、免許更新の際には各府県の海区漁業調整委員会に内容が諮られる。各府県資源管理指針によって規定されている自主的な規制についても策定後4年を経た次の年度に計画の内容が資源管理協議会で評価・検証されることになっている。すなわち、管理施策の結果を見て次の取り組みを決めるシステムが構築されている。
資源利用者の特定については、定置網漁業は各府県知事からの免許により操業しており対象の漁業者は明確に特定されている。これらの漁業者はほとんどが各府県の定置漁業協会に属し地元の漁業協同組合にも所属していることから、組織化がなされている。各府県定置漁業協会の上部組織である日本定置漁業協会は水産資源の管理の強化等を指導する事業を有しており、対象4府県の定置漁業者で組織する日本海定置漁業連絡協議会では隔年で日本海定置漁業振興大会を開催し漁業管理に関する大会決議、要望等を取りまとめている。これらのことから漁業者組織が管理に強い影響力を有していると考えられる。漁業者組織の経営や販売に関する活動として、各府県漁業協同組合、漁業協同組合連合会は販売、購買、サワラのブランド化、加工など、個別の漁業者では実施が困難な経営上の活動を行い水産資源の価値向上に務めている。さらに収益性改善の実証事業(福井県漁連、石川県漁協)、抜本的構造改革事業(京都府漁連)を主導した。これらのことから漁業者組織が全面的な活動を展開していると評価できる。
各府県の資源管理指針に基づく自主的管理への取り組みとして漁協内、及び定置漁業協会での会合参加が必要であり会議日数は年間12日を越えるのではないかと考えられる。公的管理への参画であるが、評価対象府県の海区漁業調整委員会には定置網漁業者や漁業者が所属する漁業協同組合(連合会)役員が参画している。サワラ資源管理も扱う水産政策審議会資源管理分科会には日本定置漁業協会役員が委員として、京都府定置漁業協会役員が特別委員として出席している。各府県の海区漁業調整委員会には学識経験者、公益代表委員が参画しており、改正漁業法下では利害関係を有しない者も参加している。各府県には漁業者に加え遊漁者、海洋性レクリエーション代表が参画する海面利用協議会が設置されており、漁業と海洋性レクリエーションとの海面利用や海面における漁業と遊漁との調整に関する事項の調査検討をしている。サワラ資源管理も扱う水産政策審議会資源管理分科会には、委員として大学研究者が、特別委員として水産や港湾の海事産業で働く船員等で組織する労働組合、水産物持続的利用のコンサルタント等からも参画している。意思決定についてみると、資源管理指針に従い作成された資源管理計画については、策定後4年を経過した次の年度に資源管理措置が適切か否か等につき外部有識者を交えた資源管理協議会において評価し、目標や管理措置の内容等の見直しを図るとされている。無論、計画の参画漁業者は結果の自己評価・検証は行うであろうし、資源管理・漁業経営安定対策のためにも外部からの参画が必要であろうが、資源管理措置を講ずる漁業者及び関係団体が資源管理協議会において評価・検証、目標や管理措置の内容の見直しに参画できておらず、PDCAサイクルを回す本来の趣旨に沿っていないのではないかと危惧される。このため、特定の関係者の機構において協議は十分に行われていないと評価される。