Pacific bluefin tuna(Niigata prefecture)
スズキ目、サバ亜目、サバ科、マグロ属に属し、学名は Thunnus orientalis。体は典型的な紡錘形。眼は小さい。胸鰭は短く、第2背鰭起部に達しない。第2背鰭、臀鰭も短い。全身は小円鱗におおわれる。体色は背面では青色がかった黒色、腹面は白色を帯びる。第1背鰭は灰色、第2背鰭先端とその小離鰭は銀白色を帯びる。
分布
北太平洋の北緯20~40度の温帯域に分布し、熱帯域や南半球にもわずかながら分布する。0~1歳魚は日本沿岸、2~3歳魚は北西太平洋に分布し、未成熟魚の一部は、太平洋を横断して東部太平洋に渡り、北米西岸に数年滞在した後、産卵のために西部太平洋へ回帰する。
生態
本種は8歳で尾叉長約200 cm、12歳で極限体長の90%である226 cmになり、寿命は20歳以上と考えられる。成熟割合は3歳で20%、4歳で50%、5歳以上で100%とされている。産卵期及び産卵場は、4~7月に南西諸島周辺海域を中心とした日本の南方~台湾の東沖、7~8月に日本海南西部である。食性は、仔魚期は動物プランクトン、当歳魚や成魚はイカ類や魚類を捕食する。
利用
クロマグロは「本まぐろ」とも呼ばれ、成魚は寿司や刺身用の高級食材として利用される。また、0~1歳の若齢魚は「めじ」または「よこわ」と呼ばれ、主に刺身用食材として安価に流通している他、養殖用種苗として利用されている。外国による漁獲の多くは数か月から1年の蓄養の後、日本向けに食材として輸出されている。
漁業
日本の定置網、ひき縄、まき網、はえ縄、韓国のまき網、台湾のはえ縄、メキシコのまき網で漁獲されている。日本のひき縄は大臣承認制、定置網は知事免許制、まき網とはえ縄は大臣許可制である。
我が国の沿岸域、太平洋の沖合域などで、様々な漁法で漁獲されている。我が国の沿岸域ではひき縄で未成魚が、定置網で未成魚と成魚が漁獲され、沖合域ではまき網により夏季から秋季に未成魚と成魚が漁獲されている。また、台湾東沖から奄美諸島周辺域にかけては、春季に我が国や台湾のはえ縄で成魚が漁獲されている。東シナ海から日本海南西部にかけては、1990年以降、我が国と韓国のまき網による未成魚の漁獲が増加している。東部太平洋ではメキシコが5~10月にまき網で漁獲しており、そのほとんどが養殖種苗となっている。米国では遊漁の対象となっている。
資源の状態
クロマグロは我が国周辺における重要水産資源であり、2年ごとに統合モデルにより漁獲物の体長頻度分布、漁獲量、資源量指数から漁法別の選択曲線、年齢別漁獲尾数、年齢別の個体数、産卵親魚量等の資源量が算出されている。解析に必要なデータは、国の委託事業として水産研究・教育機構、及び関係都県により毎年調査が行われ、更新されている。最近年(2016)年の親魚資源量は約2.1万トンであり、2010年の歴史的最低水準(約1.2万トン)から徐々に増加している。
2016 年の親魚資源量について、一般的に用いられている管理基準値と比較すると「減り過ぎ」、漁獲圧も一般的に用いられている管理基準値と比較すると「獲り過ぎ」の状態であるとされる。現行の保存管理措置に基づく漁獲シナリオでの親魚資源の将来予測では、低水準の加入が今後継続すると仮定した場合でも、2024 年までに暫定回復目標である歴史的中間値以上に親魚資源が回復する可能性が98%であるとされる。中西部太平洋水域では、1)親魚資源量を2024年までに、少なくとも60%の確率で歴史的中間値まで回復させることを暫定回復目標とする、2)30 kg未満の小型魚の漁獲量を2002~2004年平均水準から半減させる、3)30 kg以上の大型魚の漁獲量を2002~2004年平均水準から増加させない、等を内容とする保存管理措置が採択されている。
生態系・環境への配慮
生態系への影響の把握に必要となる情報、モニタリングの有無については、1980~88年のマリーンランチング計画や1992年以降の水産庁事業による調査などにより、太平洋の日本周辺水域においてクロマグロ仔稚魚調査、幼魚・成魚調査などが実施され、部分的だが利用できる情報がある。太平洋の日本周辺海域において、クロマグロ仔稚魚、動物プランクトン、海洋環境に関する調査を定期的に実施している。1952年から漁業種別の漁獲量、1990年半ばからはえ縄、まき網、ひき縄、定置網などで漁獲物組成等について部分的な情報が収集可能となっている。
評価対象種を漁獲する漁業による他魚種への影響として、混獲利用種に対する影響の評価については、大中型まき網、ひき縄、はえ縄は影響なし、大型定置網は資源状態の良くない種が含まれる状況であった。混獲非利用種に対する漁業種類別の評価は、まき網、はえ縄、ひき縄は影響なし、大型定置網は情報がなく評価出来なかった。環境省によるレッドデータブック掲載種の中で生息域が評価対象海域と重複する動物の中で海亀類のリスクは中程度とされた。
食物網を通じたクロマグロ漁獲の間接影響、漁業による環境への影響については、クロマグロはほぼ生態系の最高位に位置すると考えられるため、捕食者は無視しうる。クロマグロは日和見食性とされるため、日本周辺で資源量が大きい多獲性浮魚類の合計の資源量を検討したところ、餌料生物の状況は安定していた。温帯性マグロであるビンナガ、温帯域に分布の中心があるメカジキ、マカジキ、ヨシキリザメ、及び我が国周辺海域に分布するブリを競争者と考えたところ、マカジキの資源状態が懸念される状態であった。2004年から2017年の大海区別の総漁獲量と漁獲物平均栄養段階(MTLc)を求めて検討した結果、クロマグロの漁獲量の変動が総漁獲量やMTLcの経年的な変化に及ぼす影響は少ないと推定された。はえ縄、ひき縄、まき網は海底への影響は考えられず、定置網は網を固定するためのおもりやアンカーを使用するほか、大型構造物として沿岸域の流れを変え澱みを作る可能性が懸念された。2018年の評価対象海域における環境関連法令違反の中で対象漁業が検挙された例は認められず、対象漁業からの排出物は適切に管理されていると判断された。単位漁獲量あたり排出量(t-CO2/t)については、大中型まき網は我が国漁業の中でも低いCO2排出量となっているが,沿岸まぐろはえ縄では、全体の中程度であると判断された。
漁業の管理
クロマグロは高度回遊性魚種ではあるが、日本の沿岸や200海里水域での漁獲が多く、また消費国でもあるため、本種の管理については我が国は大きな責任があり、また各国から注目されてもいる。大中型まき網漁業、近海まぐろはえ縄漁業はインプット・コントロールとしての大臣許可漁業であり、WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)の管理措置に従いこれら漁業を含めアウトプット・コントロールを徹底するため沿岸漁業においても広域漁業調整委員会承認漁業とされた。TAC管理は小型魚、大型魚別に行われており、定置に入網したマグロを逃避させる技術開発も実施されている。WCPFCで決定された採捕してはならない魚種や漁具の制限が国内法令で決められている。漁業種類は多いが生息域をカバーした管理体制が確立し機能している。国内のクロマグロ漁獲の数量管理は一部混乱を経験したが、近年は運用が着実になされてきている。ポジティブリストの掲載漁船で漁獲されたことの証明書等による冷凍まぐろ類等の輸入事前確認手続きは、水産庁に一元化された。WCPFCの決定を踏まえた我が国へのTAC制度の導入と定着は順応的管理と見なせる。漁業者は自主的に休漁に取り組んでおり、漁獲量管理のための認定協定も締結されている。漁業協同組合ではブランドクロマグロの策出により販路を促進している。遊漁者による採捕量は都道府県別に定められる数量に含まれるため、当該都道府県知事の採捕停止命令が出された場合は遊漁者も命令対象となる。太平洋クロマグロの資源・養殖管理に関する全国会議やステークホルダー会合が開催されている。
地域の持続性
クロマグロは、大中型まき網1そうまき近海かつお・まぐろ漁業(青森県、宮城県、福島県、静岡県、三重県、長崎県)、大中型まき網1そうまきその他漁業(石川県、鳥取県、島根県)、大型定置網漁業(北海道、青森県、岩手県、新潟県、石川県、島根県、長崎県)、近海まぐろはえ縄漁業(宮崎県)、沿岸まぐろはえなわ漁業(北海道、青森県)、ひき縄釣漁業(青森県、長崎県)、その他釣漁業(長崎県)で大部分が漁獲されている。漁業収入のトレンドはやや低く、収益率は中程度、漁業関係資産はやや低かった。経営の安定性については、収入、漁獲量の安定性ともにやや低めであった。漁業者組織の財政状況は未公表の組織があるが、沿岸漁業も含めて総合しては中程度であった。操業の安全性は高く、地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業で特段の問題はなかった。クロマグロは拠点市場への水揚げが多く、買い受け人は各市場とも取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。卸売市場整備計画により衛生管理が徹底され、仕向けは全て生鮮食用向けである。労働条件の公平性は加工・流通でも特段の問題は無かった。加工流通業の持続性は高いと評価できる。先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムも整っていた。水産業関係者の所得水準は高い。さまざまな地域に特色ある漁具漁法があり、クロマグロは余すところなく伝統食としても利用され、地域の特産品と位置づける活動が活発である。
健康と安全・安心
クロマグロには、体内の酸化還元酵素の補酵素として働くナイアシン、抗酸化作用を有するセレン、メチル水銀の解毒作用など様々な機能を有するといわれているセレノネインなど様々な栄養機能成分が含まれている。脂質には、血栓予防などの効果を有するEPAと脳の発達促進や認知症予防などの効果を有するDHAが豊富に含まれている。脂身には、視覚障害の予防に効果があるビタミンA、骨の主成分であるカルシウムやリンの吸収に関与しているビタミンDが多く含まれている。また、血合肉には、鉄、タウリンが多く含まれている。タウリンはアミノ酸の一種で、動脈硬化予防、心疾患予防などの効果を有する。また、魚介類のなかでもタンパク質含量の多い魚である。旬は冬であり、この時期は赤身にも脂がのって非常に美味になる。利用に際しての留意点は、ヒスタミン中毒防止である。ヒスタミン中毒は、筋肉中に多く含まれるヒスチジンが、細菌により分解され生成したヒスタミンによるものであるため低温管理が重要である。冷凍物では、低温下での解凍・保管が必要である。また、冷凍物の解凍時には、解凍硬直を防ぐ方法での解凍が望ましい。クロマグロは、他の魚種に比べメチル水銀を蓄積しやすいため、妊婦は、厚生労働省より公表されている目安量を基に摂取する必要がある。
引用文献▼
報告書