Walleye pollock(Hokkaido prefecture, Japan Sea)
タラ目タラ科に属し、学名はGadus chalcogrammus。体は細長く眼と口は大きい。下顎が上顎より前に出ており、下顎のひげはないか極めて小さいことが、同じタラ科魚類のマダラ、コマイとの大きな違いである。成魚では、雄の腹鰭が雌より長くなることで、雌雄を判別できる。体の背側は灰褐色、腹側は銀白色で、体側にはっきりした黒褐色斑がある(志田 2003)。
志田 修 (2003) 新 北のさかなたち, 160-165.
分布
朝鮮半島東岸から北米カリフォルニア南部に至る北太平洋や、それに隣接する日本海、オホーツク海、ベーリング海の大陸棚とその斜面水域に広く分布する。日本周辺の分布の南限は日本海側が山口県、太平洋側が房総半島付近とされている(志田 2003)。スケトウダラ日本海北部系群は、能登半島からサハリンの西岸にかけて分布しているが、現在の資源状態においては、日ロ双方の水域間における資源の交流は少ないと考えられ、日本及びロシアは、各々の水域に分布する魚を利用している状況にあると考えられる。
志田 修 (2003) 新 北のさかなたち, 160-165.
生態
本系群のスケトウダラは、成熟が本格化する4歳以降の体長が、ほかの3資源評価群に比べてやや小型である。寿命は不明であるが、10歳以上の個体も採集されている。ベーリング海での最高齢は28歳と推定されている(Beamish and McFarlane 1995)。成熟は満3歳から始まり、満5歳でほぼすべての個体が成熟する。主要な産卵場は岩内湾及び檜山海域の乙部沖である(三宅 2008)。以前は檜山沿岸、岩内湾、石狩湾、雄冬沖、武蔵堆、利尻島・礼文島周辺に産卵場があったとされるが(田中 1970, 辻 1978)、現在は雄冬以北では産卵場は確認されていない(三宅ほか 2008)。産卵期は12月~翌年3月で、盛期は1~2月である(田中・及川 1968, Tsuji 1990, 前田ほか 1989)。成魚の索餌期は主に初夏から秋季であり、主要な餌生物は端脚類やオキアミ類である(小岡ほか 1997, Kooka et al. 2001)。そのほかにイカ類、環形動物、小型魚類、底生甲殻類等さまざまなものを捕食している。魚類による被食に関する情報は不明であるが、海獣類の餌料として重要であると考えられており(Ohizumi et al. 2000)、キタオットセイやトド等による被食が知られている。
Beamish, R. J. and G. A. McFarlane (1995) Recent developments in fish otolith research, 545-565.
小岡孝治ほか (1997) 日水誌, 63, 537-541.
Kooka, K. et al. (2001) Sci. Rep. Hokkaido Fish. Exp. Stn., 60, 25-27.
前田辰昭ほか (1989) 水産海洋研究, 53, 38-43.
三宅博哉 (2008) 北海道大学博士号論文, 136pp.
三宅博哉ほか (2008) 水産海洋研究, 72, 265-272.
Ohizumi, H. et al. (2000) Mar. Ecol. Prog. Ser., 200, 265-275.
田中富重 (1970) 北水試研報, 12, 1-11.
田中富重・及川久一 (1968) 北水試月報, 28(6), 2-8.
辻 敏 (1978) 北水試月報, 35(9), 1-57.
Tsuji, S. (1990) Mar. Behav. Physiol., 15, 147-205.4
利用
練り製品の原料となるすり身として利用され、鮮度の良いものは白身でくせがなく、各種料理の材料として美味である。また、卵巣を塩漬けにした「たらこ」として利用される。タツあるいはタチと呼ばれる発達した精巣は、マダラと同様に吸い物や鍋物の具になる(志田 2003)。
志田 修 (2003) 新 北のさかなたち, 160-165.
漁業
本系群は、沖合底びき網漁業1そうびき(以下、沖底)、はえ縄、刺網漁業(以下、刺網) 等の漁業によって漁獲されており、主漁場は北海道西部日本海海域である。檜山~後志地方沿岸では沿岸漁業によって産卵場に来遊する成魚が漁獲され、石狩湾以北の海域(積丹岬北~武蔵堆周辺)では、沖底によって7~8月にある禁漁期を除き、周年漁獲が行われている。韓国漁船による操業は1987年漁期から1998年漁期にかけて道西日本海で行われていたが、1999年漁期以降は行われていない。現在沖底で使用されている船の大きさは100トン以上であり、かけまわし及びオッタートロールが行われている。
資源の状態
スケトウダラの分布・回遊、年齢・成長・寿命、成熟・産卵に関する知見は豊富に蓄積されており、資源評価の基礎情報として利用可能である。漁獲量・努力量データの収集、定期的な科学調査、漁獲実態のモニタリングも毎年行われている。定期的に収集される漁業データ等に基づき、年齢別漁獲尾数が推定され、チューニングVPAにより年齢別資源尾数が推定されている。解析手法については複数の外部有識者によるチェックを毎年受けることで客観性を担保している。2019年漁期の親魚量は最大持続生産量(MSY)を実現する水準(SBmsy案)を大きく下回るが、動向は増加と判断した。2019年漁期の漁獲圧はMSYを実現する漁獲圧(Fmsy案)を下回った。現状の漁獲圧(2015~2019年漁期の漁獲圧の平均)で漁獲を続けた場合、親魚量が2031年漁期に限界管理基準値案を上回る確率は35%と予測された。改正された漁業法に基づく新たな資源管理では、資源管理方針に関する検討会での議論を踏まえて漁獲シナリオが水産政策審議会で諮問され、TAC(漁獲可能量)が設定される。
生態系・環境への配慮
スケトウダラ日本海北部系群を漁獲する漁業の生態系への影響の把握に必要となる情報、モニタリングの有無について、対象種の生態、資源、漁業等については関係機関により調査、研究が行われ成果が蓄積されている。当該海域では水産研究・教育機構、北海道立総合研究機構により定期的に海洋環境の調査・観測、スケトウダラの調査が行われている。漁業種類別・魚種別漁獲量については把握されているが、混獲非利用種や希少種について漁業から情報収集できる体制は整っていない。
スケトウダラを漁獲する漁業による他魚種への影響として、混獲利用種は、沖底、刺網ともにかれい類(マガレイ、ソウハチ、アカガレイ)、マダラ、ホッケと考えられたが、このうちホッケの資源状態が懸念される状態にあった。混獲非利用種については、沖底は不明であり、刺網は無視しうると考えた。対象海域に分布する、いずれの希少種も評価対象漁法との遭遇リスクは低く、悪影響の懸念は小さいと考えられた。
食物網を通じたスケトウダラ漁獲の間接影響として、捕食者として記録があるマダラ、イシイルカ、キタオットセイ、ミンククジラ、トドについては資源状態が懸念される種は見られない。当該海域で主要な餌はオキアミ類であるが、ツノナシオキアミでみると生産性は高く、さらに当該海域では漁獲の対象ではないことからリスクは低い。スケトウダラと食性が近いホッケを競争者と考えると、当該海域のホッケの資源状態は懸念される状態にある。
漁業による生態系全体への影響については、2014年以降、総漁獲量の減少が認められるが近年のサンマ不漁によるところが大きく、沖底や刺網が要因とは考えにくいため、生態系全体に及ぼす影響は小さいと推定された。海底環境への影響は重篤ではないが、栄養段階組成に一部変化が懸念された。水質への影響について、対象漁業からの排出物は適切に管理されており、負荷は軽微であると判断された。底びき網漁船による大気環境への影響については、排出量が比較的少なく軽微であるが刺網では中程度と判断した。
漁業の管理
沖底は農林水産大臣許可漁業であり、刺網は道知事の許可証や共同漁業権行使規則により操業している。TAC魚種であり、インプット、アウトプット・コントロールが成立している。資源の水準は低いものの漁獲圧を有効に制御する方向にある。沖底、すけとうだら固定式刺網では小型魚保護が約されている。沖底禁止ラインが設定され、その陸側では操業できず、海底環境への影響は重篤ではないが一部では変化が懸念され、刺網については海底に接しても無理にひきずる運用ではない。北海道漁業協同組合連合会では漁民の森づくり活動推進事業を展開している。沖底は水産庁管理調整課、同北海道漁業調整事務所が、刺網は北海道が管轄している。サハリンの西岸にかけても分布しているが、現在の資源状態では日本及びロシアは各々の水域に分布する魚を利用している状況にあり、生息域全体をカバーする管理体制が確立し機能している。沖底では漁獲量や操業隻日数の上限を制限する計画が立てられており、過年より自主的なプール制度等が試行されてきている。刺網においても漁獲量制限や休漁が実施されている。資源回復計画が実施された経過があるこの資源では漁獲努力量の削減等計画と同様の取り組みが継続されている。北海道機船漁業協同組合連合会は北海道機船漁業地域プロジェクトを主導し、多くの沿海漁業協同組合は付設の市場を運営し、北海道漁業協同組合連合会は国内外のマーケットへ北海道産水産物を安定供給している。本系群では、令和2年度に3回にわたり「資源管理方針に関する検討会」が開催されており、幅広い利害関係者を含む水産政策審議会がTAC設定等を審議している。種苗放流の効果を高める措置や費用負担への理解については、実施されていないため評価できない。
地域の持続性
日本海北部系群のスケトウダラは、稚内市及び後志総合振興局管内の沖底と、後志総合振興局管内の刺網で大部分が獲られている。漁業収入はやや低位で推移し、収益率のトレンドはやや高く、漁業関係資産のトレンドはやや低かった。経営の安定性については、収入の安定性、漁獲量の安定性ともにやや低かった。漁業者組織の財政状況は高評価であった。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買い受け人は各市場とも取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。卸売市場整備計画により衛生管理が徹底されており、 仕向けは加工用である。先進技術導入と普及指導活動は概ね行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準は高い。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、伝統的な加工技術や料理法がある。
健康と安全・安心
スケトウダラにはタウリンが多く含まれている。タウリンはアミノ酸の一種で、動脈硬化予防、心疾患予防等の効果を有する。スケトウダラのタンパク質には筋肉増加効果があることが報告されている。また、肝臓に含まれる肝油にはビタミンAとDが多い。ビタミンAは視覚障害の予防に効果があり、ビタミンDは骨の主成分であるカルシウムやリンの吸収に関与している。旬は12月~翌年2月である。利用に際しての留意点は、アニサキス感染防止のため生食を避けることである。アニサキスは、魚の死後時間経過に伴い内臓から筋肉へ移動するため、生食には新鮮な魚を用いること、内臓の生食はしない、冷凍・解凍したものを刺身にする等で防止する。また鮮度低下が速く、臭気の発生や冷凍保管中の劣化が起こりやすいため取り扱いには気をつける必要がある(志田 2003)。
引用文献
志田修 (2003) 33.スケトウダラTheragra chalcogramma (Pallas). 新 北のさかなたち,(監修)水島敏博・鳥澤 雅, (編)上田吉幸・前田圭司・嶋田 宏・鷹見達也, 北海道新聞社, 北海道, 160-165.
引用文献▼
報告書