Flathead flounder (Niigata prefecture)
カレイ目カレイ科に属し、学名はHippoglossoides dubius。口は大きく、上顎後端は下眼の中央下に達する。眼は体の側面にある。背鰭の起部は上眼の前半部にある。無眼側は内出血したようにやや赤い。
分布
島根県以北の日本海、茨城県以北の太平洋、サハリン、カムチャッカ半島に分布する。日本海における分布水深は150~900m。
生態
寿命は20歳。50%成熟体長は雌25cm、雄17cm。産卵期は2~4月であり、若狭湾、経ヶ岬周辺、赤碕沖を中心とする隠岐諸島周辺および粟島北方において、分布域のうち浅めの水深180~200mで産卵する。クモヒトデ類を周年捕食するが、オキアミ類やホタルイカモドキ類等のマイクロネクトンが増えると、それらを選択的に捕食する。幼稚魚はマダラに捕食されるが、成魚が捕食された記録はない。
利用
漁獲の主体は雌で体長25cm以上、雄で20cm以上(ともに5歳以上)であり、日本海では多くが生鮮で扱われる。煮付け、焼き、中華料理等に使われる。新鮮なものを刺身で食べる地域もあり、鳥取県には刺身に加熱した卵をまぶす「子まぶり」という料理がある。一部の地域ではブランド化が進められている。
漁業
漁獲のうち9割以上が沖合底びき網(沖底:1そうびきおよび2そうびき)と小型底びき網(小底)によるものであり、そのほかにはわずかに刺し網による漁獲がある。なお、京都府機船底曳網漁業連合会のアカガレイ漁は、令和元年8月に認証撤退したが過去に海洋管理協議会(MSC)による海のエコラベルMSC漁業認証を取得している。沖底、小底ともにかけまわしにより操業している。鳥取県および兵庫県の沖底では40トン以上の中大型船が主体であるが、京都府以東では20トン以下の沖底および小底が大半を占める。中大型船では2日以上、小型船では日帰り操業が多い。
資源の状態
沖合底びき網漁業の資源密度指数は、1981年をピークに急激に減少し、1980年代終わり以降は低い水準で安定していた。2004年以降増加傾向にあったが、2011年以降は横ばいである。トロール調査による現存量でも2000年以降の増加傾向は弱まっている。2017年の資源水準は中位、動向は横ばいである。以上の情報については、国の委託事業として水産研究・教育機構(以下、水産機構)、関係府県により毎年調査され更新されている。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議されるとともにパブリックコメントにも対応した後に確定されている。資源評価結果は毎年公表されている。
生態系・環境への配慮
アカガレイ日本海系群を漁獲する漁業の生態系への影響の把握に必要となる情報、モニタリングの有無について、評価対象種の生態、資源、漁業等については関係府県、水産機構・日本海区水産研究所等で調査が行われ成果が蓄積されており、水温、塩分等の調査も定期的に実施されている。沖合底びき網、小型底びき網漁業について混獲非利用種や希少種について漁業から情報収集できる体制は整っていない。
混獲種への影響については、利用種として、両漁業ともハタハタ、ズワイガニ、ソウハチが挙がるが、どの魚種も資源は懸念される状態になかった。非利用種としてはクモヒトデ類が挙げられるが、悪影響が懸念される状況ではなかった。環境省によるレッドデータブック掲載種の中で、生息域が評価対象海域と重複する動物の中でアカウミガメでは混獲リスクが中程度であったが、そのほかの希少種ではリスクは低いと判断された。
食物網を通じたアカガレイ漁獲の間接影響について、アカガレイの捕食者と考えられるマダラ、餌生物と考えられるクモヒトデ類、オキアミ類、ホタルイカ、キュウリエソ、ドスイカ、競争者と考えられるマダラ、ハタハタについて、いずれもアカガレイの漁獲による影響は見出せなかった。
漁業による生態系全体への影響については、2004~2017年の日本海西区における総漁獲量および漁獲物平均栄養段階(MTLc)は安定して推移していることから小さいと推定された。漁業による環境への影響については、海底、水質、大気ともに重篤な影響を与えているとの評価にはならなかった。
漁業の管理
アカガレイを漁獲する沖合底びき網、小型底びき網漁業は大臣、知事許可漁業である。TAE対象種であり漁獲努力可能量(隻日)が適用されている。沖合底びき網漁業には操業期間等、小型底びき網漁業には操業期間、網目等の制限等について規制があり、保護区の設定や小型魚の再放流がなされている。沖合底びき網漁業禁止ラインの陸側では操業が禁止されており、網口開口板の使用は禁止されている。小型底びき網漁業にも禁止ラインの設定や、漁具の制限があり、分離漁獲型底びき網の導入がなされてきた。海底清掃、海底耕耘を実施する県もある。生態系の保全・再生活動が活発に行われている。管理の執行については、国、県の行政、関係漁業者団体によって生息域をカバーする管理体制が確立して機能している。年1回更新される海洋生物資源の保存及び管理に関する基本計画において資源の動向が記述され、漁獲努力可能量が設定され、順応的管理の仕組みが相当程度導入されてきている。漁業協同組合等の単位で休業等を内容とする資源管理計画を実施し、関係漁業者団体は日本海西部あかがれい・ずわいがに広域資源管理検討協議会に参画している。漁業協同組合やその連合会は地域プロジェクト改革計画を主導し、ブランド化や直販店運営で販売促進がなされている。利害関係者の参画については、遊漁者、公益代表者等が県国レベルでの協議会、審議会へ関与している。管理施策の意思決定では、資源回復計画以来の広域漁業調整委員会を含めた関係者で施策が協議されてきている。種苗放流は実施されていない。
地域の持続性
日本海系群のアカガレイは、沖合底びき網(福井県、兵庫県、鳥取県)、小型底びき網(石川県、福井県)で大部分が獲られている。漁業収入は中程度で推移し収益率のトレンドはやや高く、漁業関係資産のトレンドは低かった。経営の安定性については、収入の安定性、漁獲量の安定性ともにやや高かった。漁業者組織の財政状況は未公表の組織も含まれた。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買受人は各市場とも取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。卸売市場整備計画により衛生管理が徹底されており、仕向けは高級消費用あるいは中級消費用である。先進技術導入と普及指導活動は活発に行われており、物流システムは整っている。水産業関係者の所得水準はやや高い。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、伝統的な加工技術や料理法がある。
健康と安全・安心
アカガレイの肉は良質なタンパク質を含み、縁側には皮膚の健康を保つ働きがあるコラーゲンが含まれている。一般的に、カレイ類には、体内でエネルギー変換に関与しているビタミンB1、骨の主成分であるカルシウムやリンの吸収に関与しているビタミンDが多く含まれている。旬は冬~春で、産卵期を迎え卵や白子が発達して美味しくなるといわれているが、地域によりやや異なっており、越前がれい(福井県)は脂がのってくる10~12月、石川県では4~6月が旬であるとの記述がある。
引用文献▼
報告書