Willowy flounder(Miyagi prefecture)
カレイ目カレイ科に属し、学名はTanakius kitaharaeである。体は扁平であり、他のカレイ類と比べて細長い。口は小さく、上顎後端は眼の前縁下で終わる。本種はヒレグロに似るが、ヒレグロに比べて淡色であること、眼上に鱗があること、無眼側の頭部にくぼみがないことが特徴となっている。
分布
北海道積丹半島~九州北西岸の日本海沿岸、北海道噴火湾~千葉県庁誌の太平洋沿岸、相模湾、遠州灘、三重県尾鷲、土佐湾、豊後水道、渤海南部、黄海、東シナ海北東部、済州島に分布する。評価対象の太平洋北部系群は青森県大間~銚子に分布する群れである。
生態
成長は雄よりも雌の方が早く、寿命も雄では6歳前後であるのに対し、雌では長く20歳の個体まで確認されている。ただし、10歳以上の個体は極めて少ないため、多くの雌は10歳までに死亡すると考えられる。太平洋北部の産卵期は1~6月で、1~3月にピークが認められる。雄は満2歳で成熟し、雌は一部が2歳、多くは3歳で成熟するが、年齢別の成熟率は年代によって異なる。多毛類や甲殻類が主な餌生物である。
利用
主に干物として食用とされている。抱卵している雌を天日で干したものは「子持ちヤナギ」と呼ばれ最高級の干物魚として利用されている。
漁業
本種は主に沖合底びき網漁業もしくは小型底びき網漁業によって漁獲されている。
当該海域における沖合底びき網漁業は、主に19トン型および65トン型の船が用いられている。海域によって漁法が異なり、襟裳西および尻屋崎海区ではかけまわし、岩手海区では2艘びきもしくはかけまわし、金華山海区~房総海区ではオッタートロールが主である。
資源の状態
ヤナギムシガレイは、東北の南部海域の底びき網漁業の重要種であり、資源量は毎年コホート解析によって推定され、それに基づきABCが算定されている。コホート解析に必要な漁獲量、年齢組成、年齢別成熟率等のデータは、国の委託事業として水産研究・教育機構、関係県によって毎年調べられ、更新されている。ヤナギムシガレイの漁獲量、資源量には長期的に大きな変動が認められ、1980年代半ばから1990年代半ばにかけて極めて低水準となっていた。1990年代後半に急激に増加したが、2000年になると高位で収束した。その後は安定していたが、2014年以降は再び増加傾向にある。現在の漁獲圧は東日本大震災以前に比べると低く、現在の漁獲圧がそのまま続いても親魚量を十分確保できると考えられる。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議されるとともにパブリックコメントにも対応した後に確定されている。資源評価結果は毎年公表されている。
生態系・環境への配慮
太平洋北区は農林水産省のプロジェクト研究、水産機構の一般研究課題として長期にわたり調査が行われている。現在Ecopathによる食物網構造と漁業の生態系への影響評価が進められている。当該海域における海洋環境及び低次生産、底魚類などに関する調査は水産機構、関係県の調査船により定期的に実施されている。評価対象漁業について魚種別漁獲量は把握されているが、混獲非利用種や希少種について、漁業から情報収集できる体制は整っていない。
沖合底びき網1艘びき、2艘びきとも、混獲利用種のうちスルメイカの資源状態が懸念される。小型底びき網ではマコガレイなどの資源状態が懸念される。混獲非利用種については、沖合底びき網(1艘びき、2艘びき、小型底びき)では調査船調査結果から推定した混獲非利用種について、総合的には悪影響を受けている種は見られなかった。環境省が指定した絶滅危惧種で評価対象水域と分布域が重複する種についてリスク評価した結果、各漁業とも総合的には希少種に対するリスクは低いと判断された。
食物網を通じた間接作用に関して、ヤナギムシガレイの捕食者は不明である。ヤナギムシガレイの餌生物は多毛類、次いで甲殻類であるが、生態系モデルEcopathのMixed trophic impactの結果では、甲殻類への影響は検出されなかった。多毛類などベントス食性のヤナギムシガレイと食性が重複するキチジおよびかれい類が競争者と考えられるが、生態系モデルEcopathのMixed trophic impactの結果によれば、ヤナギムシガレイとのPrey niche overlap indexが高く、捕食を巡るニッチ重複度が高いという推定結果が得られた生物群は検出されなかった。
生態系全体への影響では、沖合底びき網漁業、小型底びき網漁業ともに、規模と強度の影響は重篤ではなく、栄養段階組成で判断した結果からは、生態系特性に不可逆的な変化は起こっていないと考えられた。
海底環境への影響について、オッタートロールでは重篤な悪影響が懸念されるが、かけまわし、2艘びきによる影響は軽微と考えられ、沖底全体でも影響は軽微と考えられる。一方で小型底びきでは、一部で悪影響が懸念された。水質への影響としては、対象漁業からの排出物は適切に管理されており、負荷は軽微であると判断される。大気への影響は、沖合底びき1艘びきの漁獲量1トンあたりのCO2排出量は、他の漁業種類と比べると低いため、軽微であると判断された。
漁業の管理
太平洋北部のヤナギムシガレイは、主に沖合底びき網漁業と小型底びき網漁業により漁獲されている。TAE対象魚種であり、海域と期間を指定して漁獲努力可能量が定められている。また「太平洋北部沖合性カレイ類資源回復計画」における特定の期間には操業をしない保護区も、引き続き自主的に設定され、漁業者団体による地域プロジェクト改革計画等の実施も行われている。
地域の持続性
ヤナギムシガレイ太平洋北部は、沖合底びき網漁業(岩手県、茨城県、福島県)、小型底びき網漁業(宮城県、福島県、茨城県)で多くが獲られている。収益率のトレンドは低く、漁業関係資産のトレンドも低位であった。経営の安定性の面では、収入の安定性、漁獲量の安定性は中程度で、漁業者組織の財政状況は高位であった。操業の安全性、地域雇用への貢献は高かった。各県とも水揚げ量が多い拠点産地市場がある一方、中規模市場が分散立地している。買受人は各市場とも取扱量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。卸売市場整備計画により衛生管理は徹底されている。大きな労働災害は報告されておらず、本地域の加工流通業の持続性は高い。先進技術導入と普及指導活動は中程度であり、物流システムは整っているといえる。水産業関係者の所得水準は高い。岩手県・福島県の沖合底びきは、スターン方式に変わっていった。岩手県・茨城県では伝統的な加工法や料理法が数多く伝えられている。
健康と安全・安心
ヤナギムシガレイの肉は、良質なタンパク質を含み、縁側には皮膚の健康を保つ働きがあるコラーゲンが含まれている。一般的に、カレイ類には、体内でエネルギー変換に関与しているビタミンB1、骨の主成分であるカルシウムやリンの吸収に関与しているDが多く含まれている。旬は,12月から3月である。
引用文献▼
報告書