Japanese sardine(Yamaguchi prefecture, Japan Sea)
ニシン目、ニシン亜目、ニシン科に属し、学名はSardinops melanostictus。体は延長し、腹部はやや扁平。下顎は上顎よりわずかに突出する。鰓耙は細長く密生する。体側に1列の黒点列があり、ときにその上下に1列ずつの黒点がある。
分布
対馬暖流系群の主な分布域は日本海および東シナ海北部であるが、資源高水準期には沿海地方の沿岸域やサハリン南西海域、黄海にも及ぶ。
生態
寿命は7歳程度。成熟開始年齢は資源の高水準期には高齢化、低水準期には若齢化の傾向がみられる。低位水準から中位水準に移行した近年の成熟率は1歳で50%程度、2歳で100%とされる。
利用
さば類と並ぶもっとも一般的な大衆魚として食用される。生鮮の他、素干し、塩干し、缶詰、魚油などに加工して食用される。ハマチなどの養魚や家畜の飼料としても用いられる。
漁業
我が国周辺でマイワシを漁獲する主な漁業は、まき網、定置網である。船びき網などによってシラスも漁獲される。対馬暖流系群に対する近年の漁獲量の多くは日本海西区におけるものであり、特に隠岐諸島周辺の中小型まき網による漁獲が多くを占める。
主要漁業であるまき網漁業で使用される網船の大きさは主に19トンである。まき網では、魚群を魚探やソナーで探索し、光で集魚して巻いている。
資源の状態
マイワシは我が国周辺水域における重要水産資源であり毎年コホート解析により年齢別資源量が算出され、それに基づいて漁獲可能量(TAC)が算出されている。コホート解析に必要な漁獲量、年齢組成、更に次年度の資源量予測に必要となる年齢別成熟割合、近年の再生産成功率、加入量などのデータは国の委託事業として水産研究・教育機構、関係都道府県により毎年調査され更新されている。
マイワシは長周期の資源変動がみられ、対馬暖流系群は2000年台には低水準期が続いたが、2010年代前半から増加傾向にある。2015年の資源水準は中位であり、資源動向は横ばいとなっている。現状の漁獲圧は生物学的な管理基準であるFmed(親子関係のプロットの中央値に相当する漁獲係数)より小さい。将来予測では現状の漁獲圧が続いた場合、2021年に親魚量が低位水準と中位水準の境であるBlimitを上回る確率は極めて高い。
資源評価は公開の会議で外部有識者を交えて協議されるとともにパブリックコメントにも対応した後確定される。資源評価結果は毎年公表されている。
生態系・環境への配慮
東シナ海は農林水産省農林水産技術会議委託プロジェクト研究の対象海域となるなど海洋環境と生態系、魚類生産に関する研究は豊富である。海洋環境及び漁業資源に関する調査は水産機構の調査船、沿岸各県の調査船によって高い頻度で実施されている。ただし、漁業によるモニタリングについては混獲非利用種や希少種について、漁業から情報収集できる体制は整っていない。
大中型まき網での混獲利用種であるマサバ、ゴマサバ、マアジ、ブリ、中・小型まき網混獲利用種のウルメイワシ、カタクチイワシ、マサバ、ゴマサバ、マアジについてマサバ、カタクチイワシは資源状態が懸念される状態にあった。混獲非利用種については、両漁業とも情報がなかった。当該海域に分布する希少種に対する両漁業の評価はともに全体では低リスクであったが、アカウミガメ、アオウミガメについは中程度リスクであった。
食物網を通じた間接影響であるが、マイワシ捕食者であるブリ、サワラ、タチウオ、ハンドウイルカ、イワシクジラ、シャチ、カマイルカ、コビレゴンドウ、スナメリ、ミンククジラ、カツオドリ、アジサシ、ウミネコ、ウトウについて、資源動向を判断するデータが乏しい種が多数存在した。餌生物は2005年までのデータであるが1960年代以降動物プランクトンの増加現象が見られた。この定向的変化の原因は水温の影響が示唆されるが、マイワシの減少の影響の有無については特定できなかった。競争者であるカタクチイワシ、ウルメイワシについてはカタクチイワシの資源状態が懸念される状態と考えられた。
生態系全体への影響としては、大中型まき網、中・小型まき網とも漁業の影響強度は低く、生態系特性に不可逆的な変化は起こっていないと考えられた。まき網の着底による海底への影響は小さいと考えられる。水質環境への影響については、対象漁業からの排出物は適切に管理されており負荷は軽微であると判断された。大気への影響は、対象漁業は我が国の漁船漁業の中では燃油消費量や温暖化ガスの環境負荷量が比較的小さい漁業であると考えられる。
漁業の管理
マイワシ対馬暖流系群東シナ海区については、主に大中型まき網、中・小型まき網漁業で漁獲されている。大中型まき網漁業では、長崎県、中・小型まき網漁業でも長崎県での漁獲量が多い。国、県の許可漁業であり、またTAC対象魚種であるためインプット・コントロールとともにアウトプット・コントロールもなされている。まき網漁業では、かつての資源回復計画と同様の努力量、小型魚保護の規制を資源管理指針、計画の中で継続している。
地域の持続性
マイワシ対馬暖流系群は、長崎県の大中型まき網、長崎県の中・小型まき網で大部分が獲られている。収益率のトレンドは低かったが、漁業収入及び漁業関係資産のトレンドは高かった。経営の安定性については、収入の安定性・漁獲量の安定性ともに低かった。操業の安全性、地域雇用への貢献はともに高かった。長崎県は中小零細市場が多く、このうち零細市場ではセリ取引、入札取引による競争原理が働かない場合も生じるが、マイワシでは少ない産地市場において、比較的大人数の買受人参加の下でセリ取引、入札取引が行われており、競争原理は働いている。卸売市場整備計画により衛生管理が徹底されている。大きな労働災害は報告されておらず、地域雇用への貢献も比較的高く、本地域の加工流通業の持続性は中程度と評価できる。先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムも整っていた。水産業関係者の所得水準はおおむね高い。漁具漁法も発展しつつ継続している。伝統的な加工法や料理法が数多く伝えられている。
健康と安全・安心
マイワシには、骨や歯の組織形成に関与するカルシウム、血液の構成成分である鉄、抗酸化作用を有するセレンなど様々な栄養機能成分が含まれている。脂質には、血栓予防などの効果を有するEPAと脳の発達促進や認知症予防などの効果を有するDHAが豊富に含まれている。タンパク質には血栓溶解作用があることがラットを用いた実験により確認されている。また、血合肉には、タウリンが多く含まれている。タウリンはアミノ酸の一種で、動脈硬化予防、心疾患予防などの効果を有する。旬は脂質含量が最も高くなる秋である。利用に際しての留意点は、ヒスタミン中毒と生食によるアニサキス感染防止である。ヒスタミン中毒は、筋肉中に多く含まれるヒスチジンが、細菌により分解、生成したヒスタミンによるものであるため鮮度保持が重要である。アニサキスは、死後の時間経過に伴い内臓から筋肉へ移動するため、生食には、新鮮な魚を用いること、内臓の生食はしない、冷凍・解凍したものを刺身にするなどで防止する。
引用文献▼
報告書