Angler fish(Ibaraki prefecture)
アンコウ目、アンコウ科に属し、学名はLophius litulton。頭は大きく、体は平たい。アンコウ(Lophius setigerus)に似るが、体は黄色味を帯び、口内、舌および腹膜は白く、舌に円形の黄色斑がないことで区別できる。
分布
北海道以南の沿岸各地や中国の河北省、山東省の沿岸域、朝鮮半島沿岸および黄海・東シナ海に分布する。関東地方以北の太平洋岸では青森県~千葉県沿岸に分布し、水深30~400mの大陸棚から陸棚斜面に生息している。
生態
福島県沿岸では、成熟体長は雌で55cm前後、雄で35cm前後と報告されている。東シナ海、黄海産キアンコウについては産卵期における雌の50%成熟年齢は6.2歳、雄では5.4歳と報告されている。津軽海峡東部沿岸では、漁業者からの聴き取りおよび洋上における卵塊の視認から、産卵期は4~6月であると推定されている。福島県中部海域においては、産卵期は4月から遅くとも8月と推定されている。福島県沖では、体長10cm未満の個体はサラサガジやエゾイソアイナメなどの小型魚を中心に摂食しており、その他甲殻類の出現頻度が高いことが知られている。体長20cm以上の個体から、カレイ類、タラ類を摂食するようになり、成長に伴い出現頻度が増加する。月別にみると、4月はイカナゴの出現頻度が、9~10月はギンアナゴの出現頻度が最も高く、その他の月はカタクチイワシの出現頻度が最も高い。ミズウオによる捕食事例が報告されている。
利用
冬季の鍋料理の材料として賞用されている。
漁業
キアンコウは太平洋北部海域では沖合底びき網漁業(以下、沖底)、小型底びき網漁業(以下、小底)を主体に、底刺網漁業や定置網漁業でも漁獲されている。
沖底の漁獲成績報告書に基づくと、沖底による漁獲量は宮城県の金華山沖と青森県沖が高くなっており、近年は尻屋崎-襟裳西海区および金華山-房総海区が主漁場であると考えられる。2011年3月11日の東日本大震災(以下、震災)の後、福島県では一時的にキアンコウの水揚げは0になったが、2013年8月から試験操業の対象魚種になり、沖底による漁獲が若干量得られている。
資源の状態
キアンコウ太平洋北部のCPUEは、尻屋崎-襟裳西海区では長期的に減少傾向にあるものの、金華山-房総海区では震災以降、増加傾向にある。金華山-房総海区でCPUEが増加しているのは、震災による漁獲努力量減少効果であると推察される。以上の情報については、国の委託事業として水産研究・教育機構(以下、水産機構)、関係府県により毎年調査され更新されている。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議されるとともに、パブリックコメントにも対応した後に確定されている。資源評価結果は毎年公表されている。
生態系・環境への配慮
太平洋北区は農林水産省のプロジェクト研究、水産機構の一般研究課題として長期にわたり調査が行われている。現在Ecopathによる食物網構造と漁業の生態系への影響評価が進められている。当該海域における海洋環境及び低次生産、底魚類などに関する調査は水産機構、関係県の調査船により定期的に実施されている。沖合底びき網、定置網、小型底びき網漁業による魚種別漁獲量は把握されているが、混獲非利用種や希少種について漁業から情報収集できる体制は整っていない。
沖合底びき網1艘びき、2艘びきとも、混獲利用種のうちスルメイカの資源状態が懸念される。定置網では、現状で資源状態が懸念される魚種はない。小型底びき網では、マコガレイなどの資源状態が懸念される。混獲非利用種については、沖合底びき網(1艘びき、2艘びき、小型底びき)に関する調査船調査結果から推定したところ、総合的には悪影響を受けている種は見られなかった。定置網では情報が得られなかった。環境省が指定した絶滅危惧種で、評価対象水域と分布域が重複する種についてリスク評価した結果、各漁業とも総合的リスクは低いと判断された。
食物網を通じた間接作用からみた捕食者への影響については、捕食者であるミズウオに関する情報がなく、評価不能であった。餌生物について、カタクチイワシとキアンコウの資源量の間には正の相関関係が見られ、キアンコウのトップダウンコントロールがないことが示唆された。競争者に関する、生態系モデルEcopathによる解析結果では、中深層性サメ類がキアンコウに負の影響を及ぼしているものの、キアンコウが他に大きな負の影響を及ぼしている結果は得られなかった。
生態系全体への影響としては、沖合底びき網、小型底びき網、定置網ともに漁業の規模と強度は重篤な影響を与える懸念は示されず、栄養段階組成の変化から見て、生態系特性に不可逆的な変化は起こっていないと考えられる。海底環境については、オッタートロールでは重篤な悪影響が懸念されるが、かけまわし、2艘びきによる影響は軽微と考えられ、沖底全体として影響は軽微と考えられる。ただし、小型底びき網では一部で悪影響が懸念された。定置網は着底漁具ではないが、網を固定するアンカーが海底と接触している。水質への影響としては、対象漁業からの排出物は適切に管理されており、負荷は軽微であると判断される。大気への影響は、沖合底びき網1艘びきの漁獲量1トンあたりのCO2排出量から、他の漁業種類と比べると低いと判断された。
漁業の管理
太平洋北部のキアンコウは、主に沖合底びき網漁業と小型底びき網漁業、刺網漁業、定置漁業で漁獲されている。「太平洋北部沖合性カレイ類資源回復計画」における特定の期間には操業をしない保護区も引き続き自主的に設定されている。刺網漁業を中心に、キアンコウのブランド化を進める地域もある。底びき網漁業では、漁業者団体による地域プロジェクト改革計画等の実施が行われている。
地域の持続性
キアンコウ太平洋北部系群は、沖合底びき網漁業(青森県、宮城県、茨城県、福島県)、小型底びき網漁業(青森県、福島県、茨城県)、定置網漁業(青森県)、その他の刺し網漁業(青森県)でその多くが獲られている。収益率のトレンドは低く、漁業関係資産のトレンドも低位であった。経営の安定性については、収入の安定性、漁獲量の安定性は中程度で、漁業者組織の財政状況は高位であった。操業の安全性、地域雇用への貢献は高かった。各県とも水揚げ量が多い拠点産地市場がある一方、中規模市場が分散立地している。買受人は各市場とも取扱量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理はおおむね働いている。卸売市場整備計画により衛生管理は徹底されている。大きな労働災害は報告されておらず、本地域の加工流通業の持続性は高い。先進技術導入と普及指導活動はおおむね行われており、物流システムも整っていた。水産業関係者の所得水準はおおむね高い。福島県・茨城県では伝統的な加工法や料理法が数多く伝えられている。
健康と安全・安心
キアンコウは、肝に血栓予防や高血圧予防などの効果を有する高度不飽和脂肪酸であるEPAと脳の発達促進や認知症予防などの効果を有するDHAが豊富に含まれている。また、視覚障害の予防効果があるビタミンA、骨の主成分であるカルシウムやリンの吸収に関与しているビタミンD、老化現象の進行抑制作用、生体膜の状態維持、生殖機能の保持作用があるビタミンEが極めて多量に含まれている。旬は冬である。
引用文献▼
報告書