サスティナブルでヘルシーなうまい日本の魚プロジェクト

Sustainable, Healthy and “Umai” Nippon seafood project

サスティナブルでヘルシーな
うまい日本の魚プロジェクト

トラフグ(京都府)

フグ目、フグ科に属し、学名はTakifugu rubripes。胸鰭上後方に白い縁取りのある黒い大きな斑紋があり、紡錘形で背と腹側に小さな棘を密集させている。

分布

日本、中国、韓国の沿岸を含む太平洋北西部に分布し(松原 1955)、日本海・東シナ海・瀬戸内海系群は日本海、東シナ海、黄海、瀬戸内海に分布する。
松原喜代松 (1955) トラフグ属Fugu Abe, 1952. 「魚類の形態と検索」. 石崎書店, 東京, 1018-1022.

生態

寿命は10歳程度(尾串 1987, 岩政 1988)、成熟開始年齢は雄は2歳で、雌は3歳(藤田 1988)。産卵期は3月下旬〜6月。本系群について特定もしくは推定されている産卵場は八郎潟周辺、七尾湾、若狭湾、福岡湾、有明海、八代海、関門海峡、布刈瀬戸、備讃瀬戸で、朝鮮半島や中国の沿岸にも産卵場があるとされる(Kusakabe et al. 1962, 日高ほか 1988, 藤田 1996, Katamachi et al. 2015)。春に発生した仔稚魚は産卵場周辺の成育場に留まった後、索餌域に移動し、産卵期になると成熟個体が生まれた産卵場に回帰すると考えられている(Kusakabe et al. 1962, 伊藤 1997, 伊藤ほか 1998, 佐藤ほか 1999, 松村 2006)。食性は、仔魚は動物プランクトン、稚魚期は小型甲殻類、未成魚はいわし類やその他の幼魚、えび・かに類、成魚は魚類、えび・かに類を捕食する(松浦 1997)。
藤田矢郎 (1988) 日本近海のフグ類. (社) 日本水産資源保護協会, pp.128.
藤田矢郎 (1996) さいばい, 79, 15-18.
日高 健・高橋 実・伊藤正博 (1988) トラフグ資源生態に関する研究Ⅰ-福岡湾周辺における卵と幼稚魚の分布-. 福岡水試研報, 14, 1-11.
伊藤正木 (1997) 移動と回遊からみた系群. 「トラフグの漁業と資源管理」 (多部田 修編) 恒星社厚生閣, 東京, 41-52.
伊藤正木・小嶋喜久雄・田川 勝 (1998) 若狭湾で実施した標識放流実験から推定したトラフグ成魚の回遊. 日水誌, 64, 435-439.
岩政陽夫 (1988) 黄海・東シナ海産トラフグの年齢と成長. 山口県外海水産試験場研究報告, 23, 30-35.
Katamachi, D., M. Ikeda and K. Uno (2015) Identification of spawning sites of the tiger puffer Takifugu rubripes in Nanao Bay, Japan, using DNA analysis. Fish Sci, 81, 485-494.
Kusakabe, D., Y. Murakami and T. Onbe (1962) Fecundity and spawning of a puffer Fugu rubripes (T. et S.) in the central waters of the Inland Sea of Japan. J Fac Fish Anim Husb Hiroshima Univ, 4, 47-79.
松村靖治 (2006) 有明海におけるトラフグTakifugu rubripesの人工種苗の産卵回帰時の放流効果. 日水誌, 72, 1029-1038.
松浦修平 (1997) 生物学的特性. 「トラフグの漁業と資源管理」 (多部田 修編) 恒星社厚生閣, 東京, 16-27.
尾串好隆 (1987) 黄海・東シナ海産トラフグの年齢と成長. 山口県外海水産試験場研究報告, 22, 30-36.
佐藤良三・鈴木伸洋・柴田玲奈・山本正直 (1999) トラフグTakifugu rubripes親魚の瀬戸内海・布刈瀬戸の産卵場への回帰性. 日水誌, 65, 689-694.

利用

市場価値が高く、刺身、鍋、唐揚げ等として供される。

漁業

八郎潟周辺、七尾湾、若狭湾、福岡湾、有明海、八代海、関門海峡周辺、布刈瀬戸、備讃瀬戸では、3〜6月に2歳魚以上の親魚が定置網、釣り、その他の網によって漁獲され、7月〜翌年1月に0歳魚が定置網、小型底びき網漁業、釣り、はえ縄によって漁獲される。日本海、東シナ海の沖合、豊後水道、紀伊水道では、12月〜翌年3月に0歳魚以上がはえ縄によって漁獲される(天野・檜山 1996, 柴田ほか 1997, 伊藤・多部田 2000)。本種を主対象として漁獲する日本海、東シナ海におけるはえ縄の操業は、1965年以前には日本の沿岸域に限られていたが、1965年の日韓漁業協定以降、東シナ海、黄海へと漁場が拡大した。1977年以降は、北朝鮮の200海里宣言によって北緯38度以北の海域に出漁ができなくなり、北緯38度以南の黄海、東シナ海、対馬海峡から山陰に至る海域が主漁場となった。新日韓漁業協定(1999年)、新日中漁業協定(2000年)以降は九州・山口北西海域が主漁場となっている。
天野千絵・檜山節久 (1996) 東シナ海,黄海,日本海. 「トラフグの漁業と資源管理」 (多部田 修編) 恒星社厚生閣, 東京, 53-67.
伊藤正木・多部田 修 (2000) 漁業協同組合へのアンケート調査結果から推定した日本周辺のトラフグの分布. 水産増殖, 48, 17-24.
柴田玲奈・佐藤良三・東海 正 (1997) 瀬戸内海とその周辺水域. 「トラフグの漁業と資源管理」(多部田 修編) 恒星社厚生閣, 東京, 68-83.


あなたの総合評価

資源の状態

 トラフグは重要な水産種であり、資源生態に関する知見は蓄積されており、資源評価の基礎情報として利用可能である。漁獲量・努力量データの収集は毎年行われている。推定された年齢別漁獲尾数を用いて、コホート解析による資源評価が毎年実施されている。資源評価の内容は公開の場を通じて利害関係者の諮問を受けて精緻化されている。下関唐戸魚市場の内海産(主に瀬戸内海産)取扱量に基づいて、資源水準は低位と判断した。資源量の推移から資源動向は減少と判断した。直近5年間のうち4年、漁獲量はABClimitを上回っている。現状の漁獲圧が続いた場合、資源量、親魚量は減少が続くと予測される。本系群では、資源評価に応じた漁業管理方策、環境変化が及ぼす影響を考慮した漁業管理方策は策定されていない。



生態系・環境への配慮

 東シナ海においてトラフグを漁獲する漁業による生態系への影響の把握に必要となる情報については、当該海域は我が国周辺の多獲性浮魚類の重要な産卵海域、及び育成場であることから、海洋環境と生態系、魚類生産に関する研究の歴史は古い。海洋環境及び漁業資源に関する調査が水産研究・教育機構、関係県の調査船によって毎年実施されている。ただし、統計法に則り行政機関により県別・漁業種類別・魚種別漁獲量等は調査され公表されているが、混獲や漁獲物組成に関する情報は十分得られていない。
 評価対象種を漁獲する漁業による他魚種への影響のうち、混獲利用種については、はえ縄はサバフグ、マフグで資源状態は懸念される状態と考えられた。釣りは魚種に対する選択制が強く他魚種への影響は軽微と考えた。小底はマダイ、チダイ・キダイ、コウイカ、シログチ、タマガンゾウビラメ、メイタガレイ、カワハギ、コモンサカタザメ、アカエイ、トカゲエソ、コクチフサカサゴ、オニオコゼ、トカゲゴチ、マアジ、シロギス、ヒメジ、ヒラメ、ウマヅラハギ、コモンフグとしたが、そのうちウマヅラハギ、かれい類、えそ類、かさご類、こういか類、その他ふぐ類では資源が懸念される状態にあった。小型定置網ではマアジ、ブリ、アオリイカ、さば類、アカエイ、マダイ、ヒラメ、カワハギ、コモンフグ、カタクチイワシ、スズキ、ムツ、ショウサイフグとしたが、そのうちカタクチイワシ、その他ふぐ類の資源が懸念される状態であった。混獲非利用種については、はえ縄、釣りは漁具の選択性が比較的高いと考えられることから目立った混獲非利用種はないと考えた。小底はミノカサゴ、テンジクダイ、クラカケトラギスとしたが、いずれの種も混獲のリスクは低かった。小型定置網はゴンズイ、ネンブツダイ、クサフグ、ミズクラゲとしたが、いずれも混獲のリスクは低かった。対象海域に分布する希少種のうち、アカウミガメとアオウミガメは寿命が長いため中程度の影響リスクが認められたが全体としては低いと考えられた。
 食物網を通じたトラフグ漁獲の間接影響については、本種は毒を有する魚であるため、捕食者はほぼ存在しないのではないかと考えられる。餌生物としては、カタクチイワシ、マイワシ等の魚類、えび類、かに類が挙げられる。トラフグがいわし類の資源変動を引き起こしている可能性は低いと考えられる。トラフグとの関係は不明であるが、かに類の漁獲量が減少傾向であった。競争種は近縁のサバフグ、マフグとした。これらの種はトラフグ同様、減少傾向と見られた。
 漁業による生態系全体への影響については、東シナ海区において平均栄養段階の大きな経年変動が認められたが、浮魚の増減によるものであり、評価対象漁法による影響とは認められなかった。海底環境への影響としては、小底の漁獲物平均栄養段階が長期的に増加しており、生態系構造の変化が認められた。水質への影響については、対象漁業からの排出物は適切に管理されており、負荷は軽微であると判断された。大気環境への影響について、CO2排出量は中程度と判断された。



漁業の管理

 とらふぐはえ縄漁業は、日本海、九州西海域では承認制、または届け出制、瀬戸内海海域では県知事許可漁業でありインプット・コントロールが導入されている。日本海・九州西広域漁業調整委員会指示、県ごとの海区漁業調整委員会指示、資源管理指針に基づく自主的措置により、産卵親魚保護、小型魚の制限サイズの大型化、漁具規制、禁漁期間、禁漁海域の拡大等が取り組まれている。種苗放流効果を高めるため瀬戸内海海域、九州海域は小型魚の買い上げ・再放流試験、未成魚漁獲抑制等の具体的な資源管理措置を検討し、効果的な種苗放流に係る手法の高度化に取り組んでいる。トラフグ資源の持続的利用に資する観点から漁業者等による海底耕耘、海底清掃、藻場造成、藻場・干潟の保全等が取り組まれている。本系群の生息域全体をカバーするトラフグの国際的な資源管理体制はないが、我が国に限定すると生息域をカバーする管理体制が確立しており、関係県当局、水産庁取締本部福岡、神戸支部が漁業取締を実施している。体長制限については取締当局のほか、水揚げ港、市場での漁協職員、市場職員等による監視が可能である。各種委員会指示により制限に違反した場合は漁業法により有効な罰則が科せられる。管理方策は毎年トラフグ資源管理検討会議で検討されており管理措置の効果を見ながら翌年の措置を検討することが可能であるが、本系群の資源状態を見た場合、資源の状態に応じて順応的管理が機能しているとまではいえない。すべてのはえ縄漁業者は特定でき、全員漁業者組織に加入しており漁業者組織は資源管理に影響力を有している。評価対象県の漁業者組織は購買、販売、加工等の事業に取り組み、個別の漁業者では実施が困難な経営上の活動を実施し、水産資源の価値を最大化している。漁業関係者は自主的あるいは公的な管理に主体的に参画し、あわせて種苗放流を行うことで資源回復を図ることが幅広い利害関係者によって合意され、毎年協議する仕組みができている。種苗放流の費用負担については、広域種の種苗放流に係る受益に見合った費用負担の実現に向けた検討が行われており、一定の負担がなされている事例もある。



地域の持続性

 本系群は、はえ縄(山口県、愛媛県、福岡県、長崎県、大分県、熊本県)で大部分が獲られている。漁業収入は中程度で推移し、収益率のトレンドは高く、漁業関係資産のトレンドはやや低かった。経営の安定性については、収入の安定性は中程度で、漁獲量の安定性はやや低かった。漁業者組織の財政状況は高かった。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買受人は各市場とも取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。卸売市場整備計画により衛生管理が徹底されており、 仕向けは高級食材である。先進技術導入と普及指導活動は概ね行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準は高めであった。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、伝統的な加工技術や料理法がある。



健康と安全・安心

 トラフグは、魚介類のなかでもタンパク質含量の多い魚である。タンパク質は、筋肉等の組織や酵素等の構成成分として重要な栄養成分のひとつである。旬は、産卵前の冬である。この季節には身が美味しくなり、うま味と甘味があって絶品といわれる白子が大きくなる。利用に際しての留意点は、フグ毒による食中毒防止である。提供する側は、食品衛生法及び各都道府県の条例に従った処理や調理を行う。家庭では、自分で釣ったフグを調理する等の素人調理は行わない、知人から譲り受けたフグは食べないなど、フグ調理の有資格者や認定者によって処理や調理されたもの以外は食べないようにする。
引用文献▼ 報告書