評価対象である日本海西区は、東シナ海から対馬海峡を通じて流入する対馬暖流が表層300m以浅を覆うが、北緯40度付近に形成される極前線より北は低温、低塩分の海水が分布している。当該水域はブリ、マアジ、イワシ類、マサバ、スルメイカなど重要魚種の分布と水温の関係などに関する研究は豊富であるが、海洋環境と基礎生産力、低次生産の関係など生態系に関する研究例は限られている。海洋環境及び漁業資源に関する調査が水産機構の調査船及び関係府県の調査船によって毎年多数実施され、様々な時系列データ項目をモニタリングしている。評価対象漁業による魚種別漁獲量は把握される体制にあるが、混獲非利用種や希少種について、漁業から情報収集できる体制は整っていない。
大中型まき網、中・小型まき網での混獲利用種であるさば類(マサバ、ゴマサバ)、ぶり類(ブリ)、マイワシのうちマサバ対馬暖流系群は資源状態が低位・増加であり混獲の影響が懸念される。混獲非利用種については、両漁業とも情報がなかった。当該海域に分布する環境省レッドリスト掲載種に対する両漁業のPSA評価はともに全体では低リスクであったが、アカウミガメ、アオウミガメについは中程度リスクと評価された。
マアジ捕食者として大型魚類のブリ、クロマグロ、サワラ、海産ほ乳類のハンドウイルカ、カマイルカ、コビレゴンドウ、ミンククジラを挙げた。これらの資源動向に関して、マアジの漁獲が要因となる資源状態の懸念は見いだせなかったが、資源の動向が不明の種も存在した。マアジの餌料は橈脚類を主とする甲殻類とされるが動物プランクトンの変動にマアジの影響は見出せなかった。動物プランクトンと小型魚類を補食する食性からマサバ、ゴマサバを競争者と捉えた。マサバ対馬暖流系群は資源状態が低位・増加であり混獲の影響が懸念される。
大中型まき網、中・小型まき網とも漁業の影響強度は低く、生態系特性に不可逆的な変化は起こっていないと考えられた。まき網は基本的には網丈より深い水深帯で操業される表中層漁業であり、まき網の着底による影響は小さいと考えられる。対象漁業からの排出物は適切に管理されており、水質環境への負荷は軽微であると判断された。大中型まき網、中・小型まき網は我が国の漁船漁業の中では燃油消費量や温暖化ガスの環境負荷量が比較的小さい漁業であると考えられる。