マダイ(広島県)
スズキ目タイ科に属し、学名はPagrus major。体は楕円形で側扁する。上顎前部に2対、下顎前部に3対の犬歯がある。両顎側方には2列の大きい臼歯がある。頭部背面の鱗は両眼間隔域中央まで延長する。背鰭棘と臀鰭棘は強く、背鰭第3棘または第4棘が最も長い。体は赤色で腹部は淡い。体側にはコバルト色の小斑点が散在する。尾鰭後縁は黒い(山田ほか 2007)。
山田梅芳・時村宗春・堀川博史・中坊徹次 (2007) 東シナ海・黄海の魚類誌. 東海大学出版会,秦野, 1262pp.
分布
北海道以南の太平洋沿岸、日本海、渤海、黄海、東シナ海に分布する(山田ほか 2007)。
山田梅芳・時村宗春・堀川博史・中坊徹次 (2007) 東シナ海・黄海の魚類誌. 東海大学出版会,秦野, 1262pp.
生態
甲殻類のほか多毛類、尾虫類、魚類を主な餌とする(高場 1992)。
高場 稔 (1992) 広島県東部、中部海域の放流マダイ幼魚の食性. 広島水試研報, 17, 59-70.
利用
刺身、塩焼、煮つけ、椀物等にして賞味される。粕漬け、味噌漬け等にも加工される(山田ほか 2007)。
山田梅芳・時村宗春・堀川博史・中坊徹次 (2007) 東シナ海・黄海の魚類誌. 東海大学出版会,秦野, 1262pp.
漁業
瀬戸内海中・西部海域におけるマダイは吾智網、小型底びき網(以下、小底)、刺網、釣り漁業によって漁獲されている。瀬戸内海東部と比較して吾智網の比率が高い(山本・河野 2020)。いずれの漁業も小型漁船により行われている。
山本圭介・河野悌昌 (2020) 令和元(2019)年度マダイ瀬戸内海中・西部系群の資源評価、水産庁・水産研究・教育機構
資源の状態
マダイ瀬戸内海中・西部系群では、分布・回遊、年齢・成長・寿命、成熟・産卵、種苗放流に関する知見が明らかにされており、資源評価の基礎情報として利用可能である。定期的な科学調査は、体長測定、年齢査定、成熟度等の収集等で行われているが、漁獲努力量データは近年得られていない。定期的に収集される漁業データに基づいて年齢別漁獲尾数が推定され、コホート解析による資源評価が毎年実施されている。資源評価の内容は、公開の場を通じて有識者による助言を受けている。親魚量から判断して2018年の資源水準は高位、最近5年間の推移から動向は増加である。2018年の親魚量は高位水準であることから明らかにBlimit以上であるが、現状の漁獲圧は一般的な管理基準F30%SPRやF0.1より大きい。現状の漁獲圧が継続された場合、2025年に期待される親魚量は依然高水準にあると予測される。ABCの値が漁業管理方策には反映されておらず、遊漁等の影響が存在することは把握されているが、それを考慮した漁業管理方策は提案されていない。
生態系・環境への配慮
マダイを漁獲する漁業による生態系への影響の把握に必要となる情報、モニタリングの有無については、海洋環境、プランクトン等の低次生産生物から漁業対象であるマダイ等の生態等についての研究が長年に亘りなされ知見が蓄積されてきた。瀬戸内海域では海洋環境、低次生産、及び漁業資源に関する調査が水産研究・教育機構、並びに関係府県の調査船によって定期的に実施されている。ただし、魚種別の漁獲量等は行政機関等により調査され公表されているが、混獲や漁獲物組成に関する情報は十分得られていない。
評価対象種を漁獲する漁業による他魚種への影響のうち、混獲利用種について、吾智網では目立った混獲種は存在しないと考えた。小底では、えび類、いか類、かれい類を混獲利用種としたが、いずれも漁獲量が減少傾向であった。刺網では混獲利用種はかれい類であるが、かれい類については漁獲量が減少傾向を示していた。混獲非利用種については、吾智網では目合いが大きいため小型の生物は混獲されにくいと考えた。小底ではヒメガザミ、ヘイケガニ、イヨスダレガイ、オカメブンブクを混獲非利用種としPSA評価を行い総合的なリスクは中程度となった。刺網ではシロギス、トカゲエソ、シログチを混獲非利用種としてPSA評価を行い、総合的なリスクは中程度とされた。希少種については、アカウミガメに中程度の懸念が認められたが、全体としては低かった。対象海域に分布する希少種のうち、アカウミガメに中程度の影響リスクが認められたが全体としては低いと考えられた。
食物網を通じたマダイ漁獲の間接影響について、マダイの捕食者としてはヒラメ、あなご類、えそ類、アイナメが考えられた。捕食者は漁獲量が全体的に減少傾向であったが(アイナメは不明)、餌生物であるマダイは減少していないことから減少の原因がマダイの漁獲とは考えられなかった。未成魚期、成魚期マダイの餌生物は、あみ類が最も多く、続いて海藻、短尾類、多毛類、貝類等である。これら小型無脊椎動物、植物の豊度に関するデータは得られていないが、捕食者のマダイの資源状態が安定しているため、餌生物への捕食圧が定向的に大きく変化しているとは考えにくく餌生物への影響も大きくないと考えられる。瀬戸内海においてマダイの競争者と考えられるかれい類は漁獲量がほぼ一貫して減少傾向であるが、マダイとかれい類の漁獲量には有意な正の相関がみられ、少なくともかれい類の減少は、マダイの増加にともなう餌を巡る競争によるものではないということが示唆される。
漁業による生態系全体への影響については、2014年以降、瀬戸内海区において総漁獲量及び漁獲物平均栄養段階が低下しており懸念が認められた。海底環境への影響は、漁獲物平均栄養段階の変化幅は小さく、影響は認められなかった。水質への影響については、対象漁業からの排出物は適切に管理されており、負荷は軽微であると判断された。小底漁船による大気環境への影響については、排出量が中程度と判断された。
漁業の管理
吾智網、小底については、知事が許可漁業の諸条件を設定する際に県の海区漁業調整委員会の意見を聴かなければならない。各県の資源管理指針に基づく資源管理計画として休漁等に取り組まれており、釣り漁業者についても漁業者組織で作成される自主的管理措置(休漁)が導入されているため、3種の漁業にはインプット・コントロールが成立している。吾智網、小底、釣りでは自主的規制として公的規制を上回る小型魚再放流、産卵親魚保護等に取り組んでおり、多くの海域でテクニカル・コントロールが導入されている。各県は放流種苗の保護、育成のための生息適地の維持・増大、資源管理との連携による生残率向上を謳い、各漁業での小型魚の再放流等が取り組まれている。小底をはじめ各漁業による海底環境への影響は重篤ではないが、各県の漁業者が自ら生態系・環境の保全・修復活動に取り組んでいる。
県を跨いで分布する資源の管理に係る機関として、瀬戸内海広域漁業調整委員会が設置されており一元的な管理体制が確立している。吾智網、小底のような漁船操業の監視は県の取締当局と水産庁漁業取締本部神戸支部が連携して行っている。資源管理計画に基づく資源管理措置の履行確認は各県の資源管理協議会が行っている。水揚げは地元漁協等地域の地方卸売市場になされ、漁獲物のサイズの確認等は漁協職員や漁業者団体等による「とも監視」が可能である。政令、各県漁業調整規則等に違反した場合、漁業法、各県漁業調整規則の規定により有効な罰則規定が設けられている。各県資源管理指針に基づく自主的な資源管理計画については、策定後4年を経過した次の年度に計画の適否が評価されるため、間隔は長いが資源状態に合わせて順応的に管理施策を更新できる体制が採られている。
評価対象漁業者は実質全員漁業者組織に属しており特定可能である。各漁業の資源管理計画では自主的な規制が強く働いていることから資源管理に対する漁業者組織の影響力は強い。各県の漁業者組織は販売、加工、活魚出荷による高付加価値化等の水産資源の価値最大化に努めている。各県の漁業関係者は資源の自主的管理、公的管理に主体的に参画しており、資源管理には県、国のレベルで幅広い利害関係者が参画している。資源管理計画では計画、実施、評価、改善のサイクルを着実に実施することで適切な資源管理の推進を図るとされているが、漁業者及び関係団体が資源管理協議会における評価・検証、目標や管理措置の見直しに十分参画できていない。種苗放流については、愛媛県、大分県では事業実施の段階にあり、受益者から応分の負担がなされている。
地域の持続性
本系群は、吾智網(山口県、愛媛県、大分県)、小底(愛媛県)、釣り(愛媛県)で大部分が獲られている。漁業収入は中程度で推移し、収益率のトレンドは高く、漁業関係資産のトレンドはやや低かった。経営の安定性については、収入の安定性はやや高く、漁獲量の安定性は高かった。漁業者組織の財政状況は高かった。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買受人は各市場とも取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。卸売市場整備計画等により衛生管理が徹底されており、 仕向けは高級食材である。先進技術導入と普及指導活動は概ね行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準は中程度である。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、伝統的な加工技術や料理法がある。
健康と安全・安心
マダイにはタウリンが多く含まれている。タウリンはアミノ酸の一種で、動脈硬化予防、心疾患予防等の効果を有する。魚介類のなかでもタンパク質含量の多い魚である。タンパク質は、筋肉等の組織や酵素等の構成成分として重要な栄養成分のひとつである。旬は産卵前の春と脂質含量が高くなる初冬の2つの説がある。利用に際しての留意点はアニサキス感染防止である。アニサキスは魚の死後時間経過にともない内臓から筋肉へ移動するため、生食には新鮮な魚を用いること、内臓の生食はしない、冷凍・解凍したものを刺身にする等で防止する。
引用文献▼
報告書