サスティナブルでヘルシーなうまい日本の魚プロジェクト

Sustainable, Healthy and “Umai” Nippon seafood project

サスティナブルでヘルシーな
うまい日本の魚プロジェクト

アブラツノザメ(青森県 太平洋)

ツノザメ目ツノザメ科に属し、学名はSqualus suckleyi、英名はNorth Pacific spiny dogfishである。背側は白斑を伴う暗褐色ないし灰色、腹側は白色の体色を呈し、背鰭基部前方には和名の由来である棘が認められる。

分布

本種は北太平洋の固有種で、ベーリング海を北限、ハワイ海山列を南限とし、亜寒帯境界に沿って北太平洋の東西に広く分布する。分布密度の高い重要生息海域は、日本周辺海域とアラスカ湾東部沿岸域に存在する。

生態

本種は、日本沿岸域において春夏季に北上、秋冬季に南下の季節回遊を行う。成熟体長は、雄で約60cm、雌で約75cmである。雌は約2年間の妊娠期間を経て、2~4月に体長約20cm程度の胎仔を産出する。日和見的捕食者として知られる一方、特定の餌を専食する事例も知られており、餌として利用する海洋生物の減耗に対し大きな影響を及ぼす場合がある。

利用

本種は近縁種のSqualus acanthiasとともに、世界で最も利用されるサメとして知られている。第2次世界大戦後には、日本は世界有数の肝油生産国に成長し、天然ビタミンA油精製のための主要原料として、アブラツノザメ肝臓への需要も急速に高まった。魚肉は刺身や煮物、照り焼き等で食されるほか、ちくわ等の練り製品原料としても用いられる。海外では燻製加工品が販売されている。近年では、卵はウナギ仔魚の餌料として、軟骨は健康補助食品として利活用され、本種の用途は多様化している。

漁業

北日本沿岸域で底はえ縄や刺網、定置網、底びき網、まき網等の多様な漁法により漁獲される。国内の本種漁獲量の30%程度を占めると推定される青森県では、近年、底はえ縄による漁獲量割合が高く、50%前後で推移している。
主要な漁法として、津軽海峡内で操業を行う底はえ縄と、同海峡周辺海域で操業を行う沖合底びき網が挙げられる。底はえ縄では日帰り操業によりアブラツノザメを狙って漁獲している。東北太平洋側で操業を行う沖合底びき網のうち、本種の漁獲量が多いかけまわし漁法においても、漁獲量の大部分は狙い操業によって得られる一方、それらの操業が占める漁獲努力量の割合は少ない。


あなたの総合評価

資源の状態

 アブラツノザメは、日本で古くから利用されてきた水産有用種であり、我が国周辺海域は、本種の重要な生息海域のひとつである。本種は成長が遅く、成熟が高齢で、産仔数も少ないことから、過度の漁獲圧に対し脆弱であると考えられる。主要漁法の漁獲圧は減少傾向にあり、希少性評価により資源の枯渇リスクは低いことが示されている。また、本種資源は、増減しつつも概ね横ばいで推移したあと、2000年代以降増加していることが標準化CPUEの年トレンドより示されている。国内の本種漁獲量は1990年以降比較的安定して推移していることからも、近年のアブラツノザメ資源は比較的安定しており、漁獲量水準は持続可能であると判断される。現在、公的な漁業管理方策は存在しないが、一部の漁業者は自主的に資源保全に向けた取組を実施している。



生態系・環境への配慮

 太平洋北区は、農林水産省のプロジェクト研究及び水産機構の一般研究課題として、長期にわたり調査が行われている。現在Ecopathによる食物網構造と漁業の生態系への影響評価が進められている。日本海北区については、重要資源の分布域と水温の関係などに関する研究例は豊富であるが、生態系モデル構築に必要となる研究例は少ない。両海域における海洋環境及び低次生産、底魚類などに関する調査は、水産機構、関係県の調査船により、定期的に実施されている。沖合底びき網漁業からは漁獲成績報告書が提出されており、はえ縄の魚種別漁獲量も把握されているが、両漁業とも混獲非利用種や希少種について、漁業から情報収集できる体制は整っていない。
 混獲種については、沖底の混獲利用種のスケトウダラ日本海北部系群は資源状態が悪かった。混獲非利用種では、沖底は全体的にみて深刻な悪影響を与えているとは言えない。はえ縄の混獲非利用種は、混確率が無視し得る程度であった。希少種に対しての両漁法による影響は、軽微であると考えられる。
 食物網を通じた間接作用について、三陸沖底魚群集を中心とした生態系モデルEcopathの解析によれば、捕食者に関して、マダラによるアブラツノザメを含む中深層性さめ類への負の影響が検出された。餌生物については、アブラツノザメ、及び対象漁業との関係は見いだせないもののマサバ対馬暖流系群、スルメイカ冬季発生系群、オキアミ、ミズダコは懸念される状態であった。競争者に関しては、アブラツノザメを含む中深層性さめ類と捕食を巡るニッチ重複度が高い生物群は検出されなかった。
 生態系全体への影響については、沖合底びき網漁業、はえ縄漁業とも、規模と強度から影響は重篤ではなく、栄養段階組成からみた結果から、生態系特性に不可逆的な変化は起こっていないと考えられた。海底環境への影響については、沖合底びき網(かけまわし)による影響は軽微と判断された。はえ縄は、着底漁具ではない。水質への影響については、対象漁業からの排出物は適切に管理されており、負荷は軽微であると判断される。大気環境への影響については、沖合底びき網1艘びきの漁獲量1トンあたりのCO2排出量を他の漁業種類と比べると低いため、影響は軽微であると判断できる。はえ縄は漁具を曳航する漁法ではないため沖底より影響は軽微と考えられる。



漁業の管理

 アブラツノザメ太平洋北部(青森県、日本海側を含む)は、主に沖合底びき網漁業とはえ縄漁業(まぐろはえ縄を除くその他はえなわ漁業、底はえ縄漁業)で漁獲される。沖合底びき網漁業では、隻数等のインプット・コントロールが行われているが、はえ縄漁業は基本的に自由漁業である。両漁業ともアウトプット・コントロールは行われていない。評価対象資源の北太平洋における回遊等については、明らかではない。はえ縄漁業による主要な水揚げ地域においては、集団操業が行われ、放流する体長範囲、休漁日の設定等の規制が設けられている。ワシントン条約締約国会議において、アブラツノザメの付属書Ⅱへの掲載について提案がなされたが、否決された経過がある。



地域の持続性

 太平洋北部のアブラツノザメは、青森県の沖合底びき網漁業とはえ縄漁業で多くが獲られている。収益率のトレンドは低く、漁業関係資産のトレンドも低位であった。経営の安定性については、収入の安定性はやや高く、漁獲量の安定性は中程度で、漁業者組織の財政状況は高位であった。操業の安全性、地域雇用への貢献は高かった。水揚げ量が多い拠点産地市場がある一方、中規模市場が分散立地している。買受人は各市場とも取扱量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。卸売市場整備計画により衛生管理は徹底されている。大きな労働災害は報告されておらず、本地域の加工流通業の持続性は高い。先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムも整っていた。水産業関係者の所得水準はおおむね高い。沖合底びきについては、1954年から調査船操業が開始された。伝統的な加工法や料理法が数多く伝えられている。



健康と安全・安心

 アブラツノザメの肉や肝臓には、ビタミンA、脂質にはEPAやDHA、肝油にはスクワレン、軟骨にはコンドロイチン硫酸、皮にはコラーゲンなど、様々な機能性成分が含まれている。年間を通じて漁獲され、盛漁期は12月~6月。特に12月~2月に漁獲されるものは、身が引き締まり、年間で最も美味しいと言われている。利用に際しての留意点は、鮮度低下によりアンモニアやトリメチルアミンによる魚臭が発生しやすいため、新鮮なものを選び、なるべく早く消費することである。
引用文献▼ 報告書