マダラ(北海道 日本海)
タラ目、タラ科に属し、学名はGadus macrocephalus。頭部が大きく、あごの下にひげが1本ある。上あごは下あごより前に出る。背びれが3つ、尻びれが2つというタラ科の特徴を持つ。全長は1mあまりになる。体は全体的に灰色で、背部から体側にまだら模様があり、このことが和名の由来である(三宅 2003)。
三宅 博哉 (2003) 31.マダラ Gadus macrocephalus Tilesius. 新北のさかなたち, 154-157.
分布
評価対象群は北海道日本海からサハリン西岸にかけての沿岸及び陸棚斜面域に分布する(三島 1989)。
三島清吉 (1989) 北太平洋漁業国際委員会研究報告, 42, 172-179.
生態
寿命は10歳以上(星野ほか 2017)、50%成熟体長は雄が50cm、雌が53cmである(北海道水産林務部水産局漁業管理課・北海道総合研究機構水産研究本部 2019)。沿岸域で産卵し、産卵場は分布域全体に散在する(水産庁研究部 1986, 三島 1989)。漂泳生活している幼稚魚期はおもにカイアシ類を、底生生活に入ってからはおもに魚類、甲殻類、頭足類及び貝類を捕食している(北海道区底曳資源研究集団 1960, 竹内 1961, 三島 1989)。
北海道区底曳資源研究集団 (1960) タラ.北海道中型機船底曳網漁業, 札幌, 63-64.
北海道水産林務部水産局漁業管理課・北海道総合研究機構水産研究本部 (2019) マダラ日本海海域.北海道水産資源管理マニュアル2018年度, p. 10
星野昇・田中伸幸・本間隆之・鈴木祐太郎(2017)北水試研報, 92, 33-42.
三島清吉 (1989) 北太平洋漁業国際委員会研究報告, 42, 172-179.
水産庁研究部 (1986) 底びき網漁業資源, 234 pp.
竹内 勇 (1961) 北海道沿岸のタラ科魚類の餌料.北水試月報, 18, 329-336.
利用
鮮魚は「タラちり」等の鍋料理の素材となる。肝臓は良質の油が取れることから、肝油の原料としても用いられていた。白身で淡泊な味であり、鍋物以外にも広く利用される。昆布でしめた刺身のほかフライにしてもおいしい。干しダラの一種である棒ダラは、京都の名物料理「芋棒」にも利用される。東北地方では正月料理に欠かせないため、北海道でも年末には市場のセリ値が上がる。雄の精巣は白子、タチ、タツ、雲腸と呼ばれ人気が高い(三宅 2003)。
三宅 博哉 (2003) 31.マダラ Gadus macrocephalus Tilesius. 新北のさかなたち, 154-157.
漁業
北海道日本海において、マダラは沖合底びき網漁業1そうびき(以下、沖底)に加えて刺網漁業(以下、刺網)、はえ縄、底建網等の沿岸漁業によって漁獲される。ほぼ周年漁獲されるが、冬季~春季に漁獲量が多い。沖底の大部分は100トン以上のかけまわし船である(千村ほか 2020)。
千村昌之・境 磨・石野光弘・濱津友紀 (2020) 令和元(2019)年度マダラ北海道日本海の資源評価.
資源の状態
北海道周辺海域におけるマダラの資源生態に関する調査研究は少なく、本資源の生態には不明な点が多い。資源量指標値である沖底CPUEは2015年漁期以降増加して2018年漁期は過去最高であった。現状の漁獲量(2018年漁期漁獲量)はABCを上回っている。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議された後に確定されている。資源評価結果は毎年公表されている。
生態系・環境への配慮
北海道日本海海域のマダラを漁獲する漁業の生態系への影響の把握に必要となる情報、モニタリングの有無については以下の状況である。生態、資源、漁業等については北海道立総合研究機構等で調査が行われ成果が蓄積されており、海洋環境については水産研究・教育機構(以下、水産機構)、道総研で調査が行われてきた。評価対象漁業の魚種別漁獲量については把握されているが、混獲非利用種や希少種について漁業から情報収集できる体制は整っていない。
マダラを漁獲する漁業による他魚種への影響であるが、混獲利用種としては、沖底、刺網ともにスケトウダラ、ホッケ、ソウハチ、マガレイ、アカガレイと考えられ、このうちスケトウダラ、ホッケの資源状態は懸念される状態にあった。混獲非利用種としては、沖底では情報はなかった。刺網では混獲非利用種は無視しうると考えた。対象海域に分布するいずれの希少種も評価対象漁法との遭遇リスクは低く、悪影響の懸念は小さいと考えられた。
食物網を通じたマダラ漁獲の間接影響について、マダラの捕食者として知られるトド、ゴマフアザラシについてマダラの漁獲が餌不足等を通して間接的に両種の資源に悪影響を及ぼしているとは考えられない。マダラの餌生物は、当該海域ではスケトウダラ、及びズワイガニと考えられ、スケトウダラの資源状態は懸念される状態であった。当該海域ではアカガレイを競争者と考えたが、アカガレイの資源状態は懸念される状態ではなかった。
漁業による生態系全体への影響については、評価対象海域で漁獲される魚介類の総漁獲量及び、それらの漁獲物平均栄養段階に有意な低下傾向が認められ、ホッケの漁獲量低下に起因すると考えられたため、生態系全体に及ぼす影響は無視できないと推定された。海底環境への影響は重篤ではないが、栄養段階組成に一部変化が懸念された。水質への影響については、対象漁業からの排出物は適切に管理されており、負荷は軽微であると判断された。底びき網漁船や刺網漁船による大気環境への影響については、排出量が比較的少なく軽微であると判断された。
漁業の管理
沖底は農林水産大臣許可漁業の指定漁業であり、公示に基づいて申請し許可証の発給を受けて操業する。たら固定式刺網は知事許可漁業であり、共同漁業権内の刺網は共同漁業権行使規則により操業している。インプット・コントロールが成立している。資源水準は高位、その動向は増加であり、資源は有効に管理されている。沖底には漁具、操業禁止域、操業禁止の期間が決められている。また沖底漁業者団体は沿岸漁業者との協議により、更に操業禁止域、禁止期間等を取り決めている。固定式刺網には操業期間や漁船トン数の制限の許可方針があり、漁業権行使規則等で漁具、漁期の制限もある。沖底禁止ラインが設定され、その陸側では操業できず、操業期間や特定魚種の漁獲割合による漁場移動等の規制もある。海底環境への影響は重篤ではないが一部では変化が懸念される。刺網については、海底に接した場合も無理に引き摺る運用ではなく、さけ、ます、かにが漁獲された場合には海中還元が許可の条件である。北海道漁業協同組合連合会では漁民の森づくり活動推進事業を展開しており、藻場、干潟等の保全等に取り組む関連地域もみられる。本資源の分布域は北海道日本海からサハリン西岸にかけての沿岸及び陸棚斜面域である。沖底は水産庁管理調整課、同北海道漁業調整事務所が、刺網は北海道が管轄している。実質的に生息域全体をカバーする管理体制が確立し機能している。国や道の管理指針は更新されてきており、TAC等対象種を除く他のABC算定対象種に先んじて、順応的管理の仕組みが部分的にも導入されてきている。許可や共同漁業権行使規則に基づいた操業であり、沖底漁業者は業種別団体や沿海漁業協同組合に、刺網漁業者は沿海漁業協同組合に所属している。沖底、刺網で休漁の管理計画が立てられているが、マダラに特化したものではない。沖底漁業者は刺網等沿岸漁業者と漁場利用に関する諸取決を有している。北海道機船漁業協同組合連合会は北海道機船漁業地域プロジェクトを主導し、多くの沿海漁業協同組合は付設の市場を運営し、北海道漁業協同組合連合会は国内外のマーケットへ北海道産水産物を安定供給している。自主的及び公的管理への関係者の関与は高く評価できる。利害関係者の参画についても国レベルでの審議会等への関与の度合いから高く評価した。資源管理措置を講ずる漁業者等が資源管理協議会において評価・検証、目標や管理措置の内容の見直しに参画できていないためPDCAサイクルを回す本来の趣旨に沿っておらず、特定の関係者の意思決定機構において協議は十分に行われてきていない。種苗放流の効果を高める措置や費用負担への理解については、放流が実施されていないため評価できない。
地域の持続性
北海道日本海のマダラは、宗谷・後志振興局管内の刺網と、稚内市・後志振興局管内の沖底で大部分が獲られている。漁業収入はやや低位で推移し、収益率のトレンドは中程度で、漁業関係資産のトレンドはやや低かった。経営の安定性については、収入の安定性、漁獲量の安定性ともに中程度であった。漁業者組織の財政状況が評価できない未公表の組織が含まれた。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買い受け人は各市場とも取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。卸売市場整備計画により衛生管理が徹底されており、 仕向けは3分の2が生鮮出荷用である。先進技術導入と普及指導活動は概ね行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準は高い。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、伝統的な加工技術や料理法がある。
健康と安全・安心
マダラにはタウリンが多く含まれている。タウリンは、アミノ酸の一種で、動脈硬化予防、心疾患予防等の効果を有する。旬は12月~翌年2月である。また、肝臓に含まれる肝油にはビタミンAとDが多い。ビタミンAは、視覚障害の予防に効果があり、ビタミンDは骨の主成分であるカルシウムやリンの吸収に関与している。利用に際しての留意点は、アニサキス感染防止のため生食を避けることである。アニサキスは、魚の死後時間経過に伴い内臓から筋肉へ移動するため、生食には新鮮な魚を用いること、内臓の生食はしない、冷凍・解凍したものを刺身にする等で防止する。また鮮度低下が速く、臭気の発生や冷凍保管中の劣化が起こりやすいため取り扱いには気をつける。
引用文献▼
報告書