ヨシキリザメ(千葉県)
メジロザメ目メジロザメ科ヨシキリザメ属に属しており、学名はPrionace glauca。北太平洋での雌雄の最大体長(尾鰭前長)・体重は、それぞれ290cm・251kg、243cm・168kgである(Fujinami et al. 2019)。体型は細身の流線型で吻は長く円錐形、目は比較的大きい。背側の体色は鮮やかな藍色で腹側は白色である(Compagno 1984)。
Compagno, L.J.V. (1984) FAO Fish. Synop. 125(4/2):251-655. Rome: FAO.
Fujinami, Y., Semba, Y., and Tanaka, S. (2019) Fish. Bull., 117: 107-120.
分布
本種は、南北太平洋を含む全大洋の熱帯域から温帯域にかけて広く分布する外洋性のさめであり(Compagno 1984)、特に温帯域での分布豊度が高く(中野 1996)、天皇海山群周辺に高密度域(ホットスポット)があることが知られている(Kai et al. 2017)。主に外洋域に生息するが、沿岸域でも出現が確認されている。日中鉛直移動を行うことが知られており、昼間は深い水深にいることが多く、夜間は浅い水深にいることが多い(Stevens et al. 2010)。
Compagno, L.J.V. (1984) FAO Fish. Synop. 125(4/2):251-655. Rome: FAO.
Kai, M., Thorson, J.T., Piner, K.R., Maunder, M.N. (2017) Fish. Oceanogra. 26, 569-582.
中野秀樹 (1996) 北太平洋における外洋性板鰓類の分布. 月刊海洋, 28: 407-415.
Stevens, J.D., Bradford, R.W., and West, G.J. (2010) Mar. Biol. 157: 575-591
生態
成熟開始年齢は雄が5歳で雌が6歳、寿命は20歳以上である(Fujinami et al. 2017a, 2019)。索餌場は熱帯・温帯域で、主に魚類や頭足類を捕食し、幼魚は大型さめ類や海産哺乳類に捕食される(Fujinami et al. 2017b)。繁殖期は初夏で出産期は5~6月、交尾期は6~8月、繁殖場は北緯30~40度の海域、性や成長段階に応じて棲み分けを行っていることが知られている(Nakano, 1994)。
Fujinami, Y., Semba, Y., Okamoto, H., Ohshimo, S., and Tanaka, S. (2017a) Mar. Freshwater Res., 68: 2018-2027.
Fujinami, Y., Nakatsuka, S., and Ohshimo, S. (2017b) Pac. Sci., 72(1).
Fujinami, Y., Semba, Y., and Tanaka, S. (2019) Fish. Bull., 117: 107-120.
Nakano, H. (1994)Bull. Nat. Res. Inst. Far. Seas. Fish. 31: 141-256.
利用
肉はすり身など、鰭はふかひれ、皮は工芸品や医薬・食品原料、脊椎骨は医薬・食品原料として利用されている(甲斐・藤波 2020)。
甲斐幹彦・藤波裕樹 (2020) 35 ヨシキリザメ 太平洋 Blue Shark, Prionace glauca, 令和元年度国際漁業資源の現況
漁業
本種は主に公海域あるいは各国の沿岸域でまぐろはえ縄漁船によって混獲されているが、一部は狙い種として漁獲されている。日本の沿岸域においては小型のはえ縄漁船、流し網漁船、定置網等により混獲されている。我が国の総水揚げ量の9割以上が宮城県の気仙沼で水揚げされ、一部塩釜その他で水揚げされている。気仙沼の水揚げ量のうち、はえ縄漁業が8~9割を占め、流し網漁業が1~2割を占めている(水産総合研究センター 2019)。
水産総合研究センター(編) (2019) 平成28年度-平成29年度 水揚地でのまぐろ・かじき・さめ調査結果.
資源の状態
資源評価モデルを用いた資源評価結果あるいは将来予測結果から現在あるいは将来の資源状態について健全な状態であり問題はないが、管理基準値の決定及び漁業管理規則の策定については国際社会の枠組みの中できるだけ早く行うことが望ましい。一方で、日本で本種を多く水揚げしている気仙沼船団については自主管理規制を行っており、資源の持続的な利用という観点から望ましい管理への取り組みである。
生態系・環境への配慮
ヨシキリザメ(北太平洋)を漁獲する漁業の生態系への影響の把握に必要となる情報、モニタリングであるが、中西部太平洋における生態系モデル解析があり、はえ縄等の混獲情報が得られている。熱帯まぐろ類とカツオの仔稚魚を対象とした調査船調査が不定期的に実施されており、動物プランクトン採集や海洋環境調査も実施されている。2008年から科学オブザーバー計画が確立され、はえ縄やまき網による漁獲物及び混獲物の漁獲実績及びサイズ情報が取得される体制が整い、混獲や漁獲物組成等について部分的な情報が収集可能となっている。
ヨシキリザメを漁獲するはえ縄漁業による他魚種への影響については、混獲利用種と考えられるビンナガ、メバチ、キハダ、メカジキの資源は懸念される状態になかった。混獲非利用種への影響は、PSA評価でアオウミガメ、アカウミガメ、タイマイ、ヒメウミガメでリスクが高く、アカマンボウ、オキゴンドウでは中程度とされるなど、潜在的リスクが中から高程度と判断されるものが複数含まれた。環境省指定の絶滅危惧種に対するPSA評価では、海亀類のリスクが高いとされた。
食物網を通じた漁獲の間接影響については、最高次捕食者に近いヨシキリザメの餌生物は小型魚類等であり、特定の種を選ぶのではなく日和見的食性を示すとされる。餌生物の豊度として北西太平洋における多獲性小型浮類全体の資源量を考えると合計資源量が横ばい傾向であったことから悪影響は見いだせなかった。競争者としては、まぐろはえ縄の混獲種として漁獲量が多く、ヨシキリザメ同様魚食性が強いビンナガ、メバチ、キハダ、メカジキが挙げられるが、これらの資源は懸念される状態ではなかった。
漁業による生態系全体への影響については、2014年以降、太平洋南区において総漁獲量及び漁獲物平均栄養段階が低下しており懸念が認められた。水質への影響については、影響は軽微と判断された。はえ縄船による大気環境への影響については、排出量が比較的多く影響が懸念された。
漁業の管理
近海まぐろはえ縄漁業は大臣許可漁業の指定漁業である。さめ類を目的としたはえ縄漁業管理計画が作成され、年間陸揚げ量上限は7,000トンに設定されている。評価対象とした近海はえ縄漁業では漁船は120トン未満に制限されている。はえ縄漁業管理計画においてはシャークラインの使用は禁止され、水揚げまでヒレを胴体から切り離さないことも求められている。海亀や海鳥の保存管理措置のための漁具制限があり、クロトガリザメ、ヨゴレは採捕禁止となっている。気仙沼市海洋プラスチック対策推進会議に関係漁業者団体が参画し、また燃油の10%削減に取り組んでいる。近海まぐろはえ縄漁業は水産庁国際課かつお・まぐろ漁業室が所管している。近年のWCPFC等での資源評価や保存措置の協議を踏まえた我が国への管理措置の導入を順応的管理に準じる施策と評価した。近年では、はえ縄漁業管理計画の内容に加えてヨシキリザメ出産期の漁獲抑制に取り組んでいる。気仙沼漁業協同組合が主導して気仙沼地域漁業復興プロジェクト(近海まぐろはえ縄漁業に係る復興計画、既存船活用の2計画)が実施され、協業の株式会社が設立されている。さらに、全国近海かつお・まぐろ漁業協会が主導して資源管理・労働環境改善型漁船の計画的・効率的導入の実証を行っている。水産政策審議会資源管理分科会には、多分野からの特別委員が参画している。北太平洋まぐろ類国際科学小委員会(ISC)で行われる資源評価をもとに、利害関係者も出席するWCPFCにおいて検討された保存管理措置に従って、国が策定したさめ類を目的とするはえ縄漁業管理計画が実施されている。
地域の持続性
国内に水揚げされる太平洋ヨシキリザメは、宮城県の近海まぐろはえ縄漁業で大部分が漁獲されている。漁業収入のトレンドは低く、収益率、漁業関係資産はやや低かった。経営の安定性については、収入の安定性はやや低く、漁獲量の安定性は中程度であった。漁業者組織の財政状況は、総合してやや高かった。操業の安全性は高く、地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業で特段の問題はなかった。ヨシキリザメは気仙沼市場への水揚げが多く、買い受け人は各市場とも取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。卸売市場整備計画により衛生管理が徹底され、仕向けは肉類は加工商材であり、ふかひれは高級食材である。労働条件の公平性は加工・流通でも特段の問題はなかった。加工流通業の持続性は高いと評価した。先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムも整っている。水産業関係者の所得水準は比較的高い。
健康と安全・安心
ヨシキリザメの脂質にはEPAやDHA、軟骨にはコンドロイチン硫酸等の機能性成分が含まれている。主にまぐろはえ縄漁に混獲されたものが利用されるため、旬は不明である。利用に際しての留意点は、鮮度低下によりアンモニアやトリメチルアミンによる魚臭が発生しやすいため、新鮮なものを選び、なるべく早く消費することである。また、他の魚種に比べメチル水銀を蓄積しやすいため、妊婦は、厚生労働省より公表されている目安量をもとに摂取する必要がある。
引用文献▼
報告書