ソウハチ(鳥取県)
カレイ目、カレイ亜科、カレイ科、ソウハチ属に属し、学名はCleisthenes pinetorum。口は大きく、両顎歯は有眼側・無眼側ともに発達、上眼は頭部背縁にある。体は細長くて薄く、下顎が突出して受け口になる。体色として、有眼側は茶褐色、無眼側は白色。
分布
サハリンから日本海のほぼ全域及び渤海・黄海に分布し、水深100〜200mの泥底を中心に生息する(渡辺 1956, 金丸 1996, 山田ほか 2007, 中坊・土居内 2013)。
金丸信一 (1996) ソウハチ水深700mにも分布か!?. 日本海ブロック試験研究集録, 34, 89-91.
中坊徹次・土居内 龍 (2013) カレイ科. 「日本産魚類検索 全種の同定 第三版」中坊徹次編, 東海大学出版会, 秦野, 1675-1683.
渡辺 徹 (1956) 重要魚族の漁業生物学的研究,ソウハチ. 日水研報, 4, 249-269.
山田梅芳・時村宗春・堀川博史・中坊徹次 (2007) 「東シナ海・黄海の魚類誌」. 水産総合研究センター叢書, 東海大学出版会, 秦野, 1262 pp.
生態
成長に関して、2歳魚までは性差がないが、3歳をすぎると雄の成長が雌に比べて緩やかになり、雌は4歳で全長26cm、5歳で31cm、6歳で35cm、7歳で38cmに、雄は4歳で全長23cm、5歳で26cmに成長する(道根 1994)。寿命は雌のほうが長く、雌は7歳、雄は5歳(道根 1994)。成熟開始年齢は雄で2歳、雌は3歳。日本海南西海域における主産卵場は対馬周辺海域であり、産卵期は1〜4月ごろ(大内 1954, 渡辺 1956, 道根 1994)。年間をとおしてエビジャコ類やオキアミ類等の甲殻類を主に捕食する(渡辺 1956)。
道根 淳 (1994) II-1 ソウハチ.水産業関係地域重要新技術開発促進事業総合報告書(重要カレイ類の生態と資源管理に関する研究), 石川県水産総合センター・福井県水産試験場・兵庫県但馬水産事務所・鳥取県水産試験場・島根県水産試験場, 118 pp.
大内 明 (1954) 鱗によるソウハチの年令及び成長. 日水研業績集, 1, 27-32.
渡辺 徹 (1956) 重要魚族の漁業生物学的研究,ソウハチ. 日水研報, 4, 249-269.
利用
塩焼き、煮付け、干物、刺身等で食される。
漁業
ソウハチ日本海南西部系群の漁場は、漁法と県によって異なる。沖合底びき網漁業1そうびきでは、兵庫県船が山口県見島以東、鳥取県船が島根県大田市沖以東で主に操業し、沖底2そうびきでは対馬周辺海域から島根県沖、小型底びき網漁業では島根県沖が中心である。
資源の状態
本系群の生物学的、生態学的情報は十分ではないが利用可能である。漁獲量、漁業実態は長期間利用可能である。水揚げ物の生物調査は主要港について行われている。資源評価方法は沖底(1そうびき・2そうびき)の資源密度指数を考慮したコホート解析に基づいてなされている。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議され毎年公表されている。資源の水準・動向は中位、増加であり、現状の漁獲圧が資源の持続的生産に与える影響や資源枯渇リスクは低いと考えられる。資源は環境変化に影響を受けていると考えられるが、資源評価には考慮されていない。外国船による漁獲の影響は考慮されていない。
生態系・環境への配慮
本系群の生態、資源、漁業等については関係県、水産研究・教育機構等で調査が行われ成果が蓄積されているが分布域の生態系に関する調査・研究例は少ない。海洋環境及び漁業資源に関する観測・調査が県、水産機構の調査船によって定期的に行われている。漁業情報から混獲や漁獲物組成に関する情報は十分得られていない。混獲利用種では沖底のその他のイカ類、ヒレグロ、ハタハタ、ニギス、キダイ、小底のヒレグロ、ニギス、その他のイカ類、ハタハタについて資源状態が懸念される種はなかった。混獲非利用種はキタクシノハクモヒトデとしたが、沖底による混獲の影響は少ないとされた。対象海域に分布する希少種へのリスクは全体的に低いと判断された。食物網を通じたソウハチ漁獲の間接影響は、ソウハチの捕食者や餌生物は懸念される状況になかったが、競争者資源の複数で懸念が認められた。生態系全体への影響に関しては、長期的に漁獲物平均栄養段階の低下が認められたが、沖底や小底が要因とは考えにくかった。漁業による海底環境への影響については、沖底2そうびきにおいて、その強度と規模が中程度にあり、一部で海底環境の変化が懸念された。一方、沖底1そうびき(かけまわし)、小底については海底環境に及ぼす影響は重篤ではないと判断された。
漁業の管理
沖底は大臣許可漁業であり、操業区域によって漁船のトン数別隻数が定められ、海域ごとに操業禁止期間が決められているほか、鳥取県地区、島根県地区では自主的な休漁が取り組まれている。小底は知事許可漁業であり隻数制限が設けられ、島根県資源管理指針で自主的に休漁に重点的に取り組むとされている。以上のことから、インプット・コントロールが導入されている。テクニカル・コントロールとして、沖底は操業禁止区域が定められている。小底でも操業禁止ライン等の設定、網目規制等のほか、自主的措置として漁具の改良、小型魚再放流等が取り組まれている。本系群は日本海南西海域に分布し、我が国では管理体制が確立し機能しているが、韓国の漁獲状況は不明である。対象海域の沖底については水産庁漁業取締本部境港支部、福岡支部が指導取り締まりを行い、小底については島根県当局が漁船漁業の監視・取り締まりを行い、違反に対して有効と考えられる制裁が設定されている。本系群については新漁業法下の資源管理基本方針で、大臣は現行の取り組みの検証を行い必要に応じて取り組み内容の改善を図り、漁業者による資源管理協定の締結を促進し、協定参加者自らによる実施状況の検証、改良、報告が行われるよう指導するとある。県の管轄部分についても、県の資源管理方針において漁業者自身が定期的に計画の実施状況を検証し改良することとなっており、県としても5年ごとに方針の検討、見直しをすることになっており順応的管理の仕組みは導入されていると考えられる。
すべての漁業者は漁業者組織に所属しており、特定できる。本系群に対して沖底、小底で自主的な管理が実施されており漁業者組織の管理に対する影響力は強い。両漁業関係者は本系群の自主的管理、公的管理に主体的に参画している。幅広い利害関係者が資源管理に参画し、漁業者が管理施策の意思決定に参画する仕組みが存在している。
地域の持続性
本系群の多くは、島根県の小底、島根県・鳥取県の沖底で獲られている。漁業収入のトレンドはやや低めを示し、収益率のトレンドはやや高く、漁業関係資産のトレンドはやや低かった。経営の安定性については、収入の安定性、漁獲量の安定性、漁業者組織の財政状況はすべて高かった。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買受人は取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。卸売市場整備計画等により衛生管理が徹底されており、仕向けは中高級食材である。先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準はやや高い。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、地元での料理提供が盛んである。
健康と安全・安心
ソウハチの肉は良質なタンパク質を含み、脂肪が多い。縁側には皮膚の健康を保つ働きがあるコラーゲンが含まれている。一般的に、カレイ類には、体内でエネルギー変換に関与しているビタミンB1、骨の主成分であるカルシウムやリンの吸収に関与しているビタミンDが多く含まれている。旬は、産卵期の2〜3月である。
引用文献▼
報告書