サンマ(宮城県)
サンマ(学名:Cololabis saira)はダツ目サンマ科に属する魚である。細長い体形をしており、体長30cm前後に達する。英名:Pacific saury
分布
サンマは、日本海・オホーツク海、北太平洋の亜熱帯水域から亜寒帯水域にかけて広く分布する。これらのうち、日本で漁獲対象となるサンマは主に北太平洋西部と中央部に分布し、秋以降日本近海に来遊する群である。集団遺伝学的解析では、東シナ海、日本海や北米沿岸に分布するものを含めて、変異がきわめて小さいと考えられている。
生態
サンマが分布する海域の表面水温は7~25℃に及ぶが、10~20℃の水温域に多い。水温が上昇する5~8月に北上し、夏季に黒潮・親潮移行域北部・亜寒帯水域に達し、索餌域として利用する。8月中旬以降、南下回遊を開始し、冬季には産卵のため移行域・黒潮前線域・亜熱帯域に達する。南北回遊に加えて、大きく東西方向にも回遊することが知られている。成魚は主にオキアミなど大型の動物プランクトンも捕食する。サンマを捕食する生物として、ミンククジラなどの鯨類、ハイイロミズナギドリ、ウトウなどの鳥類、ギンザケ、ビンナガなどの大型魚類が知られている。
利用
日本をはじめとして、台湾、中国、ロシア、韓国でも利用されている。日本では、生鮮食品、加工原料として広く利用されている。台湾では主に冷凍で水揚げし、中国と韓国向けを中心に輸出が多い。ロシアでは主に缶詰等の加工原料として利用されているほか、フィッシュミールの原料にも用いられている。
漁業
サンマの大半はさんま棒受網漁業で漁獲される。日本のさんま棒受網漁船は、近年10トン以上20トン未満と100トン以上200トン未満の大型船が多いのに対し、台湾のサンマ漁船は冷凍設備を持つ900~1,200トン(国際総トン数)が主体であり、日本のさんま棒受網漁船よりもはるかに大型である。日本のサンマ漁獲量の99%以上は、さんま棒受網漁業により漁獲されている。
日本では、日本のEEZ内を主漁場として、8月は北海道東部沖から千島列島沖、9月下旬~10月上旬には三陸沖、11~12月には常磐沖から房総沖までの海域で漁獲する。一方、台湾や中国の漁船は主に公海域で漁獲し、日本漁船より早い5月末~12月まで、主に東経150度以東の公海域で操業を行っている。なお、ロシアのサンマ漁船は日本と同様、主に自国のEEZ内で操業している。
資源の状態
サンマは北太平洋の温帯・亜寒帯域に広く生息しており、その一部が日本近海域へ来遊し漁獲される。サンマの資源状況については日本の調査船調査や各国の漁業情報を基に調査されており、2017年における国際機関(NPFC)の資源評価では、2015年時点のサンマの資源量は適正な水準にあるものの、これ以上、漁獲圧を高めるのは避けるべきと判断されている。サンマの漁獲量は近年減少しており、日本の調査船調査結果でも減少傾向にあることから、今後の資源動向に注意が必要である。公海で操業する漁船の操業位置を監視する装置が国際的に義務付けられている他、我が国においても、さんま棒受網漁業に対する許可制度やTAC 制度による年間漁獲量の上限管理が行われている。加えて漁業の影響を監視・対応する措置が国際的・国内的に求められている。
生態系・環境への配慮
評価対象水域である太平洋北区はマイワシ、マサバ等浮魚鍵種の生育場であるため、海洋環境、生態系などについて長期にわたり調査・研究が行われている。当該海域における海洋環境及び低次生産などに関する調査は水産研究・教育機構(以下 水産機構)の調査船により毎年実施されているほか各県が毎月定線観測調査を実施している。
棒受網漁業は混獲が発生しにくい漁法であるが、混獲利用種としてはマイワシ・サバ類が存在する。棒受網漁業がこれらの資源に与える影響は小さいと考えられた。混獲非利用種は存在しない。環境省が指定した絶滅危惧種のうち、評価対象水域と分布域が重複する種についてPSAでリスク評価した結果、全体のリスクは低かった。
サンマの捕食者であるミンククジラ、ビンナガについて資源状態は懸念される状態ではなかった。鳥類については情報が乏しかった。サンマの餌と考えられる動物プランクトン現存量とサンマ資源量の間には正の相関がありトップダウン的にサンマが動物プランクトンの変動をもたらしているとは考えられなかった。サンマの競争者であるマイワシ、マサバはいずれも資源状態が中位・増加とされ、サンマの漁獲が栄養段階の近い競争者に悪影響を与えている兆候はみられなかった。
評価対象海域の漁獲物平均栄養段階(MTLc)は3.25~3.5付近を推移したが,2013年以降低下している。これはTL2.0に属するマイワシの漁獲量が増加したこととサンマを含むTL3.5の漁獲量が減少したことに起因している。近年のMTLcの低下要因としては、海洋環境の変化に伴うさんま漁獲量減少も要因として考えられ、さんま棒受網漁業の影響とは言い切れない。
さんま棒受網は着底漁具ではないため海底環境への影響はなく、水質環境への影響は軽微と判断された。さんま棒受網の漁獲量1トンあたりのCO2排出量は他の漁業種類と比べると低いが,生産金額あたりのCO2排出量でみると低いとは言えなかった。
漁業の管理
サンマはTAC対象魚種であり、国連海洋法では高度回遊性の種に位置付けられている。インプット・コントロールとして10トン以上の棒受網船で操業する北太平洋さんま漁業は大臣許可漁業であり、北太平洋漁業委員会(NPFC)では公海において操業漁船を追加許可しないこととなっている。TAC魚種であり、国内的にはアウトプット・コントロールもなされているが、公海域では全体及び各国の漁獲上限についての取り決めは先送りされている。操業にLED光源を導入して大きく省エネに貢献している。全漁業者によってさんま資源の保存及び管理に関する協定が締結され、また漁船規模別操業開始日や漁獲平準化のための休漁等を自主的に実施してきている。
地域の持続性
太平洋北西部系群のサンマは、指定漁業である北太平洋さんま漁業が95%以上を漁獲している。主要な生産県は北海道、宮城、岩手、富山であり、漁業収入は比較的高水準で推移していたが、近年の水揚げ金額の安定は単価の上昇によるものなので、今後の漁獲動向を注視する必要がある。地域雇用への貢献は高く、労働条件の公平性については、漁業で特段の問題はなかった。
対象都道府県の内、富山県については、サンマの自県内への水揚げがないため、評価を実施しなかった。その他各道県とも水揚げ量が多い拠点産地市場がある一方、中規模市場が分散立地している。買受人は各市場とも取り扱い数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いており、取引の公平性は確保されている。一部は餌料用に回されているが、多くは食用としている。大きな労働災害は報告されておらず、労働条件の公平性も比較的高いと想定され、本地域の加工流通業の持続性は高いと評価できる。
先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムも整っており、水産業関係者の所得水準は高い。さんま棒受網は戦後に発達し、食品としての利用も多様化した。
健康と安全・安心
サンマには、悪性貧血の予防に効果を有するビタミンB12、骨の主成分であるカルシウムやリンの吸収に関与しているビタミンD、骨や歯の組織形成に関与しているカルシウム、亜抗酸化作用を有するセレンなど様々な栄養機能性分が含まれている。脂質には、血栓予防や高血圧予防などの効果を有する高度不飽和脂肪酸であるEPAと脳の発達促進や認知症予防などの効果を有するDHAが豊富に含まれている。また、血合肉には、ビタミンB2とタウリンが多く含まれている。ビタミンB2は、口唇炎や口角炎の予防に効果を有する。タウリンは、アミノ酸の一種で、動脈硬化予防、心疾患予防などの効果を有する。旬は晩夏から秋にかけてである。
利用に際しての留意点は、ヒスタミン中毒と生食によるアニサキス感染防止である。ヒスタミン中毒は、筋肉中に多く含まれるヒスチジンが、細菌により分解、生成したヒスタミンによるものであるため鮮度保持が重要である。アニサキスは、魚の死後時間経過に伴い内臓から筋肉へ移動するため、生食には新鮮な魚を用いること、内臓の生食はしない、冷凍・解凍したものを刺身にするなどで防止する。
引用文献▼
報告書