キハダ(鹿児島県)
スズキ目、サバ亜目、サバ科、マグロ属に属し、学名は Thunnus albacares。体は紡錘形。頭部は小さい。胸鰭は長く、後端は第2背鰭起部か中央下に達する。第2背鰭と第2臀鰭は鎌状で老成魚では糸状に延長する。全身は鱗におおわれる。体色は背面では青黒色、腹面は白色、体側は淡灰色。第1背鰭は黄色を帯びた灰色。第2背鰭と臀鰭および小離鰭は濃黄色。
分布
キハダは、熱帯域から温帯域にかけて広く分布する。また、夏季には緯度で40度近くまで分布するが、冬季には緯度で30度以上に分布することは稀である。
生態
産卵は水温24℃以上の水域で周年行われる。50%成熟は体長105 cm程度である。本種の尾叉長は2歳で106cm、4歳で140cm7歳で153cm程度、寿命は7~10年と考えられている。主要な餌生物は魚類、甲殻類及び頭足類である。サメ類、海産哺乳類及びカジキ類によって捕食されている。
利用
はえ縄の漁獲物は冷凍及び生鮮(刺身、寿司等)、まき網の漁獲物は缶詰をはじめとする加工品として主に利用される。
漁業
はえ縄、まき網及び竿釣りが主な漁業である。
はえ縄は1950年代にキハダを主要対象種として発展したが、1970年代半ばにメバチを主要な対象とするようになった。まき網は、カツオを主対象としつつ、キハダも混獲する漁業として1970年代半ばに始まった。1980年代までは、はえ縄が漁獲の半ば以上を占めていたが、その後、まき網による漁獲量が増加した。2017年の総漁獲量は68.1万トン(予備集計)で、過去最高値を記録した。内訳は、まき網が70%、はえ縄が12%、竿釣りが11%、そのほか5%である。そのほかには、フィリピン及びインドネシアにおける多様な漁業(ひき縄、小型のまき網、刺網、手釣りなど)が含まれている。
資源の状態
キハダは我が国周辺における重要水産資源であり3年ごとにMultifan-CLモデルにより漁獲物の体長頻度分布、漁獲量、資源量指数から漁法別の選択曲線、年齢別漁獲尾数、年齢別の個体数、産卵親魚量等の資源量が算出されている。解析に必要なデータは国の委託事業として水産研究・教育機構、及び関係都県により毎年調査され更新されている。キハダの産卵資源量推定値は減少傾向を示しているが、WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)において、資源が乱獲状態にあるか否かの基準とみなされてきたSBMSY、過剰漁獲能力の基準と見なされてきたFMSYで判断した場合、現状の漁獲の強さは過剰ではなく、資源も乱獲状態にはないと結論されている。太平洋共同体事務局(SPC)の資源評価結果はWCPFC科学委員会において承認され、WCPFC年次会合において管理措置が決定されている。
生態系・環境への配慮
生態系への影響の把握に必要となる情報、モニタリングの有無については、中西部太平洋における生態系と混獲の問題、生態系モデル解析、はえ縄による混獲情報が取りまとめられており、部分的だが利用できる情報がある。熱帯まぐろ類の仔稚魚、動物プランクトン、海洋環境の調査が不定期的に実施されている。2008年から中西部太平洋において、科学オブザーバー計画が確立され、はえ縄やまき網による混獲や漁獲物組成等について部分的な情報が収集可能となっている。
評価対象種を漁獲する漁業による他魚種への影響について、まき網の混獲利用種であるカツオは、資源状態は懸念される状態にない。はえ縄の混獲利用種であるメバチ、ビンナガ、メカジキ、ヨシキリザメ、クロトガリザメの評価結果では、クロトガリザメの資源状態が懸念される状態であった。まき網による混獲非利用種はツムブリ、クロトガリザメ、アミモンガラ、クサヤモロ、シイラなどである。東部太平洋でのPSA評価ではクロトガリザメが中程度のリスクと判断された以外は、軽微であると報告されている。はえ縄の混獲非利用種のPSA評価ではアオウミガメ、アカウミガメ、タイマイ、ヒメウミガメではリスクが高、オサガメでは表層で中程度、アカマンボウで中程度などとされ、全体としてリスクが高、中程度の種が複数含まれる。環境省指定の絶滅危惧種に対するPSA評価で、両漁法とも全体平均ではリスクは低いとされたが、海亀類のリスクがまき網では中程度、はえ縄では高いとされた。
漁業による環境への影響、特に食物網を通じたキハダ漁獲の間接影響についてみると、キハダの捕食の関係にある種は、メカジキ、クロカジキ、マカジキ、アオザメ、ヨシキリザメ、クロトガリザメ、ヨゴレ、メバチなどである。中西部太平洋表層の生態系モデルEcopathによれば、キハダの漁獲量を増加した場合でも上記捕食者への影響は軽微であった。キハダの餌生物は成魚ではカツオ、ソウダガツオ類、アカイカ類などである。生態系モデルによれば、餌生物である魚類や頭足類に対する負の影響は軽微であった。生態系モデルによって推定されたキハダの栄養段階と同程度の影響段階に位置する肉食性魚類(カツオ、ミズウオ属、シマガツオ科、アジ科、シイラ属、クロタチカマス科、カマスサワラ、アカマンボウ、サバ科)が競争者と推定されるが、生態系モデルによれば、キハダの漁獲量が微増しても競争者の変化は軽微であった。
当該海域における漁獲物の平均栄養段階水準は1980年から2000年にかけて上昇傾向を示し、その後横ばい状態を示しているが、小型魚や大型魚など栄養段階の高い種の多様性と生物量は2000年以降に大きく変化しながら増減しているとされる。したがって、対象漁業による影響の強さは重篤ではないが、生態系特性の変化が一部懸念される状態である。
WCPFC海域における日本漁船の海洋への汚染や廃棄物の投棄についての違反報告は見いだせなかった。単位漁獲量あたり排出量(t-CO2/t)は大中型かつおまぐろ1そうまき網では比較的低いが、まぐろはえ縄漁業は我が国漁業の中でも高い排出量となっており、排出ガスによる大気環境への悪影響が懸念される。
漁業の管理
キハダを漁獲する大中型まき網漁業、遠洋、近海まぐろはえ縄漁業は大臣許可漁業であり、インプット・コントロールが導入されている。SPCによると資源は乱獲状態の可能性が低く、漁獲努力が過剰でない可能性が高い。インプット・コントロールが実施されているが中~低位、横ばいの資源を有効に制御できているとは評価できない。FAD(集魚装置)禁漁期間制限が緩和された。はえ縄には、採捕してはならない魚種及び海亀や海鳥の保存措置のための漁具制限がある。大中型まき網漁業では、ジンベエザメを視認した際には付近での操業が禁止されている。燃油使用量の削減、低硫黄燃料の使用を漁業者団体が主導した。水産庁国際課がかつお・まぐろ漁業室が中心となってWCPFC、SPCと連携し、国際課かつお・まぐろ漁業室と管理調整課が大中型まき網漁業を、国際課かつお・まぐろ漁業室が遠洋、近海はえ縄漁業を指導、監督している。農林水産大臣が命じたときは、オブザーバーを乗船させなければならない。ポジティブリストの掲載漁船で漁獲されたことの証明書等による輸入事前確認手続きは水産庁に一元化された。我が国は中西部太平洋カツオ・マグロ資源管理能力強化支援事業(WCPFC)を実施している。管理機関等による管理目標、資源評価結果、管理措置等に従って資源管理指針を見直し、省令等を改定してきたことを、順応的管理に準ずる施策と評価した。資源管理指針の下で漁業者は自主的に休漁等に取り組んでおり、海外まき網漁業協会等では実効的な管理措置の実現に向けて自ら活動している。漁業者団体が課題をもって改革計画や実証事業を主導してきており、日本かつお・まぐろ漁業協同組合は日本かつお・まぐろ漁業協同株式会社を組織し、販売事業に当たっている。水産政策審議会資源管理分科会には利害関係者も参画しており、WCPFCの年次会合や科学委員会等へもNGOが参加している。
地域の持続性
中西部太平洋のキハダは、大中型まき網1そうまき遠洋かつお・まぐろ漁業(宮城県、東京都、神奈川県、静岡県、三重県、新潟県、鳥取県、長崎県)、大中型まき網1そうまき近海かつお・まぐろ漁業(静岡県)、遠洋まぐろはえ縄漁業(宮城県、富山県、鹿児島県)、近海まぐろはえ縄漁業(宮崎県、沖縄県)で大部分が漁獲されている。漁業収入は中程度で推移し、収益率は低く、漁業関係資産は比較的高かった。経営の安定性については、収入、漁獲量の安定性ともに中程度であった。漁業者組織の財政状況は未公表の組織が多かった。操業の安全性は高く、地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業で特段の問題はなかった。キハダは拠点市場への水揚げが多く、買い受け人は各市場とも取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。卸売市場整備計画により衛生管理が徹底され、仕向けはほぼ全て生鮮食用向けになっている。労働条件の公平性は加工・流通でも特段の問題は無かった。加工流通業の持続性は高いと評価できる。先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムも整っていた。水産業関係者の所得水準は高い。西日本を中心に伝統的な漁具漁法が継承されており、さまざまな地域で新たな加工法が伝統食に取り込まれている。
健康と安全・安心
キハダには、体内の酸化還元酵素の補酵素として働くナイアシン、抗酸化作用を有するセレン、メチル水銀の解毒作用など様々な機能を有するといわれているセレノネインなど様々な栄養機能成分が含まれている。血合肉には、鉄、タウリンが多く含まれている。タウリンはアミノ酸の一種で、動脈硬化予防、心疾患予防などの効果を有する。また、魚介類のなかでもタンパク質含量の多い魚である。マグロ類の中でも脂質含量が低く、血栓予防などの効果を有するEPAや脳の発達促進や認知症予防などの効果を有するDHAは、他のマグロ類に比べ含量は低い。旬は夏である。利用に際しての留意点は、ヒスタミン中毒防止である。ヒスタミン中毒は、筋肉中に多く含まれるヒスチジンが、細菌により分解、生成したヒスタミンによるものであるため、低温管理が重要である。海外まき網漁船の冷凍物では、ヒスタミン対策が実施されているが、冷凍物でも、低温下での解凍・保管、解凍後の低温管理が必要である。また、冷凍物の解凍時には、解凍硬直を防ぐ方法での解凍が望ましい。
引用文献▼
報告書