ホッコクアカエビ(山形県)
十脚目タラバエビ科に属し、学名はPandalus eous。体は薄紅色。成熟した雌の生殖腺は青緑色で、頭胸甲から透けて確認できる。額角は甲長の1.5倍より長い。第2脚は左側が顕著に長い。腹部第3節は背面の一部が側扁し、かつ隆起して小突起となる。
分布
島根県以北の日本海、北海道以北の太平洋、朝鮮半島東岸、オホ-ツク海、ベーリング海~カナダ西岸に分布。鳥取県~北海道沿岸では水深200~950m(主に200~550m)に分布する。
生態
寿命は11歳。雄性先熟の雌雄同体で、満5歳で雄から雌に性転換する。雄としての成熟開始は3歳であり、雌としての成熟開始は6歳。隔年の2~4月に産卵、孵出後は成長にともない400~600mの深みへ移動した後、性転換と交尾・産卵を行う。産卵を終えた抱卵個体は次第に浅場へ移動し、主に水深200~300mで幼生の孵出を行う。微小な甲殻類、貝類、多毛類及びデトリタス等を捕食し、マダラ、スケトウダラ等の底魚類に捕食される。
利用
概ね3歳(頭胸甲長18mm前後)から漁獲される。日本海では多くが生鮮、一部は冷凍または活で扱われる。刺身、天ぷら等のほか、中腸腺(えびみそ)を生で、頭胸甲を汁物に入れる等で食べる。一部の地域ではブランド化が進められている。
漁業
沖合底びき網(沖底)、小型底びき網(小底)及びかご漁業によって漁獲される。沖底、小底ともにかけまわしにより操業している。鳥取県及び兵庫県の沖底では40トン以上の中大型船が主体であるが、京都府以東では20トン以下の沖底及び小底が大半を占める。かご漁業は15トン以下の漁船を主体に、山形を除く石川以北の各県で行われる。中大型船では2日以上、小型船では日帰り操業が多い。
資源の状態
本種の資源生態に関する調査研究は古くから進められており、学術論文や報告書として蓄積されている。漁獲量・努力量データの収集、調査船調査等の定期的な科学調査、漁獲実態のモニタリングも毎年行われている。沖底の資源密度指数を使用した資源評価が毎年実施されており、資源評価の内容は公開の場を通じて利害関係者の諮問やパブリックコメントを受けて精緻化されて、公表されている。2017年の資源水準は高位、動向は増加とされている。直近5年の資源評価結果では、漁獲量が生物学的許容漁獲量(ABC)を下回ったのは2年、上回ったのは3年であったが、現状の漁獲圧において資源が枯渇するリスクは極めて低いと判断された。資源評価結果、不確実性を考慮した基準は漁業管理方策には反映されていない。遊漁、外国船、IUU漁業の影響はないと考えられる。
生態系・環境への配慮
ホッコクアカエビ日本海系群を漁獲する漁業の生態系への影響の把握に必要となる情報、モニタリングの有無については以下の状況である。生態、資源、漁業等については関係府県、水産機構・日本海区水産研究所等で調査が行われ成果が蓄積されており、各府県調査船による沖合定線調査、沿岸定線調査による水温、塩分等の調査が定期的に実施されている。評価対象漁業で魚種別漁獲量を把握できる体制にあるが、混獲非利用種や希少種について漁業から情報収集できる体制は整っていない。
ホッコクアカエビを漁獲する漁業による他魚種への影響は以下の通りである。沖底、小底の混獲利用種と考えられるトゲザコエビについて、資源は懸念される状態ではなかった。混獲非利用種の大部分を占めると考えられるキタクシノハクモヒトデは混獲による悪影響が懸念される状況ではなかった。環境省のレッドデータブック掲載種の中で生息域が評価対象海域と重複する種の中で、アカウミガメでリスクが中程度となったが、その他の種ではリスクは低く、全体的にリスクは低いと考えられる。
食物網を通じたホッコクアカエビ漁獲の間接影響については、捕食者と考えられるタナカゲンゲ、ドブカスベ、マダラのうちドブカスベの資源状態は不明であるがほかの2種は資源が懸念される状態ではなかった。ホッコクアカエビの餌料とされる微小甲殻類、微小貝類、微小多毛類、及びデトリタスについては漁業の対象ではないと考えられるため混獲の影響は無視できると考えた。底びき網の混獲種であるトゲザコエビがホッコクアカエビの競争者と捉えることができるがその資源は懸念される状態ではなかった。
漁業による生態系全体への影響であるが、当該海域における総漁獲量と漁獲物平均栄養段階(MTLc)の経年変化は安定して推移しており、対象漁業が生態系全体に及ぼす影響は小さいと推定された。漁業による環境への影響のうち海底環境については、両漁業とも影響は軽微と考えられる。水質環境については、対象漁業による環境関連法令違反の検挙例は見当たらず対象漁業からの排出物は適切に管理され水質環境への負荷は低いと判断される。大気環境については、両漁業ともに我が国漁業の中では比較的低いCO2排出量となっているため、対象漁業からの排出ガスは適切に管理され、大気環境への負荷が低度であると判断される。
漁業の管理
ホッコクアカエビ日本海系群を漁獲する沖合底びき網漁業は大臣許可漁業、小型底びき網漁業とかご漁業は知事許可である。アウトプット・コントロールはなされていない。沖合底びき網漁業では漁具制限があり、小型底びき網漁業には漁期、網目等の制限、かご漁業には操業期間、採捕魚種等の制限が課せられている。漁具による影響については沖合底びき網漁業では副漁具の制限、小型底びき網漁業も操業禁止区域の設定はなされている。かご漁業での海底の改変は軽微と考えられる。生息域をカバーする管理体制が機能しているが、大和堆の外国船の投棄漁具の問題がある。石川県地先の沖合底びき網漁業、各県の小型底びき網、かご漁業には国と県作成の資源管理指針からみると順応的管理の仕組みが部分的にも導入されてきている。各漁業では漁業協同組合等の単位で休業等を内容とする資源管理計画を実施している。沖合及び小型底びき網漁業では沿海漁業協同組合、県漁業協同組合連合会による地域プロジェクト改革計画の主導、直営店の運営やブランド化で販売促進がなされ、経営改善や流通販売に関する活動は漁業者組織で全面的に実施されている。資源管理計画の評価・検証に伴う計画の作成には、実施者である漁業者が参加していない。
地域の持続性
日本海のホッコクアカエビは、沖合底びき網(石川県、福井県、兵庫県)、小型底びき網(新潟県、石川県)、えびかご(石川県)で大部分が獲られている。漁業収入はやや高く、収益率のトレンドはやや高く、漁業関係資産のトレンドは低かった。経営の安定性については、収入の安定性、漁獲量の安定性ともにやや高かった。漁業者組織の財政状況は未公表の組織や赤字の組織も含まれた。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買受人は各市場とも取り扱い数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。卸売市場整備計画により衛生管理が徹底されており、仕向けは高級消費用である。先進技術導入と普及指導活動は概ね行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準はやや高い。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、伝統的な加工技術や料理法がある。
健康と安全・安心
ホッコクアカエビには、抗酸化作用があり、老化現象の進行を抑える働きを有するビタミンE、動脈硬化予防、心疾患予防などの効果を有するタウリン、抗酸化作用が強く、抗炎症や生体防御の機能を有するアスタキサンチンなど、さまざまな栄養機能成分が含まれている。また、筋肉等の組織や酵素等の構成成分として重要な栄養成分であるタンパク質もほかの魚介類に比べ多く含まれている。旬は冬である。利用に際しての留意点は、エビは、特定原材料に指定されているため、エビを扱うことによるアレルゲンの拡散に留意する。特に、加工場で、エビと同じ製造ラインで生産した製品など、アレルゲンの混入の可能性が排除できない場合には、その製品には、注意喚起表示を行う。
引用文献▼
報告書