ズワイガニ(北海道 日本海)
十脚目ケセンガニ科に属し、学名はChionoecetes opilio。甲は三角形で平たく、後縁から前縁に走る顆粒列は、ズワイガニでは上下2列、ベニズワイガニは後縁で2列が側縁で1列につながる。
分布
北極海のアラスカ沿岸、グリーンランド西岸、北米の大西洋及び太平洋沿岸、ベーリング海、南米のチリ沿岸、オホーツク海、日本海、犬吠埼以北の太平洋沿岸に広く分布する。評価対象である北海道西部系群は北海道日本海側の大陸棚斜面域及び沖合海山群の斜面域に分布するが、その詳細は不明である。
生態
ズワイガニには年齢を査定できる形質が見つかっていない。調査船調査による観察では、春に甲羅が柔らかい個体が多く出現するので、脱皮時期は春と考えられるが、詳細は不明である。オホーツク海では寿命や自然死亡係数は不明であるが、日本海西部では寿命は13~15年である。食性は底棲動物食であり、主要餌料生物は蛇尾類、甲殻類、二枚貝類である。
利用
かつては缶詰に加工するものが多かったが、近年は脚をゆでるか、丸ごとゆでて出荷することが多い。
漁業
近年の本海域でのズワイガニの漁獲は、ずわいがにかご漁業により専獲されているほか、たら固定式刺し網漁業によるわずかな混獲がある。
ずわいがにかご漁業は平成2(1990)年の農林水産省令改正により、知事許可漁業として、ずわいがにかご漁業とべにずわいがにかご漁業に区分された。漁具はべにずわいがにかご漁業と合わせて6連、1,000カゴ以内が許可条件とされており、甲幅10cm(同省令は9cm)以上の雄のみの漁獲が認められている。近年は小樽根拠及び稚内根拠の合計3隻が、べにずわいがにかご漁業とずわいがにかご漁業の知事許可を得ている。べにずわいがにかご漁業とずわいがにかご漁業の操業期間はそれぞれ7月1日~翌年4月30日、11月1日~翌年4月30日と定められているため、ずわいがにかご漁業の操業期間は両漁業を併行して行っている。
資源の状態
資源生態に関する調査研究は十分ではないがいくつかの情報が資源評価の基礎情報として利用可能である。科学的調査及び水産物の生物調査は実施されていないが、漁獲量・努力量データの収集、漁獲実態のモニタリングは毎年行われている。定期的に収集される漁業データにもとづき、中長期的な単位努力量当たり漁獲量(CPUE)の変動を総合的に見た資源評価が毎年実施され、資源評価の内容は公開の場を通じた利害関係者の諮問やパブリックコメントを受けて精緻化されている。1986年漁期以降の漁場別CPUEの推移から2018年漁期の資源水準は中位、直近5年間(2014~2018年漁期)のCPUEから動向は横ばいと判断した。本系群はさまざまな制限のもとに操業が行われており、現状の漁獲圧は資源にとって過大ではなく、将来の資源枯渇リスクは低いと考えられた。評価の結果を受けて漁獲可能量(TAC)が設定されている。
生態系・環境への配慮
当該海域においてズワイガニを漁獲する漁業による生態系への影響の把握に必要となる情報、モニタリングの有無について、評価対象種の生態等は日本海西部での知見が利用可能であり、対象海域における資源、漁業の状況はある程度把握されている。海洋環境の調査・観測については水産機構、北海道立総合研究機構により定期的に行われている。漁業種類別・魚種別漁獲量については把握されているが、混獲非利用種や希少種について漁業から情報収集できる体制は整っていない。
ズワイガニを漁獲する漁業(かご網)による他魚種への影響については、かにかごは漁具の選択制が高いため、混獲利用種、混獲非利用種、混獲希少種とも無視できるレベルと考えられる。
食物網を通じたズワイガニ漁獲の間接影響について、当該海域におけるズワイガニの捕食者としてはマダラが知られている。マダラの北海道日本海海域における資源の状況は高位・増加傾向であり、ズワイガニの漁獲が捕食者であるマダラに及ぼす影響は見出せない。ズワイガニの主な餌料はクモヒトデ類、小型貝類等と推測される。これら無脊椎動物類の豊度に関するデータは得られていないが、漁業の対象ではないため混獲の影響は無視できる。ズワイガニの競争者としては、ベントス食性のかれい類であるソウハチ、マガレイ、アカガレイが候補に挙げられるが、これら3種の資源状態は懸念される状態ではない。
漁業による生態系全体への影響については、2014年以降、総漁獲量の減少が認められるが近年のサンマ不漁によるところが大きく、沖合底びき網1そうびきが要因とは考えにくいため、生態系全体に及ぼす影響は小さいと推定された。海底環境への影響については、かにかごは着底漁具であるが、海底をひき回す漁具ではなく、海底環境への影響は小さいと考えられた。水質への影響については、対象漁業からの排出物は適切に管理されており、負荷は低いと判断された。大気環境への影響については、かにかご船による単位漁獲量あたりCO2排出量は得られていないが、操業形態が比較的近い刺網や定置網では中程度の排出量となっていることから、やや悪影響が懸念されると判断された。
漁業の管理
かにかご漁業は北海道知事許可漁業である。ズワイガニはTAC魚種であり、漁獲量が管理されている。操業期間、網目合に制限があるほか、雄には甲幅制限があり、雌は採捕禁止である。かにかご漁業は海底環境への影響はごく軽微であると考えられる。北海道漁業協同組合連合会では漁民の森づくり活動が活発に行われている。国内を生息域とすると管理体制が確立し機能しており、道が監視体制をとっている。TACも道知事管理量である。海域ごとの管理の結果は引き続く年の資源評価に反映され、TACは中期的な管理目標に対して順応的管理と評価できる。かにかご漁業者の資源管理計画等は登録されていない。業種別組合や沿海漁業協同組合では卸売市場を運営している。自主的及び公的管理への関係者の関与は高く評価できる。TAC、漁獲量制限以外の漁期・漁獲物の制限等の方策についても行政、漁業者、研究者、利害関係者が提言・協議・決定を行う形で進められている。
地域の持続性
北海道西部のズワイガニは、北海道のずわいがにかご漁業で大部分が獲られている。漁業収入は中程度で推移し、収益率と漁業関係資産のトレンドについては評価は低かった。経営の安定性については、収入の安定性は低く、漁獲量の安定性は中程度であった。漁業者組織の財政状況は良かった。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高いと判断された。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買受人は各市場とも取り扱い数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。卸売市場整備計画により衛生管理が徹底されており、仕向けは高級消費用である。先進技術導入と普及指導活動は概ね行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準は概ね高い。漁業の歴史は浅く、伝統的な漁法や加工料理法が存在するとはいいがたいが、近年地域の特産物としての位置づけも向上しつつある。
健康と安全・安心
ズワイガニには、体内でエネルギー変換に関与しているビタミンB1、細胞内の物質代謝に関与しているビタミンB2、体内の酸化還元酵素の補酵素として働くナイアシン、各種酵素の成分となる亜鉛、抗酸化作用を有するセレン、動脈硬化予防、心疾患予防等の効果を有するタウリンなど、さまざまな栄養機能成分が含まれている。旬は4~5月である。利用の際の留意点として、カニは特定原材料に指定されているため、カニを扱うことによるアレルゲンの拡散に留意する。特に、加工場でカニと同じ製造ラインで生産した製品など、アレルゲンの混入の可能性が排除できない場合には、その製品には注意喚起表示を行う。
引用文献▼
報告書