ズワイガニ(山形県)
十脚目ケセンガニ科に属し、学名はChionoecetes opilio。甲はやや扁平。甲の側縁寄り後方に平行な2列の顆粒列がある。甲幅と甲長の比はほぼ1:1。雌はやや脚が短い。甲や脚の腹側は白っぽい。
分布
島根県以北の日本海、茨城県以北の太平洋、北海道、朝鮮半島東岸、オホ-ツク海、ベーリング海、アラスカ湾に分布。日本海における分布水深は200~500m。
生態
寿命は10歳以上。脱皮齢期別の成熟率は、雄11齢(5%)、12齢(20%)、13齢(100%)、雌11齢(100%)。初産卵は夏~秋、経産卵は2~3月、産卵場は主分布域である水深200~500mのうち浅めの海域。甲殻類、魚類、イカ類、多毛類、貝類、棘皮動物などを捕食し、小型個体はゲンゲ類、カレイ類、ヒトデ類、マダラなどに捕食される。
利用
農林水産省令により、雄では甲幅90mm以上、雌では成熟個体のみが漁獲される。漁獲されるズワイガニのほとんどは生鮮あるいは活で出荷され、高級食材となっている。
漁業
日本海北部では小型底びき網縦びき1種(以下「小底」という)の占める割合が高い。近年では底びき網による漁獲量の減少により、相対的に刺網の割合が増加している。底びき網漁船はかけまわしおよび板びきにより操業している。刺網等のほかの漁業種も含め、漁船は19トン以下の小型船がほとんどである。
我が国周辺のズワイガニ漁業は、農林水産省令によりA~E海域に区分され、それぞれ漁期の制限などがなされている。当該省令におけるB海域は新潟県以北からおよそ青森県沖までの日本海であり、本報告書で扱う日本海北部と概ね一致している。
資源の状態
本海域の漁獲量は、主に漁船数や網数の減少によって長期的に減少している。資源水準の指標値である底びき網漁業による資源密度指数は、年変動が大きいものの、1990年代中ごろから高い水準にあり、2017年の資源水準は高位である。かご調査から推定された過去5年間(2013~2017年)の資源量から、資源動向を増加と判断した。以上の情報については、国の委託事業として水産研究・教育機構、関係府県により毎年調査され更新されている。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議されるとともにパブリックコメントにも対応した後に確定されている。資源評価結果は毎年公表されている。
生態系・環境への配慮
ズワイガニ日本海系群のうち新潟県以北の資源を漁獲する漁業の生態系への影響の把握に必要となる情報、モニタリングの有無について、評価対象種の生態、資源、漁業などについては関係県、水産機構・日本海区水産研究所などで調査が行われ成果が蓄積されており、水温、塩分等の調査も定期的に実施されている。評価対象漁業である刺網、小型底びき網漁業の魚種別漁獲量は把握されているが混獲非利用種や希少種について、漁業から情報収集できる体制は整っていない。
評価対象種を漁獲する漁業による他魚種への影響について、混獲利用種として、刺網ではアカガレイ、マダラ、小型底びき網ではマダラ、ハタハタ、アカガレイが該当すると考えられたが、いずれの魚種も資源への影響が懸念される状態ではなかった。混獲非利用種については、刺網は情報がなく、小型底びき網のクモヒトデに対する漁業の影響は無視できると考えられた。環境省によるレッドデータブック掲載種中アカウミガメでは混獲リスクが中程度であったが、その他の希少種ではリスクは低いと判断された。
食物網を通じたズワイガニ漁獲の間接影響について、ズワイガニの捕食者とされるマダラ、ゲンゲ類のうち、マダラ日本海系群については資源状態は良好、ゲンゲ類については評価するためのデータは見いだせなかった。ズワイガニの主な餌料はクモヒトデ、キビソデガイ等であるが、生産性の低い生物とは考えられないためズワイガニ漁獲の影響は無視できると考えた。日本海において分布水深帯、食性がズワイガニと類似しているアカガレイを競争者とみなしたが、アカガレイの資源は懸念される状態ではなかった。
漁業による生態系全体への影響については、2004~2017年の日本海北区の総漁獲量および漁獲物平均栄養段階(MTLc)は安定して推移していることから小さいと推定された。漁業による環境への影響であるが、海底環境については、刺し網による影響は軽微であるが、小底については漁業の規模と強度、及び回復力からみた影響は低いものの、栄養段階組成に定向的な変化が見られ漁場の一部で変化が懸念される。水質については、対象漁業からの排出物は適切に管理されており負荷は低いと判断された。大気については、小型底びき網のCO2排出量は他漁業と比して中程度であり適切に管理され、負荷が軽微であると判断される。
漁業の管理
ズワイガニ日本海系群をB海域で漁獲する主な漁業種類は刺網と小型底びき網漁業である。B海域は新潟県から青森県までの地先沿岸や沖合域であり、このうち漁獲可能量(TAC)の県別配分があるのは新潟県から秋田県までであり、新潟県の刺網、小型底びき網漁業、山形県の小型底びき網漁業の順に漁獲量は多い。またこれらで、2017年のB海域の漁獲量の84%を占めている。公的管理では知事許可漁業であり漁業関連法や省令により、操業隻数や操業海域、操業時期の制限や、漁獲規制が行われている。また、ズワイガニはTAC対象種であるため、漁獲可能量が漁期年ごとに設定され、県計画等で漁業種類ごと等の数量も示される。
地域の持続性
日本海B海域におけるズワイガニは、小型底びき網漁業と刺し網漁業によって主に漁獲されており、主要な生産県は新潟県・山形県であり、漁業収入については比較的高い水準で推移していた。収益率のトレンドは高く、漁業関係資産のトレンドは低かった。経営の安定性については、収入の安定性は中程度であったが、漁獲量の安定性はやや高く、漁業者組織の財政状況は高かった。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。各県の魚市場は買受人数が比較的多く、競争原理が働きやすい環境にある。また、水揚げ情報、入荷情報、セリ・入札の開始時間、売り場情報については市場関係者に公表されており、取引の公平性も担保されている。卸売市場整備計画により衛生管理が徹底されている。ほとんどは生鮮または活で出荷され、ほかに浜ゆでと呼ばれるボイル加工がある。加工・流通での労働の安全性は中程度の評価であった。先進技術導入と普及指導活動は高く、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準はやや低かった。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、伝統的な加工技術や料理法がある。
健康と安全・安心
ズワイガニには、体内でエネルギー変換に関与しているビタミンB1、細胞内の物質代謝に関与しているビタミンB2、体内の酸化還元酵素の補酵素として働くナイアシン、各種酵素の成分となる亜鉛、抗酸化作用を有するセレン、動脈硬化予防、心疾患予防などの効果を有するタウリンなどさまざまな栄養機能性成分が含まれている。旬は11~2月である。利用に際しての留意点は、カニは、特定原材料に指定されているため、カニを扱うことによるアレルゲンの拡散に留意する。特に、加工場で、カニと同じ製造ラインで生産した製品など、アレルゲンの混入の可能性が排除できない場合には、その製品には、注意喚起表示を行う。
引用文献▼
報告書