ベニズワイガニ(秋田県)
十脚目ケセンガニ科に属し、学名はChionoecetes japonicus。甲の側縁寄り後方に交わる二列の顆粒列がある。甲幅と甲長の比はほぼ1:1。雌はやや脚が短い。甲や脚の腹側は背側同様赤っぽい。
分布
島根県以北の日本海、茨城県以北の太平洋、北海道、朝鮮半島東岸に分布。日本海における分布水深は500~2,700m。
生態
寿命は10歳以上。雌雄ともに7~8歳で成熟し始める。主な産卵期は2~4月、隔年で産卵し抱卵期間は約2年。イカ類のほか、エビ類、カニ類(共食い含む)、ヨコエビ類等の甲殻類、微小貝類、小型魚類等を捕食し、稚ガニはアゴゲンゲ、ベニズワイガニ(共食い)、大型個体は共食いに加えてドブカスベ、ツチクジラ等に捕食される。
利用
農林水産省令により、甲幅90mm超の雄が漁獲され、雌は禁漁である。日本海では冷凍食品等の加工品に利用されるほか、茹でガニとして販売されている。一部の地域ではブランド化が進められている。
漁業
ほとんどがかご網によって漁獲され、ほかの漁業種による漁獲は若干量である。京都府を除く青森県から兵庫県で行われている知事許可漁業は20トン以下の小型船が中心で日帰り操業が多い。大臣許可漁業は100トンを超える大型船が主体となり、1週間程度の航海で操業される。大臣許可漁業船に対し、個別割当制が導入されている。
資源の状態
かご網漁業の資源量指数は、1982年が最高であり1990年まで低下を続けた。その後1996年まで上昇したが、2002年には過去最低水準まで低下した。2003年以降は上昇傾向にあったが、2011年以降の変化は小さい。2017年の資源水準は中位、動向は横ばいである。以上の情報については、国の委託事業として水産研究・教育機構(以下、水産機構)、関係府県により毎年調査され更新されている。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議されるとともにパブリックコメントにも対応した後に確定されている。資源評価結果は毎年公表されている。
生態系・環境への配慮
ベニズワイガニ日本海系群を漁獲する漁業の生態系への影響の把握に必要となる情報、モニタリングの有無について、評価対象種の生態、資源、漁業等については関係県、水産機構・日本海区水産研究所等で調査が行われ、当該海域では各県調査船による沖合定線調査、沿岸定線調査により水温、塩分等の調査が定期的に実施されている。評価対象漁業であるかご網漁業は魚種別漁獲量を把握できる体制にあるが、混獲非利用種や希少種について、漁業から情報収集できる体制は整っていない。
ベニズワイガニを漁獲する漁業による他魚種への影響について、かご漁業の混獲種は極めて少ないとされるため、混獲利用種、混獲非利用種、希少種ともに影響は無視できる程度と考えられる。
食物網を通じたベニズワイガニ漁獲の間接影響については、深海性のベニズワイガニに対し日本海では目立った捕食者は存在しないと考えられる。ベニズワイガニの主要な餌はイカ類の死骸とベニズワイガニ自身(脱皮殻の可能性もあり)とされるため他生物への影響も無視できる程度と考えられる。ベニズワイガニの競争者である可能性があるノロゲンゲについては、資源は懸念される状況ではなかった。
漁業が生態系全体に与える影響については、2004~2017年の日本海西区の総漁獲量及び漁獲物平均栄養段階(MTLc)はともに安定して推移していることから、かご網が生態系全体に及ぼす影響は小さいと推定された。
漁業が海底環境に与える影響については、かごは海底面をひき回すわけではないため、海底への影響は軽微と考えられる。水質、大気環境に与える影響については、重篤な影響を与えているとの評価にはならなかった。
漁業の管理
ベニズワイガニを対象としたかご漁業は大臣許可指定漁業の日本海べにずわいがに漁業と県知事許可漁業のべにずわいがにかご漁業からなるため両漁業種類にはインプット・コントロールが成立している。日本海べにずわいがに漁業船は漁期の漁獲割当がなされており、総漁獲量の上限も定まっている。操業禁止区域、禁漁期間があり、雌および甲幅9cm以下の雄は採捕できない等のテクニカル・コントロール施策が十分に導入されている。海底の改変は軽微であると考えられるが、操業中にかごが逸散した場合は影響があるといわれる。休漁期間中に海底清掃が実施されるなど、漁民の森づくり活動が行われている。国内の管理体制は整って機能しているが、生息域をすべてカバーするために近隣諸国を含めた管理体制が確立し機能しているとはいえない。監視は水産庁漁業取締本部、同境港、新潟支所、各県の漁業取締当局が担当する。外国船違法操業への対策も強化されており、大和堆周辺水域における外国船の取締りは、海上保安庁と連携している。国が作成する資源管理指針に広域魚種と位置づけられ、順応的管理の仕組みが部分的にも導入されている。漁業資源管理計画が実行され、休漁、漁獲物の制限等の資源回復計画策定当時と実質同様の漁業管理を継続している。プライドフィッシュに登録してのブランド化、かに祭りの開催等の流通販売活動が盛んに実施されている。遊漁はない。境港においてはベニズワイガニ産業に関与する生産・加工仲買・卸売業関係者からなる境港ベニズワイガニ産業三者協議会が開催されており、利害関係者間での協議は高く評価される。種苗放流は実施されておらず、その効果を高める措置や費用負担への理解については評価できない。
地域の持続性
日本海系群のベニズワイガニは、かご漁業(新潟、兵庫、鳥取、島根)で大部分が獲られている。漁業収入はやや高く、収益率と漁業関係資産のトレンドについては、ともに低かった。経営の安定性については、収入の安定性、漁獲量の安定性ともにやや高かった。漁業者組織の財政状況は赤字の組織も含まれた。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買い受け人は各市場とも取り扱い数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。卸売市場整備計画等により衛生管理が徹底されており、 仕向けは高級消費用及び中級消費用である。先進技術導入と普及指導活動は盛んに行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準はやや高かった。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、伝統的な加工技術や料理法がある。
健康と安全・安心
ベニズワイガニには、骨や歯の形成に必要な成分であるカルシウム、動脈硬化予防、心疾患予防等の効果を有するタウリンなど、さまざまな栄養機能性成分が含まれている。旬は、漁期の中で漁獲量が多い時期とされ、山陰と富山県では11~2月、新潟県と石川県では、6~8月である。利用に際しての留意点は、カニは、特定原材料に指定されているため、カニを扱うことによるアレルゲンの拡散に留意する。特に、加工場で、カニと同じ製造ラインで生産した製品など、アレルゲンの混入の可能性が排除できない場合には、その製品には、注意喚起表示を行う。
引用文献▼
報告書