サメガレイ(茨城県)
カレイ目、カレイ亜目、サメガレイ属に属し、学名はClidoderma asperrimum。体は著しく左右非対称なカレイ型であり、有眼側にいぼ状突起が密に分布していることで、他のカレイ類と容易に区別できる。
分布
東シナ海、渤海からカナダのブリティッシュコロンビア州南部まで分布し、日本周辺での主な分布域はオホーツク海、北海道および東北地方太平洋沖である。日本近海では日本各地の水深150~1000mの砂泥底に生息する。評価対象の太平洋北部系群は、東北地方太平洋岸沖に分布する(北海道太平洋岸は含まない)。
生態
寿命は雄で15歳、雌で22歳。成熟サイズは、雄で全長25cm以上(満2歳で一部が成熟し、満3歳でほとんどが成熟)、雌で40cm以上(満3歳で一部が成熟し、満4歳でほとんどが成熟)、産卵盛期は1~2月である。水深600~900mの深海域が産卵場となり、親魚は産卵期に集群する。食性は主にクモヒトデ類で、捕食者は明らかになっていない。大規模な回遊は知られていないが、成長に伴い深場に移動すると考えられている。
利用
有眼側の見た目が悪いので、普通皮をむいて内臓を除去した「皮なしドレス」という状態で出荷される。よく脂がのっているのが特徴で、煮つけ、焼き魚、干物のほか、刺身でも食べられる。
漁業
サメガレイは主に沖合底びき網漁業(以下、沖底)により漁獲される。小型底びき網や刺網漁業等でも漁獲されるが、これらの漁獲量は極めて少ない。現在は金華山海区での沖底による漁獲が多くなっている。沖底は7~8月が禁漁期であり、金華山海区では2~6月の産卵~索餌期に水揚げが集中していることから、親魚が集群して産卵し、産卵を終えて深場に拡散するまでの間に漁獲する状況となっている。
沖合底びき網漁業には、主に19トン型と66トン型の漁船が使用されている。海区ごとに漁法が異なり、襟裳西~尻屋崎海区ではかけまわし、岩手海区ではかけまわしか2艘びき、金華山海区以南ではオッタートロールがメインで行われている。
資源の状態
サメガレイの主漁場である金華山海区以南(金華山・常磐・房総)では、単一の漁法(トロール)で操業が行われているため、金華山海区以南のCPUEを用いて資源状態を判断している。これによると、CPUEは長期的に減少傾向にあり、1990年代以降は常に低い水準で推移している。また、直近のCPUEも減少の傾向を示している。資源評価結果は、公開の会議で外部有識者を交えて協議されるとともに、パブリックコメントにも対応した後に確定され、毎年公表されている。
生態系・環境への配慮
太平洋北区は、農林水産省のプロジェクト研究、水産機構の一般研究課題として長期にわたり調査が行われている。現在Ecopathによる食物網構造と漁業の生態系への影響評価が進められている。当該海域における海洋環境及び低次生産、底魚類などに関する調査は、水産機構、関係県の調査船により定期的に実施されている。沖合底びき網漁業からは漁獲成績報告書が提出されているが、記載されない混獲非利用種や希少種について、漁業から情報収集できる体制は整っていない。
沖底混獲利用種であるスルメイカ、スケトウダラのうち、スルメイカの資源状態が悪かった。混獲非利用種と考えられた生物に対して、深刻な悪影響を与えているとは言えなかった。環境省が指定した絶滅危惧種のうち、評価対象水域と分布域が重複する種への影響は軽微であると考えられた。
食物網を通じた間接作用であるが、サメガレイはキアンコウに捕食されるが、生態系モデルEcopathのMixed trophic impactによれば、キアンコウによるサメガレイへの影響は検出されなかった。サメガレイの餌生物は主にクモヒトデ類である。Ecopathの結果によれば、ヤナギムシガレイによるクモヒトデ類を含むマクロベントスへの影響は検出されなかった。サメガレイと食性が重複するキチジ、かれい類が競争者と考えられるが、Ecopathで解析すると、ババガレイとの捕食を巡るニッチ重複度が高いという結果が得られた。サメガレイのバイオマスの変化が他の生物群へ及ぼす大きな影響は検出されなかった。
沖合底びき網漁業の規模と強度の評価から、生態系全体への影響は重篤ではなく、栄養段階組成で判断した結果からは、生態系特性に不可逆的な変化は起こっていないと考えられた。海底環境への影響は、沖合底びき網1艘びきでは、オッタートロールでは重篤な悪影響が懸念されるが、かけまわしでは影響は軽微と判断され、沖合底びき網2艘びきも全体の深刻さは軽微と考えられた。対象漁業からの排出物は適切に管理されており、水質環境への負荷は軽微であると判断される。大気環境への影響は、沖合底びき網1艘びきの漁獲量1トンあたりのCO2排出量は他の漁業種類と比べると低く、影響は軽微であると判断された。
漁業の管理
太平洋北部のサメガレイは主に沖合底びき網漁業で漁獲されている。TAE対象魚種であり、海域と期間を指定して漁獲努力可能量が定められている。また「太平洋北部沖合性カレイ類資源回復計画」により設定された、特定の期間には操業をしないとする保護区も自主的に引き継がれており、漁業者団体による地域プロジェクト改革計画等の実施も行われている。
地域の持続性
太平洋北部のサメガレイは、沖合底びき網漁業(青森県、岩手県、宮城県、福島県)で多くが獲られている。収益率のトレンドは低く、漁業関係資産のトレンドは中程度であった。経営の安定性の面では、収入の安定性、漁獲量の安定性はやや低く、漁業者組織の財政状況は高位であった。操業の安全性、地域雇用への貢献は高かった。各県とも水揚げ量が多い拠点産地市場がある一方、中規模市場が分散立地している。買受人は各市場とも取扱量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。卸売市場整備計画により衛生管理は徹底されている。大きな労働災害は報告されておらず、本地域の加工流通業の持続性は高い。先進技術導入と普及指導活動はおおむね行われており、物流システムも整っていた。水産業関係者の所得水準は高い。宮城県・岩手県では伝統的な料理法が数多く伝えられている。
健康と安全・安心
サメガレイの肉は良質なタンパク質を含み、脂肪が多い。縁側には皮膚の健康を保つ働きがあるコラーゲンが含まれている。一般的に、カレイ類には、体内でエネルギー変換に関与しているビタミンB1、骨の主成分であるカルシウムやリンの吸収に関与しているDが多く含まれている。旬は,夏から冬である。
引用文献▼
報告書