マアジ(佐賀県)
スズキ目、アジ亜目、アジ科に属し、学名は Trachurus japonicus。体は中程度に延長した紡錘形でやや側扁する。尻鰭の前方に2遊離棘がある。側線は第2背鰭より前方で湾曲している。楯鱗が側線上全体にわたって発達している。
分布
我が国周辺及び朝鮮北東部以南の温帯域に広く分布するが、特に東シナ海・日本海に多い。
生態
寿命は5歳前後。成熟開始年齢は1歳で50%、2歳で100%。産卵期は冬~初夏、東シナ海南部、九州・山陰沿岸から日本海北部沿岸にわたる広い海域で行われる。成長は海域や年代等によってやや異なるが、ふ化後1年で尾叉長16~18 cm、2年で22~24 cm、3年で26~28 cmに達する。餌は、オキアミ類、アミ類、橈脚類などの動物プランクトンや小型魚類である。幼稚魚はブリなどの魚食性魚類に捕食される。
利用
刺身、たたき、フライ、塩焼き、干物などとして利用される。小アジは養殖魚の餌料としても用いられる。
漁業
マアジ対馬暖流群のほとんどは、大中型まき網漁業及び中・小型まき網漁業で漁獲される。主漁場は東シナ海から、九州北~西岸、日本海西部である。
主要漁業である大中型まき網漁業で使用される網船の大きさは、80トン、135トン、199トンである。また小型まき網では19トン船が多い。この海域のまき網では、夜間、灯火による集魚を行っている。
資源の状態
マアジはわが国周辺における重要水産資源であり毎年コホート解析により年齢別資源量が算出され、それに基づいて漁獲可能量(TAC)が算出されている。コホート解析に必要な漁獲量、年齢組成、さらに次年度の資源量予測に必要となる年齢別成熟割合、近年の再生産成功率、加入量などのデータは国の委託により水産研究・教育機構(以下、水産機構)、関係都道府県により毎年調査され更新されている。対馬暖流系群の資源量は、1970年代は低い水準だったが、その後増加し、1990年代後半から2000年代初めには30万~40万トンとなった。その後は増減を繰り返したが、2014年の高加入により2015年の資源量は53万トンと推定されている。2015年時点、資源水準は中位で増加傾向にある。現在の漁獲圧は生物学的な管理基準であるFmed(親子関係のプロットの中央値に相当する漁獲係数)より低く、将来予測では現在の漁獲圧が続いた場合に、2022年に親魚量が低位水準と中位水準の境であるBlimitを上回る確率は98%と見積もられている。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議されるとともにパブリックコメントにも対応した後に確定されている。資源評価結果は毎年公表されている。
生態系・環境への配慮
東シナ海は農林水産省農林水産技術会議委託プロジェクト研究の対象海域となるなど海洋環境と生態系、魚類生産に関する研究は豊富である。海洋環境及び漁業資源に関する調査は水産機構の調査船、沿岸各県の調査船によって高い頻度で実施されている。ただし、漁業によるモニタリングについては混獲非利用種や希少種について、漁業から情報収集できる体制は整っていない。
大中型まき網での混獲利用種であるゴマサバ、マイワシ、ブリ、中・小型まき網混獲利用種のマイワシ、ウルメイワシ、マアジについて資源状態は懸念される状態になかったが、大中型まき網のマサバ、中・小型まき網のマサバ、カタクチイワシは懸念される状態であった。混獲非利用種については、両漁業とも情報がなかった。希少種に対する両漁業の評価は全体では低リスクであったが、アカウミガメ、アオウミガメは中程度リスクと評価された。
食物連鎖を通じた間接的影響であるが、マアジ捕食者のカツオ、サワラ、ハンドウイルカ、イワシクジラ、シャチ、カマイルカ、コビレゴンドウ、スナメリ、ミンククジラ、カツオドリ、アジサシ、ウミネコ、ウトウは、資源動向判断のためのデータが乏しい種が多く存在した。餌生物は2005年までのデータであるが1960年代以降動物プランクトンの増加現象が見られた。この定向的変化の原因は水温の影響が示唆されるが、マアジの減少の影響の有無については特定できなかった。競争者であるマサバ、ゴマサバについてはマサバの資源状態が懸念される状態と考えられた。
生態系全体への影響としては、大中型まき網、中・小型まき網とも漁業の影響強度は低く、生態系特性に不可逆的な変化は起こっていないと考えられた。まき網の着底による海底への影響は小さいと考えられる。水質環境への影響については、対象漁業からの排出物は適切に管理されており負荷は軽微であると判断された。大気への影響は、対象漁業は我が国の漁船漁業の中では燃油消費量や温暖化ガスの環境負荷量が比較的小さい漁業であると考えられる。
漁業の管理
マアジ対馬暖流系群東シナ海区については、主に大中型まき網、中・小型まき網漁業で漁獲が行われている。同一の資源を中国、韓国と漁業共同委員会を通じて利用している。大中型まき網漁業での漁獲量は長崎県、中・小型まき網漁業でも長崎県が多い。インプット・コントロールとともにTAC対象魚種であるためアウトプット・コントロールもなされている。かつての資源回復計画と同様の努力量、小型魚保護の規制を資源管理指針、計画の中で継続している。長崎県ではまき網で漁獲した「ごんあじ」のマーケティング等団体での販売活動も活発である。
地域の持続性
マアジ対馬暖流系群は、長崎県の大中型まき網、長崎県の中・小型まき網で大部分が獲られている。収益率のトレンドは低かったが、漁業関係資産のトレンドは高かった。経営の安定性については、収入の安定性・漁獲量の安定性ともにやや高かった。操業の安全性、地域雇用への貢献はともに高かった。長崎県は中小零細市場が多く、このうち零細市場ではセリ取引、入札取引による競争原理が働かない場合も生じるが、マアジでは少ない産地市場において、比較的大人数の買受人参加の下でセリ取引、入札取引が行われており、競争原理は働いている。卸売市場整備計画により衛生管理が徹底されている。大きな労働災害は報告されておらず、地域雇用への貢献も比較的高く、本地域の加工流通業の持続性は中程度と評価できる。先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムも整っていた。水産業関係者の所得水準はおおむね高い。伝統的な加工法や料理法が数多く伝えられている。
健康と安全・安心
マアジには、糖質代謝に関与するビタミンB1、骨の主成分であるカルシウムやリンの吸収に関与するビタミンD、抗酸化作用を有するセレンなど様々な栄養機能成分が含まれている。マアジの脂質含量はマサバなどに比べて少ないが、血栓予防などの効果があるEPAと脳の発達促進や認知症予防などの効果があるDHAが豊富に含まれている。マアジには、黄アジと呼ばれる瀬付きのアジと黒アジと呼ばれる回遊性のアジがある。黄アジの旬は5~7月、黒アジの旬は、九州では3月、山陰や駿河では、4月と産卵期前であるが、大型のものは冬(1~2月)が旬である。利用に際しての留意点は、ヒスタミン中毒と生食によるアニサキス感染防止である。ヒスタミン中毒は、筋肉中に多く含まれるヒスチジンが、細菌により分解、生成したヒスタミンによるものであるため鮮度保持が重要である。アニサキスは、死後の時間経過に伴い内臓から筋肉へ移動するため、生食には、新鮮な魚を用いること、内臓の生食はしない、冷凍・解凍したものを刺身にするなどで防止する。なお、アニサキスは、日本周辺には2種が生息し、九州や四国に主に分布するアニサキスはアニサキス症の原因にはほとんどならないことが報告されている。
引用文献▼
報告書