ウルメイワシ(高知県)
ニシン目、ニシン亜目、ニシン科に属し、学名は Etrumeus teres。体は細長く丸く腹面に硬い稜鱗がない。体の背面は暗青色、腹面は銀白色で特別な斑紋がない。
分布
太平洋、インド洋、大西洋の暖海に広く分布する。日本各地の沿岸に生息するが、中部以南に多い。
生態
寿命は2歳前後で、1歳までに成熟する。産卵期は10月~7月。産卵盛期は明瞭でないが、3~6月の産卵量の割合が大きい年が多い。産卵場は土佐湾周辺海域を中心に形成されるが、産卵盛期後半には伊豆諸島~関東近海でもかなりの産卵が見られる。沿岸性が強く、分布・回遊範囲は、資源増大期に150°E以東の沖合域へ拡大するカタクチイワシやマイワシのような広がりを見せず、本州~九州の太平洋岸沿いに集中する。食性は動物プランクトン等を捕食する。中大型浮魚等に捕食される。
ワシントン条約付属書掲載基準を水産種へ適用する際にFAOが勘案する生産力の基準に従えば、資源の内的自然増加率を除く5つのパラメータのうち、個体の成長率以外の4つでウルメイワシの生産力は高いと判断される。
利用
食用としては丸干し以外にも、生産地では刺身、すり身、煮つけ等に広く利用され、また養殖餌料にも利用される。
漁業
[対象種を漁獲する漁業]
主にまき網、定置網により漁獲される。和歌山県では棒受網、高知県では多鈎釣りでも漁獲される。仔稚魚(シラス)期は船びき網で漁獲される。
[評価対象漁業の絞り込み]
本評価軸における資源評価ではウルメイワシ太平洋系群を漁獲するすべての漁法の漁獲量情報を使用している。漁獲の状況や漁業の管理等の評価においては、漁獲の83%を占めるまき網漁業を対象とする。
[評価対象漁業の操業形態]
ウルメイワシ太平洋系群を漁獲する主な漁業は総トン数40トン未満の船舶を使用する中型まき網と総トン数5トン未満の船舶を使用する小型まき網である。
資源の状態
ウルメイワシは我が国周辺における重要水産資源であり2016年より年(半年)別年齢別漁獲尾数に基づくコホート解析が導入され、年齢別資源量が算出されている。コホート解析に必要な漁獲量、年齢組成、更に次年度の資源量予測に必要となる年齢別成熟割合、近年の再生産成功率、加入量などのデータは、国の委託により水産機構、関係都道府県により毎年調査され更新されている。ウルメイワシの資源は、マイワシやカタクチイワシのような大規模な資源変動は見られず、比較的安定している。資源量推定が行われている1999年以降、資源量は一貫して増加傾向にある。2015年現在、資源の水準は高位で、資源の動向は増加傾向にある。現在、資源量推定が行われている期間が高水準の時期のみであり、Blimitは設定されていない。主要港水揚情報を用いることで資源評価を実施する年の前半(1~6月)までの資源量推定を行うため、ABC算定に係る不確実な要素である加入量予測を資源評価翌年の1回にとどめている。また、卵数法による親魚量の推定も試みられている。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議されるとともに、パブリックコメントにも対応した後に確定されている。資源評価結果は毎年公表されている。
生態系・環境への配慮
黒潮内側域は海洋環境や生態系についての情報が蓄積され、土佐湾など太平洋南区での海洋調査も毎月実施されている。ウルメイワシの漁獲量が大きい中・小型まき網漁業について、利用種の魚種別漁獲量は把握されるが混獲非利用種について漁業から情報収集できる体制が整っていない。
中型まき網の混獲利用種であり、ウルメイワシの競争種でもあるカタクチイワシ太平洋系群については、漁獲圧が適正値より大きく資源状態も悪く、生態系への影響として懸念される。混獲非利用種について情報が不足している。当該海域に分布・来遊すると考えられる希少種のPSA総合点は低リスクを示したが、アカウミガメは本州での産卵数減少が続いており、まき網での混獲情報が得られていないことから、より詳細な影響評価が必要である。ウルメイワシの捕食者のうち、メバチは資源が低位、横ばいであり、中型まき網に限らず漁業の影響が懸念される。餌生物である動物プランクトンへの影響は見いだせなかった。
漁業の管理
ウルメイワシ太平洋系群の漁獲は、主に三重県~宮崎県の中・小型まき網漁業で揚げられる。中型まき網漁業は法定知事許可漁業、小型まき網漁業は知事許可漁業であり、隻数やトン数等が県知事により制限されている。土佐湾には網漁業が許可されていない海域がある。アウトプット・コントロールは無い。近年、広域管理魚種、次期TAC候補種として、水産政策審議会資源管理分科会、広域漁業調整委員会でも管理について協議の対象となり、国作成の資源管理指針にその資源動向が記載、改定されるようになった。
地域の持続性
ウルメイワシ太平洋系群(南区、中区)の漁業生産の状況は、比較的高い水準で推移しており、主要漁業である中小型まき網の経営も比較的安定している。操業の安全性や労働条件などについても特段の問題は見受けられなかった。産地市場は小規模であるものの競争的であり、その取引の公平性は担保されている。干物のイメージが強いウルメイワシだが、鮮魚にも仕向けられており、イワシの鮮度保持に必要な氷の供給も十分に行われ、付加価値の向上にもつながっている。当該漁業は地域雇用へ貢献しており、関係業者の所得もやや高めの状況にあった。また、土佐湾中央部においては多鈎釣と呼ばれる1本釣り漁法が引き継がれてきており、伝統漁法が受け継がれている。伝統的な郷土料理も存在し、傷みの早いウルメイワシ原料を丸干し、煮干し、刺し身、酢締め、姿寿司、すりみなどへ加工する多様な利用が伝統的に行われている。
健康と安全・安心
ウルメイワシには、視覚障害の予防に効果があるビタミンA、細胞内の物質代謝に関与するビタミンB2、体内の酸化還元酵素の補酵素として働くナイアシン、骨や歯の組織形成に関与するカルシウム、血液の構成成分である鉄、各種酵素の成分となる亜鉛など様々な栄養機能成分が含まれている。脂質には、血栓予防などの効果を有するEPAと脳の発達促進や認知症予防などの効果を有するDHAが豊富に含まれている。ウルメイワシは、魚介類のなかでもタンパク質含量の多い魚である。また、血合肉には、タウリンが多く含まれている。タウリンはアミノ酸の一種で、動脈硬化予防、心疾患予防などの効果を有する。旬は秋~冬である。
利用に際しての留意点は、ヒスタミン中毒と生食によるアニサキス感染防止である。ヒスタミン中毒は、筋肉中に多く含まれるヒスチジンが、細菌により分解、生成したヒスタミンによるものであるため鮮度保持が重要である。アニサキスは、死後の時間経過に伴い内臓から筋肉へ移動するため、生食には、新鮮な魚を用いること、内臓の生食はしない、冷凍・解凍したものを刺身にするなどで防止する。
引用文献▼
報告書