サスティナブルでヘルシーなうまい日本の魚プロジェクト

Sustainable, Healthy and “Umai” Nippon seafood project

サスティナブルでヘルシーな
うまい日本の魚プロジェクト

マアナゴ(愛知県)

ウナギ目、アナゴ亜目、アナゴ科に属し、学名はConger myriaster。細長い体型で、体色は褐色。側線上に白い点線が並ぶ。

分布

日本沿岸のほぼ全域及び朝鮮半島沿岸、渤海、黄海、東シナ海に幅広く分布する。主たる分布域は沿岸浅海域であるが、鉛直方向にも幅広い分布域をもつ種である。産卵場のひとつが、沖ノ鳥島南方の九州パラオ海嶺付近に確認されており、本種の仔魚(レプトセファルス)は黒潮等の海流による長距離の移動分散の後、沿岸に接岸するものと推測されている。

生態

変態直後の稚魚(全長約10cm)では、コペポーダ、よこえび類、甲殻類稚仔、多毛類等からなる小型の底生生物を捕食する。小型魚から中型魚(全長15~50cm)はえび類、はぜ類を中心に多様な生物を捕食し、全長50cm以上の大型魚では魚類、軟体類の大型種の捕食が多くなる。なお、捕食者については不明である。

利用

あなご丼、寿司、天ぷら、干物等の材料として利用されている。

漁業

伊勢・三河湾におけるマアナゴの漁獲は、主に小型機船底びき網漁業、あなごかご漁業により行われている。小底の漁場は、伊勢湾全域及び三河湾に形成され、かご網の漁場は沿岸に沿って広く形成される。愛知県においては、知多地区の漁獲量が最も多い。


あなたの総合評価

資源の状態

 マアナゴは大規模な回遊を行い、種としての分布域は広域にわたる。資源評価対象であるマアナゴ伊勢・三河湾系群の漁獲量は、2000年までは概ね1,000トン前後で推移していたが、それ以降は長期的に減少傾向にある。資源量指標値である小底の単位努力量あたり漁獲量(CPUE)は増減を繰り返しながら減少傾向となっている。2020年現在、資源の水準は低位で、資源の動向は減少傾向にある。漁獲量と資源量指標値が利用できることから、生物学的許容漁獲量(ABC)が算定されている。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議された後に確定されている。資源評価結果は毎年公表されている。



生態系・環境への配慮

 マアナゴを漁獲する漁業の生態系への影響の把握に必要となる情報、モニタリングの有無については、伊勢・三河湾については生産力等に関する調査・研究が進められてきた。海洋環境及び漁業資源に関する調査が関係県の調査船によって定期的に実施されている。漁業種類別・魚種別漁獲量等は調査され公表されているが混獲や漁獲物組成に関する情報は十分得られていない。
 マアナゴを漁獲する漁業による他魚種への影響について、かご網の混獲は知られていない。小底はマダイ、クルマエビ、かれい類、スズキ、シャコ、その他のえび類を混獲利用種としたが、シャコ、かれい類については資源が懸念される状態であった。混獲非利用種については、小底については、スナヒトデ、オカメブンブク、小型かに類、モミジガイとしたが、いずれも生産性は低くなく、漁業に対する感受性は中程度と考えられ、全体でのリスクは低いと考えられた。対象海域に分布する希少種のうち、ニホンウナギに中程度の影響リスクが認められたが全体としては低いと考えられた。
 食物網を通じたマアナゴ漁獲の間接影響について、本種はいくつかの魚種の消化管内容物から出現が認められるものの、若齢魚が若干量捕食されているに過ぎず、伊勢・三河湾においては最高次捕食者に近い位置を占めていると考えられる。餌生物のうち、マアナゴの捕食による影響が強く懸念される魚種は存在しなかった。漁獲量の多い食性類似種にはスズキが挙げられるが、マアナゴとの餌を巡る競争関係は検出されなかった。
 漁業による生態系全体への影響については、評価対象海域で漁獲される魚介類の総漁獲量及びそれらの漁獲物平均栄養段階(MTLc)は低下傾向にあり、生態系全体に及ぼす影響が無視できないと推定された。漁業による海底環境への影響については、対象漁業のうち小底において、その強度と規模の影響が中程度にあり、海底環境への負荷は無視できないと考えられた。



漁業の管理

 愛知県のかご網は海区漁業調整委員会指示によって漁具数を規制されている。小底は知事許可漁業であり隻数制限が設けられるとともに、資源管理方針により漁獲努力量の上限が決められている。さらに愛知県資源管理指針に基づく自主的管理措置として休漁に重点的に取り組むとされており、両漁業ともインプット・コントロールが導入されている。かご網は愛知海区漁業調整委員会指示により目合の制限がなされ、資源回復計画、資源管理指針でかご網、及び小底について、10~11月の全長25cm以下のアナゴの再放流に取り組み、小底(まめ板網)で網目の拡大が導入されているなど、小型魚保護のためのテクニカル・コントロールが導入されている。小底は海底環境への影響が大きいとされるが、影響を制御する規制は見当たらない。漁業者自ら水質の保全、藻場・干潟の造成及び森林の保全・整備等で漁場環境の改善に取り組み、南知多町等の市町で干潟の保全活動が取り組まれている。
 本系群は三重県、愛知県に跨がって分布する広域資源であるが、太平洋広域漁業調整委員会による管理体制が確立している。漁船漁業の監視・取り締まりは県が複数の取り締まり船により日常的に行っている。体長制限等については水揚げ港等での漁協職員等による監視が可能である。漁業法、漁業調整規則、海区漁業調整委員会指示等の規定に違反した場合の罰則規定は十分に有効と考えられる。資源管理指針において資源管理目標、管理施策が存在し5年ごとに計画の成果を評価し計画を見直すこととなっており、順応的管理の仕組みは部分的に導入されていると考えられる。
 対象となるすべての漁業者は漁業者組織に所属しており、特定できる。自主的管理措置として休漁日の設定、小型魚再放流等に取り組んでいることから資源管理に対する漁業者組織の影響力は強いといえる。漁業者組織は販売等の事業、漁獲物のブランド化など、経営上の活動を実施し水産資源の価値最大化に努めている。漁業者は関係する会議への出席等を通して資源の自主的管理、公的管理に主体的に参画している。資源管理の意思決定を行う各レベルの会合には、それぞれ学識経験者をはじめ幅広い利害関係者が参画する仕組みが作られており、施策の意思決定については、資源管理指針に則り、定期的に目標と管理措置の検討、見直しが協議されている。



地域の持続性

 本系群は、愛知県の小底とかご網で大部分が獲られている。このうち小底については漁業収入はやや低位で推移し、収益率のトレンドは高く、漁業関係資産のトレンドはやや低かった。経営の安定性については、収入の安定性、漁獲量の安定性ともに中程度であった。漁業者組織の財政状況は高かった。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買受人は取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。食品衛生法等により衛生管理が徹底されており、仕向けは中・高級食材である。先進技術導入と普及指導活動は概ね行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準はやや低かった。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、伝統的な加工技術や料理法が受け継がれている。



健康と安全・安心

 マアナゴの脂質には、高度不飽和脂肪酸であるEPAとDHAが多く含まれている。マアナゴのEPA含量は472mg/100g、DHA含量は661mg/100gである。EPAは血栓予防、抗炎症作用、高血圧予防、DHAは脳の発達促進、認知症予防、視力低下予防、動脈硬化の予防改善、抗がん作用等の効果がある。ビタミンはAとEが多く含まれている。ビタミンAは目の神経伝達物質となり、活性酸素を抑えて動脈硬化や心筋梗塞を予防し、皮膚や粘膜の細胞を正常に保つ効果がある。ビタミンEは強い抗酸化作用を有し、活性酸素を抑え体内の不飽和脂肪酸の酸化を防ぐ働きがあり、動脈硬化や心筋梗塞等の生活習慣病の予防効果がある。また、骨や歯の組織形成に関与しているカルシウム、亜抗酸化作用を有するセレンを多く含んでいる。旬は夏アナゴと呼ばれる7~8月である。利用に際しての留意点として、アナゴの血液中には血清毒であるイクシオトキシンが含まれている。この毒は、たんぱく質で60℃、5分の加熱で完全に毒性を失うため、加熱して食べる場合は問題ない。また、血液が目や口、傷口に入ると局所的な炎症が引き起こされるため、下処理の時は目や口、傷口に入らないよう気を付ける。
引用文献▼ 報告書