ニギス(新潟県)
ニギス目ニギス科に属し、学名はGlossanodon semifasciatus。体は細長くて円筒形。
分布
本州沿岸から台湾南部にかけて分布する(波戸岡 2013)。評価対象のニギス日本海系群は、青森県から島根県に至る日本海沿岸に分布する。
波戸岡清峰 (2013) 88. ニギス科. 「日本産魚類検索 全種の同定 第三版」中坊徹次編, 東海大学出版会, 秦野, 343.
生態
日本海で採集されたニギスの年齢・体長関係に海域差はほとんどなく、満1歳で標準体長約12cm、満2歳で約16cm、満3歳で約18cm、満4歳で約20cm、満5歳で約22cmに成長する(兵庫県但馬水産事務所試験研究室 2000, 石川県水産総合センター 2000)。本系群は年間を通じて産卵し、産卵の盛期は春と秋である(三尾 1969, 尾形・伊東 1979, 南ほか 1988, 兵庫県但馬水産事務所試験研究室 2000, 石川県水産総合センター 2000, 原田ほか 2007)。
原田和弘・海野徹也・大谷徹也 (2007) 日本海西部で漁獲されたニギスの体成分の季節変動.日本水産学会誌、73、891-896.
兵庫県但馬水産事務所試験研究室 (2000) 日本海におけるニギスの生態と資源管理に関する研究. 平成9〜11年度水産業関係地域重要新技術開発促進事業総合報告書, 1-48.
石川県水産総合センター (2000) 日本海におけるニギスの生態と資源管理に関する研究. 平成9〜11年度水産業関係地域重要新技術開発促進事業総合報告書, 49-85.
南 卓志・橋田新一・五十嵐誠一・玉木哲也・大谷徹也 (1988) 日本海産ニギス資源の群構造の検討(予報). 日本海ブロック試験研究集録, 12, 53-61.
三尾真一 (1969) 日本海産ニギス(Glossanodon semifasciatus (KISHINOUYE))の年令・成長および成熟. 日水研報, 21, 1-16.
尾形哲男・伊東 弘 (1979) 日本海産ニギス Glossanodon semifasciatus (KISHINOUYE) 成長式の吟味. 日水研報, 30, 165-169
利用
塩焼き、煮付け、干物にして食べる。惣菜加工の原料としても利用される。
漁業
主に底びき網によって漁獲されている。
資源の状態
本系群の生物学的、生態学的情報は十分ではないが利用可能である。漁獲量、漁業実態は長期間利用可能である。水揚物の生物調査は一部について行われている。資源評価方法は漁獲の大部分を占める沖合底びき網漁業1そうびき(かけまわし)の資源密度指数にもとづいてなされている。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議され毎年公表されている。資源の水準・動向は中位、増加であり、現状の漁獲圧が資源の持続的生産に与える影響や資源枯渇リスクは低いと考えられる。本資源を対象とした漁業管理方策は策定されていない。資源が環境変化によって受ける影響は不明である。外国漁船等による漁獲の影響はほとんど考慮する必要がないと考えられる。
生態系・環境への配慮
本系群の生態、資源等については関係県、国立研究開発法人水産研究・教育機構等で調査が行われ成果が蓄積されているが、生態系に関する調査・研究例は少ない。当該海域では海洋環境及び漁業資源に関する調査・観測が水産機構や府県の調査船により定期的に行われている。漁業情報だけでは混獲や漁獲物組成に関する情報は十分得られていない。
混獲利用種は沖底、小型底びき網漁業ともにその他のイカ類、ソウハチ、ヒレグロ、ハタハタとしたが、資源状態が懸念される種はなかった。混獲非利用種は沖底、小底ともにキタクシノハクモヒトデとしたが混獲の影響は低いとされた。希少種へのリスクは全体的に低いと判断された。
食物網を通じた間接影響については、複数の種で懸念が認められると考えられた。
生態系全体への影響に関しては、長期的に漁獲物平均栄養段階の低下が認められたが、沖底や小底が要因とは考えにくかった。漁業による海底環境への影響については、対象となる日本海西部の沖底と小底の強度と規模は低く、漁獲物栄養段階組成に定向的変化は認められないため、海底環境の変化は重篤ではないと判断された。
漁業の管理
インプット・コントロールとして沖底はトン数別の隻数や海域ごとの操業禁止期間が定められている。小底は知事許可漁業であり、操業隻数が制限されているとともに各県では自主的措置として休漁に重点的に取り組むとされている。テクニカル・コントロールとして沖底は操業禁止区域が定められ、小底については各県で自主的措置として体長制限、網目制限等が取り組まれている。
本系群は青森県から島根県に至る日本海沿岸に分布し、日本海・九州西広域漁業調整委員会の所掌となり生息域をカバーする管理体制が確立している。対象海域の沖底については水産庁漁業取締当局、小底については各県当局が監視・取り締まりを行っている。
すべての漁業者は漁業者組織に所属しており、特定できる。本系群に対して沖底、小底で自主的な管理が実施されており、漁業者組織の管理に対する影響力は強い。幅広い利害関係者が資源管理に参画し、漁業者が管理施策の意思決定に参画する仕組みが存在している。
地域の持続性
本系群は、石川県・兵庫県の沖底及び石川県・新潟県・島根県の小底で大部分が獲られている。漁業収入のトレンドは中程度で、収益率のトレンドは高く、漁業関係資産のトレンドはやや低かった。経営の安定性については、収入の安定性、漁獲量の安定性、漁業者組織の財政状況のすべてが高めであった。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買受人は取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。卸売市場整備計画等により衛生管理が徹底されており、仕向けは鮮魚と加工食材である。先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準は中程度である。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、地元での料理提供が盛んになってきた。
健康と安全・安心
ニギスには、骨や歯の組織形成に関与しているカルシウムが多く含まれている。脂質には、血栓予防や高血圧予防等の効果を有する高度不飽和脂肪酸であるEPAと脳の発達促進や認知症予防等の効果を有するDHAが豊富に含まれている。旬は5月と9月である。この時期に大量に発生するオキアミを多く食べているため脂がのっている。
引用文献▼
報告書