イカナゴ(北海道 日本海)
スズキ目、イカナゴ科に属するイカナゴ(学名はAmmodytes japonicus)、オオイカナゴ(学名はAmmodytes heian)及びキタイカナゴ(学名はAmmodytes hexapterus)の3種を含む。3種の形態は似ており、体は細長く円筒形、背面は青緑か黄褐色で腹面は銀白色。歯はなく、また鰾をもたない(三宅 2003)。
三宅博哉 (2003) イカナゴ、「新北のさかなたち」、水島敏博・鳥澤 雅監修、北海道新聞社、pp.220-223
分布
イカナゴは沖縄を除く日本各地、朝鮮半島、遼東半島、山東半島の沿岸に分布する。キタイカナゴはより北方に生息する(三宅 2003)。オオイカナゴは近年新種として記載されたが簡便には判別できず漁獲統計上は区別されていない(濱津ほか 2022)。評価対象の資源は、宗谷海峡周辺に分布する。
濱津友紀・河村眞美・境 磨 (2022) 令和3 (2021) 年度イカナゴ類宗谷海峡の資源評価、水産庁・水産機構
三宅博哉 (2003) イカナゴ、「新北のさかなたち」、水島敏博・鳥澤 雅監修、北海道新聞社、pp.220-223
生態
イカナゴは回遊範囲が小さく群間の交流は少ないため、日本周辺各海域に大小多数の群が存在する。宗谷海峡のイカナゴの産卵期は4〜5月、キタイカナゴは12月〜翌年1月である。群れをなし一度に放卵、放精を行うので、ニシンの産卵のような、群来と呼ばれる精液で海面が白く濁る現象が見られる。満1歳から6歳までの体長は、宗谷海峡のイカナゴの場合、それぞれ14、17、19、21、22、23㎝である。寿命は7年以上。オオイカナゴの成長もほぼ同様である。両種ともに、多くが満3歳で成魚となる(三宅 2003)。キタイカナゴの成長は不明である。
三宅博哉 (2003) イカナゴ、「新北のさかなたち」、水島敏博・鳥澤 雅監修、北海道新聞社、pp.220-223
利用
チリメン、コオナゴはシラス干し、釜あげ、煮干し、つくだ煮等にされる。オオナゴは養殖用の餌にするほか、ごく一部は燻製にして食用になる(三宅 2003)。
三宅博哉 (2003) イカナゴ、「新北のさかなたち」、水島敏博・鳥澤 雅監修、北海道新聞社、pp.220-223
漁業
イカナゴ類の漁獲量は、北海道の宗谷海峡周辺と瀬戸内海で多い(三宅 2003)。棒受網、たもすくい網、定置網、まき網、及び底びき網等によって漁獲される。
三宅博哉 (2003) イカナゴ、「新北のさかなたち」、水島敏博・鳥澤 雅監修、北海道新聞社、pp.220-223
資源の状態
イカナゴ類宗谷海峡の生物学的情報については、3種のうち主にイカナゴの年齢・成長・寿命や成熟・産卵に関する知見はあるものの、3種の分布・回遊など、不明な点が多い。モニタリングの実施体制については、漁獲量や漁獲努力量、漁獲物の月別体長組成が着実にモニターされているほか、DNA分析による種判別も試みられている。資源評価については、沖合底びき網漁業1そうびきの標準化CPUEにより資源状態が判断されており、資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて検討され毎年公表されている。過去25年間(1996〜2020年)の沖底の標準化CPUEの推移から資源水準は低位、最近5年間(2016〜2020年)の沖底の標準化CPUEの推移から資源動向は減少と判断した。日本水域とロシア水域にまたがって分布しており、ロシア水域での漁業情報が不足しているため、現状の漁獲圧が対象資源の持続的生産に及ぼす影響は不明であり、現状漁獲圧での資源枯渇リスクは判定していない。現在は関係者の検討により、資源回復計画で実施した漁獲努力量削減の取り組みを継続しているが、環境変化の影響については調べられていない。また、遊漁、外国漁船、IUUの漁獲の影響は考慮されていない。
生態系・環境への配慮
本海域のイカナゴ類は3種が混ざっているが漁獲統計は区別されておらず生物特性、生態等が詳らかでない種も存在する。北海道の調査により定期的に海洋観測が行われている。漁業情報だけでは混獲や漁獲物組成に関する情報は十分得られていない。
イカナゴ類を狙う沖底では混獲利用種、非利用種はともにほぼなしと考えられる。対象海域に分布する希少種へのリスクは全体的に低いと判断された。
食物網を通じた間接影響については、複数の種で懸念が認められると考えられた。生態系全体への影響に関しては、長期的に総漁獲量及び漁獲物平均栄養段階の低下が認められ、沖底の影響を排除できなかった。漁業による海底環境の影響については、宗谷海峡周辺の沖底1そうびき(オッタートロール)の強度と規模は低く、漁獲物栄養段階組成に顕著な定向的変化は認められなかったため、海底環境の変化は重篤ではないと判断された。
漁業の管理
沖底は大臣許可漁業でありトン数別の隻数、操業禁止海域、期間等が設定され、さらに本資源については漁獲努力可能量(TAE)制度により7・8月の漁獲努力量が制限されてきた。自主的な措置として資源回復計画で取り組んできた操業期間の短縮等の措置を採ることとされ、減船も実施された。以上のとおりインプット・コントロールが成立している。沖底について、コッドエンドの網目制限が設けられておりテクニカル・コントロールが導入されている。関係漁業者団体による環境修復活動が行われている。
本資源はロシア水域にまたがって分布しており、生息域全体をカバーした管理体制は存在しない。沖底の取り締まりについては主に水産庁が実施し、関係法令に違反した場合、有効と考えられる制裁が設定されている。改正漁業法では資源管理について現行の取り組みの検証を行い必要に応じて取組内容の改善を図るとされるなど、資源管理を順応的に行う仕組みが作られている。
すべての漁業者は漁業者組織に所属しており、特定できる。本資源に対して自主的な管理が実施されており漁業者組織の管理に対する影響力は強い。漁業関係者は本資源の自主的管理、公的管理に主体的に参画し、幅広い利害関係者も資源管理に参画している。漁業者が管理施策の意思決定に参画する仕組みが存在している。
地域の持続性
本資源は、北海道(稚内市)の沖底で大部分が獲られている。漁業収入のトレンドは中程度を示し、収益率のトレンドは低く、漁業関係資産のトレンドはやや低かった。経営の安定性については、収入の安定性、漁獲量の安定性ともにやや低かった。漁業者組織の財政状況は高かった。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買受人は取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。卸売市場整備計画等により衛生管理が徹底されており、 仕向けは餌料と加工用食材である。先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準は高い。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、地元での料理提供が盛んである。
健康と安全・安心
イカナゴには、骨の主成分であるカルシウム、血液の構成成分である鉄、各種酵素の成分となる亜鉛が多く含まれる。脂質には、血栓予防等の効果を有するEPAと脳の発達促進や認知症予防等の効果を有するDHAが豊富に含まれている。旬は6〜9月上旬である。イカナゴは鮮度低下が早く、それにともない白く濁り、赤みがかって腹から傷んでくる。また、鮮度低下にともないアレルギー様食中毒の原因成分であるヒスタミンが生成される場合がある。このため、漁獲した日に調理、加工することが必要である。漁獲日に釜ゆでして流通する場合が多い。大型のイカナゴは、刺身として食べる場合がある。イカナゴにはアニサキス幼虫が寄生していることがある。アニサキスは、魚の死後の時間経過にともない内臓から筋肉へ移動するため、アニサキス感染防止には、生食では新鮮な魚を用いること、内臓の生食はしない、冷凍・解凍したものを刺身にする等が有効である。
引用文献▼
報告書