イカナゴ(三重県)
ミシマオコゼ目、イカナゴ科に属し、学名はAmmodytes japonicus。細長い体型。背面は黄土色で、腹面は銀色。下顎が突出して、胸鰭を欠く。
分布
沖縄県を除く日本各地、朝鮮半島、遼東半島、山東半島の沿岸に分布する。現在の我が国の主たる分布海域は瀬戸内海、常磐海域である。東北海域と日本海北部海域では本種と近縁のオオイカナゴの2種が混在し、北海道日本海・オホーツク海ではこれらに加えてキタイカナゴの3種が混在する。浮遊仔稚魚期が数ヵ月に及ぶものの、夜間に海底の基質中に潜ることや夏眠といった行動習性をもつため、回遊範囲は比較的狭いと考えられている。伊勢・三河湾、渥美外海で漁獲されるイカナゴは、これらの海域で再生産を行うひとつの独立した資源である。
生態
内湾で成長しながら過ごした稚幼魚は湾奥から湾口へ移動し、成長とともに分布水深は深くなる。イカナゴは夏季に水温が高くなると潜砂し、ほとんど活動しない夏眠と呼ばれる状態となる。伊勢湾では通常、水温が18℃以上になる6月ごろからイカナゴの夏眠が始まり、12月~翌年1月の産卵期まで続く。夏眠場所は、水深20m前後で底質の粒径が1~2mmの粗砂の海域に形成される。貧酸素水塊の発生や粒径の小さい砂泥の被覆等のため、現在では湾内には夏眠に適した場所はほとんどなく、伊勢湾口域から渥美外海に限られている。本種は夏眠中ほとんど摂餌しないが、夏眠後半の11月ごろから急速に性成熟が進行する。餌は主に動物プランクトンである。かいあし類が主であるが、よこえび類、やむし類、あみ類も食物となっている。伊勢湾では珪藻類等の植物プランクトンも摂食されていることが報告されている。
利用
釜揚げ、チリメン、クギ煮等に利用されていた。また、産卵を終えたボウコウナゴは養殖用餌料としても利用されていた。
漁業
伊勢・三河湾のイカナゴは、主として知事許可漁業である船びき網漁業によって漁獲されている。伊勢湾は愛知・三重両県の船びき網漁船が利用権を有する入会漁場となっている。三重県のたもすくい網漁業は親イカナゴを漁獲する伝統的漁業として知られているが、2014年と2015年は親イカナゴの漁獲を行っていない。主な漁獲対象は稚魚(シラス:2~3月)と幼魚(4~5月)で、船びき網によって漁獲されている。また、全漁獲量のうち90%以上が、2~3月の漁期開始後の約2週間で水揚げされている。産卵を終えた親魚(ボウコウナゴ)は、たもすくいや船びき網によっても漁獲されていた。
資源の状態
伊勢・三河湾、渥美外海で漁獲されるイカナゴは、これらの海域で再生産を行うひとつの独立した資源である。資源評価対象であるイカナゴ伊勢・三河湾系群の1979年以降の漁獲量は、1982年にわずか699トンにまで落ち込み、その後増加したが、1,507トン(2000年)~28,777トン(1992年)の間で大きな変動を繰り返している。2016~2020年は禁漁のため漁獲は行われていないが禁漁しても資源の回復は認められず、2018年以降は直接的に生存が確認されていない。20億尾以上の取り残し親魚量一定方策による生物学的許容漁獲量(ABC)が算定されているが、漁業の現場では漁期中に更新される情報をもとにDeLury法による評価を行い終漁日を設定するなど、漁業管理方策に基づいた管理が実践されていた。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議された後に確定されている。資源評価結果は毎年公表されている。
生態系・環境への配慮
イカナゴを漁獲する漁業の生態系への影響の把握に必要となる情報、モニタリングの有無については、伊勢・三河湾では生産力等に関する調査・研究が進められ、イカナゴについても環境との関係、種間関係等に関する蓄積がある。海洋環境及び漁業資源に関する調査が関係県の調査船によって定期的に実施されている。漁業からの情報については、漁業種類別魚種別漁獲量等は調査され公表されているが、混獲や漁獲物組成に関する情報は十分得られていない。
同時漁獲種への影響について、船びき網の混獲利用種としたカタクチイワシ、マイワシのうちカタクチイワシは資源が懸念される状態であった。混獲非利用種は仔魚が混獲されるマアナゴとしたが、当該海域での資源は懸念される状態であった。対象海域に分布する希少種のうち、対象漁業による悪影響が認められた種はいなかった。
食物網を通じたイカナゴ漁獲の間接影響について、主要な捕食者すべてで資源状態に懸念はみられなかった。餌生物については、かいあし類を含む動物プランクトンに対するイカナゴの捕食圧の影響は明瞭ではなく、影響は小さいと考えられた。競争者については、マイワシで親魚量がMSY水準を超え、最近5年間で増加傾向、カタクチイワシは資源状態が低位・減少と判断されているものの、双方の資源変動とも大規模な環境変動と同期的と考えられていることから、イカナゴの漁獲によってもたらされる悪影響は小さいと考えられた。漁業による生態系全体への影響については、評価対象海域で漁獲される魚介類の総漁獲量及びそれらの漁獲物平均栄養段階は低下傾向にあったが、評価対象漁法である船びき網による影響は認められなかった。船びき網は着底漁業ではないため、海底への影響はない。
漁業の管理
愛知県・三重県の船びき網は知事許可漁業であり、漁業調整規則により操業期間の制限、操業禁止区域の設定等が行われている。さらに資源管理指針において公的規制を上回る操業期間の制限に取り組むとされている。2016年以降は資源量の減少にともない自主的に禁漁を行っている。これらのことから当該漁業にはインプット・コントロールが導入されている。テクニカル・コントロールとして網の目合い規制があり、両県漁業者の協議でイカナゴの成長に合わせて自主的に解禁日を決定する措置が執られている。さらに親魚保護を目的として残存資源尾数が20億尾を下回ると認められる日から禁漁にするとされている。資源回復計画、資源管理指針に基づく資源管理計画では保護区域の設定及び保護休漁の措置に取り組むとされている。
本系群の生息域をカバーする管理体制が確立し機能している。県当局がそれぞれ複数の取り締まり船により日常的に漁船漁業の監視・取り締まりを行っており、操業期間の違反等については水揚げ港等での漁協職員等による監視も可能である。各県漁業調整規則等に違反した場合、漁業法、各県漁業調整規則の規定により十分な罰則・制裁が課される。当該漁業について、県の資源管理指針において管理目標、管理施策が存在し、5年ごとに計画の成果を評価し計画を見直すこととなっており、順応的管理の仕組みは部分的に導入されていると考えられる。
対象となるすべての漁業者は漁業者組織に所属しており、特定できる。両県の関係漁業者組織は2016年以降自主的に禁漁を実施するなど、資源管理に対する影響力は強い。漁業者、漁業者組織代表は漁業管理に関係する会議への出席等を通して資源の自主的管理、公的管理に主体的に参画している。資源管理の意思決定を行う各レベルの会合には、それぞれ学識経験者をはじめ幅広い利害関係者が参画する仕組みが作られており、施策の意思決定については、資源管理指針に則り、定期的に目標と管理措置の検討、見直しが協議されている。
地域の持続性
本系群は、愛知県・三重県の船びき網で大部分が獲られている。漁業収入はやや低位で推移し、収益率のトレンドは高く、漁業関係資産のトレンドはやや低かった。経営の安定性については、収入の安定性、漁獲量の安定性ともにやや低かった。漁業者団体の財政状況は高かった。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。買受人は取扱数量の多寡に応じた人数となっており、セリ取引、入札取引による競争原理は概ね働いている。取引の公平性は確保されている。卸売市場整備計画等により衛生管理が徹底されており、 仕向けは高級加工品と餌料であるが、前者が多い。先進技術導入と普及指導活動は概ね行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準は中程度である。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、伝統的な加工技術や料理法がある。
健康と安全・安心
イカナゴには、骨の主成分であるカルシウム、血液の構成成分である鉄、各種酵素の成分となる亜鉛が多く含まれる。脂質には、血栓予防等の効果を有するEPAと脳の発達促進や認知症予防等の効果を有するDHAが豊富に含まれている。旬は春である。イカナゴは鮮度低下が早く、鮮度低下にともない、白く濁り、赤みがかかって腹から傷んでくる。また、鮮度低下にともないアレルギー様食中毒の原因成分であるヒスタミンが生成される場合がある。このため、漁獲した日に調理、加工することが必要である。漁獲日に釜ゆでして流通する場合が多い。大型のイカナゴは、刺身として食べる場合がある。イカナゴにはアニサキス幼虫が寄生していることがある。アニサキスは、死後の時間経過にともない内臓から筋肉へ移動するため、アニサキス感染防止には、生食では新鮮な魚を用いること、内臓の生食はしない、冷凍・解凍したものを刺身にする等が有効である。
引用文献▼
報告書