サスティナブルでヘルシーなうまい日本の魚プロジェクト

Sustainable, Healthy and “Umai” Nippon seafood project

サスティナブルでヘルシーな
うまい日本の魚プロジェクト

イカナゴ(香川県)

 スズキ目、ワニギス亜目、イカナゴ科に属し、学名は Ammodytes japonicus。体は細長く側扁する。腹鰭がなく体の背面は青く、下半部は白い。

分布

 イカナゴは、イカナゴ属の中でも最も低緯度海域に生息し、日本沿岸、黄海、東シナ海などの比較的温暖な海域に分布する。

生態

 寿命は3~4歳、1歳で成熟・産卵する。産卵期は12月~翌年1月である。大規模な産卵場は播磨灘北東部と備讃瀬戸である。春から夏にかけて水温が上昇し、18℃を超えると全長が8 cmを超えるようになると潜砂し、ほとんど活動しない夏眠と呼ばれる状態になる。また、夏眠場所は冬季には産卵場となる。仔稚魚は小型のカイアシ類やその幼生を主な餌とする。体長15 mm以上の稚魚は毛顎類、枝角類も捕食する。幼魚や成魚はカイアシ類のほか、珪藻、カニ・エビ幼生、端脚類、尾虫類、イカナゴ仔稚魚を捕食する。一方、イカナゴは高次捕食者の重要な餌生物であり、仔稚魚は多様な浮魚類や毛顎類に、幼魚や成魚はサワラ、マダイ、ヒラメ、スズキ、ウミウ、アビ、スナメリ等多くの生物に捕食されている。
ワシントン条約付属書掲載基準を水産種へ適用する際にFAOが勘案する生産力の基準に従えば、資源の内的自然増加率を除く5つのパラメータのうち、個体の成長率以外の4つでイカナゴの生産力は高いと判断される。

利用

 兵庫県ではシンコ(稚・幼魚)を佃煮の一種「くぎ煮」の材料として使用している。フルセ(成魚)は、古くは肥料に供され「かますご」と称されたが、昭和40年代からは主に海産養殖魚の餌として、冷凍したものが生餌として用いられているが、近年は食用の利用が増加している。岡山、香川県にはフルセを塩に漬け込んで作る「いかなご醤油」があり、「しょっつる」、「いしる」とともに日本三大魚醤とよばれている。

漁業

[対象種を漁獲する漁業]
 和歌山県、徳島県、大阪府、兵庫県、岡山県では主に機船船びき網、香川県では主に込網(こましあみ、こませあみ)で漁獲される。

[評価対象漁業の絞り込み]
 本評価軸ではイカナゴ瀬戸内海東部系群を漁獲するすべての漁法の漁獲量情報を使用した資源評価結果を参照することから、全漁法とする。

[評価対象漁業の操業形態]
 機船船びき網漁業は網船と呼ばれる2隻の漁船と、魚群を探し網船を 誘導したり漁獲物を積込み運搬する船(運搬船)の3隻で行われる。


あなたの総合評価

資源の状態

 イカナゴは我が国周辺における重要水産資源であり、瀬戸内海系群では2016年以降、コホート解析により年齢別資源量が算出され、それに基づいて生物学的許容漁獲量(ABC)が算出されている。コホート解析に必要な漁獲量、年齢組成、更に次年度の資源量予測に必要となる近年の再生産成功率、加入量などのデータは国の委託により水産機構、関係都道府県により毎年調査され更新されている。イカナゴの漁獲量は1980年代以降年変動が激しくなるとともに、減少傾向にある。その原因のひとつに海砂などの採取や浚渫による生息場所の荒廃・減少が考えられている。海砂採取は1997年頃から徐々に減少し、2005年度には終了したものの、海砂は掘ればなくなる性質が強いため、生息場所の回復には至っていないものと考えられる。現在の資源水準は中位水準で動向は横ばいである。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議されるとともにパブリックコメントにも対応した後に確定されている。資源評価結果は毎年公表されている。



生態系・環境への配慮

 瀬戸内海東部の生態系に関する基礎情報は比較的蓄積されており、海洋環境及び漁業資源に関する調査も毎年実施されている。イカナゴ漁獲量の大半を占める兵庫県によって漁獲状況はモニターされているが、混獲や漁獲物組成に関する科学的調査は十分ではない。イカナゴ船びき網漁業の同時混獲種に悪影響の懸念は少ないと考えられ、希少種のPSAスコアも低い。
 生態系への間接影響として、一部の捕食者は定向的変化を示したが、餌生物や競争者には影響は認められなかった。船びき網の対象海域は面積が限られているため、漁業の空間重複度は大きいものの、操業期間が限られ、表層漁具で曳網速度も小さいことから、イカナゴ漁業が生態系に重篤な影響を及ぼしている兆候は認められない。
 



漁業の管理

 イカナゴ瀬戸内海東部系群については、シンコは主に船びき網や込網、フルセ漁の一部は小型底びき網(パッチ網)漁業で漁獲されている。また、兵庫県での漁獲が大部分を占めている。兵庫県資源管理指針では魚種別資源管理としてイカナゴはイワシ類(シラス)とともに扱われている。瀬戸内海機船船びき網漁業と機船船びき網漁業はそれぞれ法定知事許可漁業、一般知事許可漁業であり、許可隻数やトン数等が規制されている。また、公的なテクニカル・コントロールはないが、船びき網漁業の解禁日や終漁日は兵庫県水産技術センターと大阪府立環境農林水産総合研究所が漁業者に協力して、試験操業結果やCPUEの推移から自主的に年々決定されている。アウトプット・コントロールは行われていない。自主的管理が組織的に行われており、その方策は高く評価されているものの、資源管理策以外の要因による変動が大きいため、その漁獲金額、収入としての成果が近年現れにくくなっている。



地域の持続性

 漁獲金額や漁業関係資本を検討すると、総じて近年漁業経営の基礎となる数値は年計としては高くないが、季節特異性として重要である。加工流通業の状況からはその持続性は高いと評価される。地域のインフラ、地方財政等、あるいは地域文化の継承からみて、本地域は水産業関係者にとって十分に魅力的な地域であろう。



健康と安全・安心

 イカナゴには、骨の主成分であるカルシウム、血液の構成成分である鉄、各種酵素の成分となる亜鉛が多く含まれる。脂質には、血栓予防などの効果を有するEPAと脳の発達促進や認知症予防などの効果を有するDHAが豊富に含まれている。旬は春である。
 イカナゴは鮮度低下が早く、鮮度低下に伴い、白く濁り、赤みがかかって腹から痛んでくる。また、鮮度低下に伴いアレルギー様食中毒の原因成分であるヒスタミンが生成される場合がある。このため、漁獲した日に調理、加工することが必要である。漁獲日に釜ゆでして流通する場合が多い。
 
引用文献▼ 報告書