ブリ(兵庫県 日本海)
スズキ目、スズキ亜目、アジ科に属し、学名は Seriola quinqueradiata。体は紡錘形で横断面は楕円形。吻端から尾柄部にかけて幅広い黄色縦帯がある。
分布
カムチャッカ半島南部から台湾沿海にかけて回遊するが、日本列島、朝鮮半島沿岸が主な生息場所である。
生態
寿命は7歳前後である、成熟は2歳で50%、3歳で100%とされる。産卵期は1月から始まり、太平洋側では5月頃まで、日本海側では7月頃まで。産卵場は東シナ海の陸棚縁辺部を中心として九州沿岸から日本海側では能登半島周辺以西、太平洋側では伊豆諸島以西。幼魚から成魚は、九州沿岸から北日本沿岸まで広く分布するし、成魚は産卵のため、冬から春に南下回遊する。食性は、稚魚は、初期にはカイアシ類を中心とする動物プランクトンを摂食し、その後カタクチイワシなどの魚類を摂食し始め、13 cm以上で完全な魚食性となる。幼魚、成魚では、マアジやカタクチイワシなどの浮魚類の他、底魚類も摂食する。
ワシントン条約付属書掲載基準を水産種へ適用する際にFAOが勘案する生産力の基準に従えば、資源の内的自然増加率を除く5つのパラメータのうち、自然死亡率と個体の成長率以外の3項目でブリの生産力は高いと判断される。
利用
食用としては生後半年の体長30 cm程度の幼魚から体長100 cmを超える成魚まで広く利用され、刺身、照焼き、煮つけなど多様な食べ方がある。
漁業
[対象種を漁獲する漁業]
ブリは主に定置網とまき網で漁獲されている。漁業種類別漁獲統計が整備された1952年以降の定置網の比率は、1952年には77%であったが、その後低下し続けて1962年には50%を割り、1970年代以降30~40%台で推移し、2015年は41%となった。一方、まき網の比率は年変動しながら一貫して増加傾向を示している。1960年代に10%を初めて超え、1970~1980年代には20%前後となり、1990年代では30%台、2000年代では40%を超えている。2002年以降2005年を除いて全漁法中で最大であり、2015年は49%であった。刺網と釣り・延縄の比率は1960~1970年代には合わせて40%前後であったが、近年では20%以下となっている。2015年では、釣り・延縄5%、刺網4%であり、いずれも前年と同程度であった。このように、ブリの漁獲形態はかつての定置網中心から近年のまき網中心へと大きく変化している。これらとは別に、東シナ海および高知県以西の太平洋を中心として、モジャコと呼ばれる稚魚が養殖種苗として年間100トン前後採捕されている。海域別では、東シナ海区、日本海西区および太平洋北区はまき網主体の海域で、2015年におけるまき網の比率はそれぞれ77%、59%、60%であった。一方、北海道区、日本海北区、太平洋中区および太平洋南区では定置網が主体で、2015年における定置網の比率はそれぞれ97%、72%、73%、75%であった。
[評価対象漁業の絞り込み]
資源の状態の評価においてはブリを漁獲するすべての漁法の漁獲量情報を使用した資源評価結果を参照するが、操業や管理の状況に関しては主要漁業であるまき網と定置網を対象とする。
[評価対象漁業の操業形態]
漁業の主体は定置網とまき網で、定置網では全国の大型定置網、小型定置網で、まき網は大中型まき網、中・小型まき網で漁獲される。海域別では、東シナ海区、日本海西区および太平洋北区はまき網主体の海域で、2015年におけるまき網の比率はそれぞれ77%、59%、60%であった。一方、北海道区、日本海北区、太平洋中区および太平洋南区では定置網が主体で、2015年における定置網の比率はそれぞれ97%、72%、73%、75%であった。
資源の状態
ブリは我が国周辺における重要水産資源であり毎年コホート解析により年齢別資源量が算出されている。コホート解析に必要な漁獲量、年齢組成、更に次年度の資源量予測に必要となる年齢別成熟割合、近年の再生産成功率、加入量などのデータは国の委託により水産機構、関係都道府県により毎年調査され更新されている。ブリは海洋の温暖・寒冷レジームの変化に伴い資源水準や漁況の変化がみられる。資源量推定が行われている1994年以降は温暖レジームで増加傾向にある。2015年現在、資源の水準は高位で、資源の動向は増加傾向にある。現在、資源量推定がなされている期間が高水準の時期のみであり、Blimitは設定されていない。将来予測では、現状の漁獲圧であっても資源の増加傾向が続くことが示唆されている。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議されるとともにパブリックコメントにも対応した後に確定されている。資源評価結果は毎年公表されている。
生態系・環境への配慮
日本海西区は、重要魚種に関する研究報告は豊富にあり、科学調査も毎年複数実施されている。しかし、まき網、定置網ともに混獲非利用種・希少種などについての情報は不足しており、モニタリング体制も整っていない。
混獲利用種については、まき網ではマサバ(対馬暖流系群)、カタクチイワシ(対馬暖流系群)、クロマグロ(太平洋)、定置網についてはマサバ(対馬暖流系群)、カタクチイワシ(対馬暖流系群)の資源状態が良くなかった。混獲非利用種については資料が乏しく、定置網について部分的な報告が存在するに過ぎない。混獲に関するモニタリング、報告体制については改善が必要である。また生態系全体については、重篤な悪影響の兆候は認められなかった。
漁業の管理
ブリ日本海西部については、大中型まき網漁業、中・小型まき網漁業、定置網漁業が主に漁獲を行っている。このうち、日本海に接する島根、鳥取、兵庫、京都、福井、石川県の6府県を対象として日本海西部と定める。
大中型まき網漁業において、上記6府県を根拠地におく大中型まき網漁業を対象とすると、石川県、鳥取県、島根県の大中型まき網漁業の漁獲量が多い。また、県知事許可である中・小型まき網漁業は上記6府県に限れば石川県、島根県の漁獲が多い。漁業権漁業ないしは知事許可である定置網漁業の漁獲量は石川県、福井県、京都府、島根県が多い。
ブリの公的管理は、主に大臣許可や知事許可(または漁業権)の許可条件・制限を通じて漁具・漁法、漁船サイズ、操業海域、操業時期などのインプット・コントロール、テクニカル・コントロールが行われている。一方で、ブリはTAC対象種でないため、アウトプット・コントロールについては行われていない。自主的な管理については、大中型まき網漁業をはじめ同一の漁業種類の組織化が行われており、組織的な管理を行うための環境は整えられている。一方で、資源水準が良好なこともあり、各府県資源管理指針の下で中型まき網漁業、定置網漁業の休漁等が行われているものの、具体的なアプローチは限られている。
地域の持続性
日本海西部でブリを漁獲する漁業(大中型まき網、中・小型まき網、定置網漁業)の漁業生産は、安定した水準で推移している。そのため、経営の安定性も比較的高いと考えられる。産地市場についてもセリ、入札において競争原理が働いており、衛生状態も各自治体が定める衛生基準やHACCP認定制度が設けられ、付加価値の創出がなされ、主に高付加価値(鮮魚)に仕向けられている。大きな労働災害は発生しておらず、公平性も高いと評価される。水産業関係者の所得水準は平均的であると考えられるが、地域経済や公共サービスの充実度を示す財政力指数は、京都府を除いて全国平均を下回る。文化面について、古くから京都府の伊根は日本三大ブリ漁場の一つとされ、江戸時代から建て刺し網漁業が行われており、定置網に変遷し、現在に至るという経緯があり、文化的に漁業が受け継がれ、文化的側面もブリ大根を始めブリは伝統的に郷土料理として受け継がれている。
健康と安全・安心
ブリには、細胞内の物質代謝に関与するビタミンB1とB2、体内の酸化還元酵素の補酵素として働くナイアシン、抗酸化作用を有するセレンなど様々な栄養機能成分が含まれている。脂質には、血栓予防などの効果を有するEPAと脳の発達促進や認知症予防などの効果を有するDHA、脳卒中の予防に関与すると言われているパルミトレイン酸が豊富に含まれている。血合肉には、ビタミンAとD、鉄、タウリンが多く含まれている。ビタミンAは、視覚障害の予防、タウリンはアミノ酸の一種で、動脈硬化予防、心疾患予防などの効果を有する。また、魚介類のなかでもタンパク質含量の多い魚である。旬は,冬である。冬のブリは、「寒ブリ」と称され、脂質含量が最も高くなり、身の締まりもよい。
利用に際しての留意点は、ヒスタミン中毒と生食によるアニサキス感染防止である。ヒスタミン中毒は、筋肉中に多く含まれるヒスチジンが、細菌により分解、生成したヒスタミンによるものであるため鮮度保持が重要である。アニサキスは、死後の時間経過に伴い内臓から筋肉へ移動するため、生食には、新鮮な魚を用いること、内臓の生食はしない、冷凍・解凍したものを刺身にするなどで防止する。
引用文献▼
報告書