ハタハタ(山形県)
スズキ目、カジカ亜目、ハタハタ科に属し、学名はArctoscopus japonicus。体は細長くて側偏する。体色として、背面は茶褐色、腹面は白色。口は大きく下顎が前に出る。背鰭は2基でよく離れ、胸鰭は非常に大きい。
分布
山口県以北の日本海、オホーツク海、千島列島からカムチャッカ半島に至る北太平洋に生息する。評価対象のハタハタ日本海北部系群は、能登半島から津軽海峡にかけて分布する。
生態
秋田県沿岸で漁獲されたハタハタの耳石年齢査定結果から判断すると、体長は1歳12㎝前後、2歳15㎝前後、3歳18㎝前後、4歳21㎝前後に成長する(池端 1988)。成長には雌雄差があり、雌は雄に比べ成長が速い(池端 1988)。寿命は5歳程度と推定される(Makino 2011)。雄は1歳、雌は2歳から成熟する。産卵は12月に秋田県沿岸の藻場を中心に行われる(杉山 1992)。
池端正好 (1988) ハタハタの耳石に関する基礎的研究. 第2回ハタハタ研究協議会報告書, ハタハタ研究協議会, 40-50.
Makino, M. (2011) Fisheries management in coastal areas. In: Fisheries management in Japan. Springer Science & Business Media, New York, pp. 63-82.
杉山秀樹 (1992) ハタハタ生活史研究の現状と今後の課題. 第5回ハタハタ研究協議会報告書 (平成2年度), 日本海区水産研究所, 40-43.
利用
塩焼き、煮付け、干物、飯寿司で食される。ハタハタを原料とした魚醤「しょっつる」も人気。
漁業
沖合底びき網漁業1そうびき及び小型底びき網漁業かけまわしによって周年(禁漁期7~8月を除く)、定置網及び刺網によって冬期(産卵接岸期)に漁獲が行われる。
資源の状態
本系群の生物学的、生態学的情報は十分ではないが利用可能である。漁獲量、漁業実態は長期間利用可能である。水揚げ物の生物調査は主要港について行われている。資源評価方法は沖底標準化CPUEに基づいてなされている。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議され毎年公表されている。資源の水準・動向は中位、横ばいであるため、現状の漁獲圧が資源の持続的生産に与える影響や資源枯渇リスクは低いと考えられる。資源管理に関して公的・自主的な取り組みが行われている。資源は環境変化に影響を受けていると考えられるが、資源評価には考慮されていない。遊漁による漁獲の影響は考慮されていない。
生態系・環境への配慮
本系群の生態、資源、漁業等については関係県、国立研究開発法人水産研究・教育機構等で調査が行われ成果が蓄積されているが、日本海北部海域の生態系に関する調査・研究例は少ない。当該海域では各県調査船による沖合定線調査、沿岸定線調査により水温、塩分等の調査が定期的に実施されている。混獲非利用種や希少種について、漁業から情報収集できる体制は整っていない。
混獲利用種は、小型定置網については、量的にわずかであるためなしとした。小底の混獲利用種であるマダラ、マダイ、ホッケ、ホッコクアカエビ、カレイ類のうち、ホッケ道南系群は資源が懸念される状態にあり、カレイ類についても近年減少傾向であった。混獲非利用種は、小型定置網はなし、小底はクモヒトデ類としたが総漁獲量に対するクモヒトデ類の漁獲量は少なく無視し得た。希少種で生息環境が日本海北区と重複する種についてPSA評価を行った結果、全体としてリスクは低い値を示した。
生態系全体への影響に関しては、漁獲物平均栄養段階に定向的な傾向は認められなかった。食物網を通じたハタハタ漁獲の間接影響は、餌生物で懸念は認められなかったが、ハタハタの捕食者、競争者で資源量の減少傾向の懸念が認められた。漁業による海底環境への影響については、小底と小型定置網の双方において、漁場の一部で海底環境の変化が懸念された。
漁業の管理
小型定置網は知事により許可され、免許された共同漁業権が行使されるため参入規制が働いており、さらに自主的に禁漁期間の設定(青森県)、漁獲量制限、休漁日設定(秋田県地区ごと)が取り組まれてきており、秋田県では漁獲努力量管理に移行した。小底は知事許可漁業であり隻数制限、禁漁期間、操業禁止区域が定められており、さらに自主的に休漁、目合規制等に取り組んでいる。秋田県、青森県、山形県、新潟県の漁業者が北部日本海ハタハタ資源管理協定を締結し、採捕体長制限等を実施するなど、小型魚保護を行っている。
本系群の資源管理については分布域をカバーする形で日本海・九州西広域漁業調整委員会・日本海北部会で扱われている。小底、小型定置網については各県当局が漁業の監視・取り締まりを行い、関係法令に違反した場合、有効と考えられる制裁が設定されている。第2種共同漁業についても共同漁業権行使規則に罰則が定められている。新漁業法下の各県資源管理基本方針で、漁業者自身が定期的に計画の実施状況を検証し改良することとなっており、県としても5年ごとに方針の検討、見直しをすることになっており順応的管理の仕組みが導入されていると考えられる。
すべての漁業者は漁業者組織に所属しており、特定できる。本系群に対して小型定置網、小底で自主的な管理が実施されており漁業者組織の管理に対する影響力は強い。漁業関係者は本系群の自主的管理、公的管理に主体的に参画しており、漁業者以外にも適用される沿岸域での採捕を制限、禁止する海区漁業調整委員会指示がある。幅広い利害関係者も資源管理に参画している。漁業者が管理施策の意思決定に参画する仕組みが存在している。
地域の持続性
本系群は、青森県・秋田県の小型定置網及び山形県、新潟県の小底で大部分が獲られている。漁業収入のトレンドは低下を示し、収益率のトレンドは高く、漁業関係資産のトレンドはやや低かった。経営の安定性については、収入の安定性、漁獲量の安定性ともに中程度であった。漁業者組織の財政状況は中程度であった。操業の安全性は高かった。地域雇用への貢献は高い。労働条件の公平性については、漁業及び加工業で特段の問題はなかった。小規模市場では漁獲物の特性によって買受人がセリ・入札に参加しない可能性があり、セリ取引、入札取引による競争原理が働かない場合も生じる。卸売市場整備計画等により衛生管理が徹底されており、仕向けは中高級食材である。先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムは整っていた。水産業関係者の所得水準はやや低い。地域ごとに特色ある漁具漁法が残されており、地元での伝統的な料理提供が盛んである。
健康と安全・安心
ハタハタには、骨や歯の組織形成に関与しているカルシウム、亜抗酸化作用を有するセレンが多く含まれている。脂質には、血栓予防や高血圧予防等の効果を有する高度不飽和脂肪酸であるEPAと、脳の発達促進や認知症予防等の効果を有するDHAが豊富に含まれている。東北や北海道ではハタハタの旬は12月~翌年1月である。この時期は産卵期にあたり、「ブリコ」と呼ばれる卵をもっている雌が珍重される。
引用文献▼
報告書