アオギス(大分県 瀬戸内海)
アオギス(Sillago parvisquamis)は、かつて日本各地の淡水の影響のある砂泥域に多く生息したスズキ目・キス科の海産魚である。体型は細長く、生時の体色は、頭部と体背部が薄灰褐色-薄白褐色。腹側は白色を呈する。眼は小さく腹鰭と尻鰭起部が黄色で、第2背鰭の小黒点列が明確なことなどの特徴をもつ。シロギスと比べると体型は細長い。
分布
アオギスは沿岸の浅い場所、河口、干潟、砂浜域を主な生息域とし、沖合域には生息せず沿岸よりの水深10m以浅に生息していると考えられる。
生態
河口域において産卵期にあたる6~8月に仔稚魚が採集され、生殖腺の発達した親魚が5~8月にかけて出現すること、さらに9月上旬から当歳魚が出現することから、豊前海沿岸の河口域周辺部が本種の成育場と示唆されている。成長は速く、6月頃に生まれたアオギスは9月には全長14cmに達するものが出現する。成長は雌雄差が認められる。雌は1歳で平均全長18.4cm、2歳で25.5cm、4歳で31.1cmになる。雄の成長は雌よりも遅く、1歳で全長16.6cm、2歳で22.0cm、4歳で26.7cmになる.最高齢は雌の4歳、雄の5歳であり、寿命は4~5年程度と考えられる。成熟開始年齢は2年、最大体長は40cm、成熟体長は20cm、球形分離浮生卵を産む。
現在では水産庁のレッドデータブックや環境省のレッドリストに掲載される。近年、標本の採集記録があるのは、瀬戸内海の西部海域で特に豊前海は比較的大きな群れとして存続していた。1999年には大分県北部の市場に出荷されたこともあり、2011~2012年においても大分県北部や山口県南部の市場での出荷記録があり、絶滅危惧種と呼ばれながらも漁業資源として利用されている。餌は、多毛類、アナジャコ、シャコ類、アサリ等の二枚貝水管、小型エビ類・アミ類等の小型甲殻類であり、干潟のマクロベントスに大きく依存している。
漁業
アオギスはかつて東京湾など日本各地の淡水の影響のある砂泥干潟に多く生息していた。高度経済成長にともなう干潟の喪失や水質の悪化などの結果、次第に姿を消してゆき、現在では水産庁のレッドデータブックや環境省のレッドリストに掲載される。近年、標本の採集記録があるのは、瀬戸内海の西部海域で特に豊前海は比較的大きな群れとして存続していた。1999年には大分県北部の市場に出荷されることもあり、2011~2012年においても大分県北部や山口県南部の市場での出荷記録があり、絶滅危惧種と呼ばれながらも漁業資源として利用されてきていた。ただし、1999年における年間の出荷量は966尾、2011~2012年においては23尾と少ない。
1999年における年間の出荷量の94%が建網での漁獲であり、その他定置網、遊漁でも漁獲される場合がある。このため、評価対象漁業は建網とする。
該当する建網はカレイ建網とよばれ、潮流などに流されないように、網の下辺が海底に着地、沈子(ちんし)を重くした刺網である。三重網で、一つの漁具は長さ20~300m、高さ1m前後、操業時には順次つないで、総延長は数百mから1kmを超えることもある。1~2トン程度の小型船での操業が多い。乗組員1~2人。磯ぎわ、藻場、砂泥地で、海岸線と平行に、あるいは蛇行して、または磯を取り巻くように設置。混獲される利用種:カレイ類(マコガレイ、イシガレイ、メイタガレイ)、コチ(マゴチ)、スズキ、非利用種:アカエイ、希少種:カブトガニ、ナメクジウ。このうち、ナメクジウオは建網での漁獲はないと判断されるので除外する。
建網が1回の操業で取り囲む面積は、沖合2kmの位置に直線的に入れる、建網の長さを1km、干満差の激しい中津干潟において海岸線から沖合と同等の距離が漁獲範囲であると仮定すると4km2が建網の影響が及ぶ面積である。操業は通年で大分県の資源動向調査の標本船の操業日数は189日であった(大分県浅海研究所情報)。操業時間は、潮止まり前後や、夕刻、早朝の数時間程度のものあれば、半日程度置いておく場合もある。
資源の状態
1999年において、市場調査および漁業者からの聞き取り結果によると、急激な漁獲尾数の低下は見られていなかった。資源量はほぼ安定していたと判断されている。2011年の市場調査では、水揚げ尾数が1999年の2%まで減少している。釣りCPUEの結果では、2011年級が卓越と報告されているが、資源状態についての続報はない。絶滅危惧種として位置づけられており、漁獲動向から判断して回復の局面に入ったとは判断できない。
初夏に河口の水の澄んだ干潟に出現し,梅雨頃に産卵を行い,若魚は河川|にも出現する。 水温の低下に伴い沖合に向かつて移動するが、冬季も水深約15m 以浅の沿岸域で過ごすとされており、主に水揚げされている建網の操業範囲にある。16.0~35.0cmのアオギスが建網で採捕されており成熟年齢以下の個体が一般に漁獲される。建網漁業がアオギスに及ぼす影響は中程度であり、希少種のアオギスに対して若干の懸念がある。
生態系・環境への配慮
アオギスが主に獲られる漁業である建網で混獲される利用種カレイ類(マコガレイ、イシガレイ、メイタガレイ)、コチ、スズキ、混獲非利用種であるアカエイ、絶滅危惧種であるカブトガニについてPSA(Productivity Susceptibility Analysis)により検討したところ、建網漁業がこれら魚種に及ぼすリスクは、マコガレイ、イシガレイで中程度、メイタガレイで低、マゴチは中程度、スズキは低、アカエイは高、カブトガニは中程度と判断される。
構築された周防灘における生態系モデルEcopath with Ecosimで設定されたモデルの構成グループにおいてその食性からアオギスはSmall benthivorous fish(ネズッポ、ハゼ類)、カレイ類はFlatfish(カレイ類、ウシノシタ類)、マゴチはLarge benthivorous fish(エイ類、カサゴ類、フグ類)、カブトガニはSmall benthivorous fish、スズキはJapanese seabass、アカエイはLarge benthivorous fishに属すと考えられる。スズキはPiscivorous fish(ウナギ類、カマス、エソ、タチウオ)とならびモデル内のTop predatorと位置づけられている。生態系モデルベースの評価により、建網の食物網を通じた捕食者及び餌生物への間接影響は持続可能なレベルにあると判断された。
周防灘において、カレイ類、シャコ、アサリなどの漁獲量の減少が続いている。シャコは建網の対象魚種ではなく、生態系モデルによる検討でも建網漁業が間接的にシャコの現存量に影響していない。アサリが属するベントスに対しても建網は直接の漁獲対象ではなく、間接的な影響も出ていない。ただしカレイ類、頭足類については、建網漁業が影響する可能性がある。また周防灘において水温の経年的上昇が見られており、ナルトビエイの出現など高温化の影響が推測される。現状で低位・減少など資源状態が懸念される魚種があり、生態系における地位と機能に変化の兆しが一部で見られている。建網漁業による影響の強さは重篤ではないが、生態系特性の変化や変化幅拡大などが一部起こっている懸念がある。
建網は着底はするが、掃海する漁具ではない。建網漁業が周防灘の海底環境に及ぼす影響はSICAを用いて評価した。SICA(Scale Intensity consequence Analysis)により当該漁業が海底環境に及ぼすインパクトおよび海底環境の変化が重篤ではないと判断できた。
漁業の管理
アオギスは環境省レッドリストの絶滅危惧ⅠA類(CR) 69種の1種に分類されている絶滅危惧種である。我が国では東京湾を北限とし、伊勢湾、紀ノ川河口、吉野川河口、別府湾、豊前海から瀬戸内海西部、鹿児島県吹上浜などに生息していたが、現在では豊前海周辺や瀬戸内海西部、鹿児島県吹上浜で稀に漁獲が確認されているが、その他の場店では絶滅した可能性が高い。報告されている漁獲量のうち、94%が大分県漁業協同組合中津支店の建網漁業で漁獲されているため、評価対象漁業は建網とする。対象海域は瀬戸内海周防灘、中津干潟を対象海域とする。
我が国の漁業管理は、中央政府や地方政府による公的管理(トップダウン的管理)と、漁業協同組合や業種別団体などの漁業者組織による自主的管理(ボトムアップ的管理)を組み合わせた共同管理(Co-management)によって、多様な資源や漁業種類および陸上での利用法に応じたきめ細かい管理施策が実施されている。一般的に、沖合や遠洋で操業される大規模漁業では政府による公的管理が、沿岸で操業する小規模漁業では漁業者組織による自主的管理が、相対的に大きな管理上の役割を担っているが、両者を相補的に組み合わせた共同管理全体を高度化していくことが重要である。
まず公的管理の概要は以下の通り。アオギスは絶滅危惧IA類(CR)対象種であるが、漁獲は少なく、魚種別の保全措置は講じられていない。大分県漁業協同組合中津支店では、県知事が付与した第2種共同漁業権に基づいて建網漁業によって漁獲が行われており、その着業者数・網数などは公的に制限されている。中津支店は、会員である各漁業者からほぼ毎日報告される漁獲量を集計し、操業を管理するとともに、各種情報提供・指導等を行っている。しかし、これらの管理は建網全体に関するものであり、アオギスを対象とした管理は行われていない。ただし、アオギスの産卵場である干潟については、民間の団体が中心となって保護が進められている。
地域の持続性
アオギス瀬戸内海系群で報告されている漁獲量のうち、94%が建網で漁獲されている。このため、評価対象漁業は建網漁業とした。対象海域は瀬戸内海周防灘、中津干潟として、建網漁業を対象に地域の持続性を評価とした。対象とする都道府県は、本漁業に関連する水揚げ港や加工流通業が存在する大分県とした。本漁業の水揚げ量などの情報は研究調査報告などを使用した。漁業経営の状況や地域の加工・流通業への貢献の状況については、データが入手不可能な場合は各県の漁業全体もしくは加工業全体の情報で代替して評価した。
漁業者数は大分県漁協中津支店に属する正組合員、准組合員合わせて146名。建網漁業は干潟と沖合の中間域で行われている。そのため日をまたがない漁業である。漁獲量は年間636~2,214トン、漁獲金額は6億~15億円である(平成12~21年)。中津干潟は日本三大干潟のひとつで、自然環境豊かな干潟だが、近年の温暖化などの環境変化の影響を受けやすいため、影響を受けた魚種を中心に増殖の取り組みが行われている。
過去10年で漁獲量、漁業者数ともに4割から5割ほど減少しているが、残存漁業者の経営は近年比較的安定しており、また市民団体とともに干潟の回復などの取り組みが積極的に行われている。地域経済の中で水産業が経済に寄与する割合は小さく、公共サービスの水準も全国平均より低いことが想定されるが、伝統を守る取り組みも地域でなされており、地域の持続性を高めようとする努力が続けられている。
健康と安全・安心
アオギスは、かつては東京湾でシロギスとともに漁獲、食用とされていたが、現在は絶滅危惧種となっており、栄養機能については不明である。漁獲されていた頃は、青臭いので寿司種には使用されない以外は、シロギスと同様の利用がされたことから、肉質等はシロギスに近いものと考えられる。旬はシロギスと同様に夏で、かつては八十八夜から漁期となり、アオギスの脚立釣りが江戸前の風物詩となっていた。
引用文献▼
報告書