瀬戸内海は古くより漁業、養殖業が盛んであり、水産機構瀬戸内海区水産研究所、及び各府県に設置された水産試験研究機関が養殖産業を支えるため永年に亘り海洋環境、プランクトン等の低次生産生物に関する調査を行い、知見を蓄積している。瀬戸内海東部海域では、水産機構の調査船によって海洋環境及び漁業資源に関する調査が毎年実施されている。その規模は、平成27年度には2隻で11航海(延べ68日)である。また当該海域を擁する関係府県の水産試験研究機関では、原則月1回の海洋観測を初め、プランクトン、漁業資源などに関する調査を実施している。イカナゴについては漁獲の大半を占める兵庫県によって、主要漁協・標本船の日別漁獲量、出漁統数が調査されている。ただし、混獲や漁獲物組成に関する情報は十分得られていない。
船びき網の同時混獲種は年計でみるとカタクチイワシが挙げられるが、東部兵庫県の船びき網は2~4月がイカナゴ漁期で、4月中旬~6月下旬、9月下旬~12月上旬はシラス狙いとなっており、対象により漁具も交換するなど時期的な獲り分けが行われているため、同時混獲種はなしとする。混獲非利用種としてマアナゴ(幼生期に混獲される)などが挙げられる。PSA評価の結果,影響は低いとされた。希少種のPSAスコアは全体的にリスクが低いことを示している。
【食物網を通じた間接影響】
イカナゴは多くの魚食性動物の餌生物となっている。当該海域の捕食者としてマダイ、タチウオ、サワラ、スズキ、アナゴ、ブリ、ヒラメ、カワウ、ウミネコ、スナメリについて資源量あるいは漁獲量の時系列を検討したところ、一部の捕食者に減少傾向が認められた。これは、イカナゴ漁業の影響であるよりもむしろ、海砂の採取による環境改変やDINの減少がイカナゴ資源の生息環境の悪化と資源の減少をもたらし、その影響が捕食者にも及んだ可能性が高い。イカナゴの餌生物は主にカイアシ類など動物プランクトンである。兵庫県のプランクトン沈澱量調査結果から餌生物への影響は見られないとした。イカナゴの競争者はカタクチイワシと考えられる。カタクチイワシ瀬戸内海系群の資源状態は中位・横ばいであり、漁獲の影響は認められない。
【生態系全体への影響】
評価対象海域は面積が限られているため船びき網漁業の空間規模は相対的に大きいものの、瀬戸内海区全体の生態系構成種の栄養段階別動向をみると、高次捕食者についてはサワラ、マダイは増加傾向、ヒラメ、スズキは緩やかな減少傾向で全体としては定向的な変化はみられない。高次捕食者の餌生物であるカタクチイワシ、イカナゴの資源水準は中位・横ばいである。餌生物である動物プランクトンの指標であるコペポーダ卵分布量などについては長期の資料には乏しかったが横ばい傾向であり、いずれの栄養段階についてもイカナゴ漁業が重篤な影響を及ぼしている兆候は認められない。漁獲物の平均栄養段階についても3.1前後でほぼ安定している。
【大気・水質環境への影響】
漁船からの海洋への汚染や廃棄物の投棄については法令によって規制され、必要な設備が船舶検査証書の交付に必要な検査の対象となっていることから、検査に合格しなければ航行できない。また、最近の法令違反送致内容からみて船びき網漁船の検挙例は見当たらなかったため、対象漁業からの排出物は適切に管理されており、水質環境への負荷は軽微であると判断される。大気環境への影響は、重量べースのカーボンフットプリントは他漁業と比べて中間的な値であり,影響が軽微であるとは言い難い。