マサバ(兵庫県 日本海)
スズキ目、サバ亜目、サバ科に属し、学名は Scomber japonicus。体は紡錘形で横断面は楕円形。全身に小鱗を被るが剥離しやすい。背部は緑色の地に黒色波状紋が見られる。腹部は銀白色。本種はゴマサバに酷似するがゴマサバは腹部に不規則な小黒点が存在する。
分布
マサバ対馬暖流系群の分布は、東シナ海南部から日本海北部さらに黄海や渤海にも及ぶ。春夏には索餌のために北上回遊し、秋冬には越冬・産卵のため南下回遊する。日本海北部で越冬する群もある。
生態
成長は海域や年代等によってやや異なるが、ふ化後1年で尾叉長25~28 cm、2年で29~32 cm、3年で33~35 cm、4年で36 cm、5年で37 cmに達する。寿命は6歳程度と考えられる。産卵は東シナ海南部の中国沿岸から東シナ海中部、朝鮮半島沿岸、九州・山陰沿岸にわたる広い海域で行われる。産卵期は南部ほど早く(1~4月)、北部ほど遅い(5~6月)傾向がある。成熟年齢は1~2歳で、1歳で産卵に参加する個体が60%、2歳では85%、3歳以上では100%と見積もられている。オキアミ類、アミ類、橈脚類などの浮遊性甲殻類とカタクチイワシなどの小型魚類を主に捕食する。幼稚魚は魚食性魚類に捕食されると考えられる。
利用
いわし類と並ぶ最も一般的な大衆魚として煮魚、塩焼きとして食用とするほか、缶詰や塩蔵品に加工される。小サバは養殖魚の餌料としても用いられる。
漁業
対馬暖流域のマサバのほとんどは、大中型まき網漁業及び中・小型まき網漁業で漁獲される。主漁場は東シナ海、韓国沿岸、九州北西岸、日本海西部であるが、2011年以降、九州北西岸及び日本海西部での漁獲が多い。
主要漁業である大中型まき網漁業で使用される網船の大きさは、80トンあるいは135トンである。また小型まき網では19トン船が多い。まき網では、素群れを魚探やソナーで探索して巻いており、FAD(人工集魚装置)の使用やサメまきは行っていない。
資源の状態
マサバは我が国周辺における重要水産資源であり毎年コホート解析により年齢別資源量が算出され、それに基づいて漁獲可能量(TAC)が算出されている。コホート解析に必要な漁獲量、年齢組成、更に次年度の資源量予測に必要となる年齢別成熟割合、近年の再生産成功率、加入量などのデータは国の委託事業として水産研究・教育機構(以下、水産機構)、関係都県により毎年調査され更新されている。対馬暖流系群の資源量は1989年まで100万トン前後で比較的安定していたが、その後増減を繰り返し2000年以降は50万トン前後に留まっている。しかし、2014年以降の高加入により資源量は急増し、2015年の資源量は77万トンと推定されている。2015年現在資源水準は低位にあるが、増加傾向にある。現状の漁獲圧は生物学的な管理基準であるFmed(親子関係のプロットの中央値に相当する漁獲係数)よりわずかに低い。将来予測では現状の漁獲圧が続いた場合、2020年に親魚量が低位水準と中位水準の境であるBlimitを上回る確率は59%と見積もられている。資源評価結果は公開の会議で外部有識者を交えて協議されるとともにパブリックコメントにも対応した後に確定されている。資源評価結果は毎年公表されている。
生態系・環境への配慮
日本海西区はブリ、マアジ、スルメイカなど重要水産資源の分布と水温の関係などに関する研究は豊富であるが、海洋環境と基礎生産力、低次生産の関係など生態系に関する研究例は限られている。海洋環境及び漁業資源に関する調査は毎年多数実施されている。評価対象漁業による魚種別漁獲量は把握されているが混獲非利用種や希少種について漁業から情報収集できる体制は整っていない。
まき網の混獲利用種であるゴマサバ、ブリ、マイワシ、マアジのうち資源状態が懸念される種は存在しなかった。混獲非利用種については、両漁業とも情報がなかった。当該海域に分布する希少種に対する両漁業の評価はともに全体では低リスクであった。
マサバ捕食者と考えられる大型魚食性魚類、海産ほ乳類の間接影響について、マサバの漁獲が要因となる資源状態の懸念は見いだせなかったが資源動向が不明な種が存在した。マサバの餌料である動物プランクトン、カタクチイワシについてマサバの影響は見出せなかった。競争者と考えられるゴマサバ、マアジについては資源状態が懸念される状態ではなかった。生態系全体、海底、水質、及び大気に対して、大中型まき網、中・小型まき網とも影響は軽微と考えられた。
漁業の管理
マサバ対馬暖流系群日本海西区については、主に大中型まき網、中・小型まき網漁業で漁獲が行われている。同一資源を中国、韓国と漁業共同委員会を通じても利用している。大中型まき網漁業での漁獲量は、島根県と鳥取県、中・小型まき網漁業では島根県が多い。インプット・コントロールとともにTAC対象魚種であるためゴマサバと共にアウトプット・コントロールもなされている。かつての資源回復計画と同様の努力量、小型魚保護の規制を資源管理指針、計画の中で継続している。
地域の持続性
日本海西区におけるマサバ対馬暖流系群は、鳥取県、島根県の大中型まき網、島根県の中・小型まき網で大部分が獲られている。収益率のトレンドは低かったが、漁業関係資産のトレンドは高かった。経営の安定性については、収入の安定性・漁獲量の安定性ともに中程度であった。操業の安全性、地域雇用への貢献はともに高かった。一方、鳥取県、島根県では少ない産地市場において、比較的大人数の買受人参加の下でセリ取引、入札取引が行われており、競争原理は働いている。卸売市場整備計画により衛生管理が徹底されている。大きな労働災害は報告されておらず、地域雇用への貢献も比較的高く、本地域の加工流通業の持続性は中程度と評価できる。先進技術導入と普及指導活動は行われており、物流システムも整っていた。水産業関係者の所得水準はおおむね高い。火光利用をする漁法は形を変えて引き継がれている。各県では伝統的な加工法や料理法が数多く伝えられている。
健康と安全・安心
マサバには、細胞内の物質代謝に関与するビタミンB2、骨の主成分であるカルシウムやリンの吸収に関与するビタミンD、体内の酸化還元酵素の補酵素として働くナイアシン、抗酸化作用を有するセレンなど様々な栄養機能成分が含まれている。脂質には、血栓予防などの効果を有するEPAと脳の発達促進や認知症予防などの効果を有するDHAが豊富に含まれている。また、血合肉には、ビタミンAとD、鉄、タウリンが多く含まれている。ビタミンAは、視覚障害の予防、タウリンはアミノ酸の一種で、動脈硬化予防、心疾患予防などの効果を有する。旬は脂質含量が最も高くなる秋である。利用に際しての留意点は、ヒスタミン中毒と生食によるアニサキス感染防止である。ヒスタミン中毒は、筋肉中に多く含まれるヒスチジンが、細菌により分解、生成したヒスタミンによるものであるため鮮度保持が重要である。アニサキスは、死後の時間経過に伴い内臓から筋肉へ移動するため、生食には、新鮮な魚を用いること、内臓の生食はしない、冷凍・解凍したものを刺身にするなどで防止する。なお、アニサキスは、日本周辺には2種が生息し、九州や四国に主に分布するアニサキスはアニサキス症の原因にはほとんどならないことが報告されている。
引用文献▼
報告書